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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第20話 朝のランニング

 翌朝、目が覚めるともはや昨日のダンジョンで大けがをしたショックは一切残っていなかった。ポーションの効果もすごいが、これが十代の回復力だ。

 俺の毎朝のルーティーンは毎朝五時に起きるところから始まる。

 準備体操を終えたら、朝食前に寮の周りを約10km走る。

 これを中学の時からずっと続けている。

 前世の記憶が蘇った今、これが異常だということは感じている。

 一ノ瀬シロウの体力は有り余って仕方ないのだ。前世では若いころでもここまで元気が余ってはいなかった。

 俺はこれまで部活動はやって来なかったが、このランニングだけは続いていた。体力が有り余っているから走っているというのもあるが、ランニングは全身運動だし心肺機能も鍛えられる。そのお陰で体力だけは自信があり、どんなスポーツでも得意だった。

 おそらくこの体力は今後の迷宮探索にも大いに役立つだろう。だからこれからも続けていくつもりだ。


 学園の敷地内を走っていると、目の前に俺と同じようにランニングをしているジャージ姿の女子生徒がいた。俺と違ってかなりスローペースだが。

 段々近づいていくとその女子がクラスメイトだと気づいたので、俺は声をかけた。


「百田さんおはよう!」


 声をかけられたクラスメイトの百田マイカは、驚いて振り返った。


「あっ、一ノ瀬君。お、おはよう」


 俺は走るペースを落とし百田と並走する。


「百田さんも毎朝走ってるの?」


 驚いた表情のままの百田を見て、教室でもほとんど話したことがないのに馴れ馴れしすぎたか?と不安になる。

 と、よく考えたらそもそも百田と話すのは初めてかもしれない。


「う、ううん。毎朝じゃないんだけど」


 少し恥ずかしそうに視線を落として答えてくれた。

 そう言えばこの子はダイエットのために迷宮探索を始めたと言ってたな。ランニングはカロリーを消費するからダイエットには効果的だろう。あまり鍛えすぎると筋肉がつきすぎてしまうおそれがあるが。


「そう言えば百田さん、昨日放課後魔法スキルの練習してたね?どう?上手く使えるようになった?」


「えっ?あっ、み、見てたの?」


「ああ。俺も放課後に少しダンジョンに潜ってたんだ」


「そうなんだ……すごいね……私なんか……」


 何やら自信なさげで、声のトーンが落ちてゆく。


「まだ上手くできなかったの?」


「う、うん……」


 こういう時、やればできるとか根拠のないことを言っても仕方がない。とにかく努力するしかないだろう。


「じゃあこつこつ練習するしかないね。お互いがんばろう!」


「う、うん」


 そもそも俺自身コミュ障なのに、この子もまあまあのコミュ障のようだ。会話が続かない。

 気まずくなった俺はさっさと別れを告げた。


「じゃあね」


「う、うん」


 俺はペースを上げ、再び走り出した。


・・・・・・・・


 登校して席に着くと、クラスメイト達が昨日のことを聞きに俺の周りに群がってきた。

 関係のない隣の席の赤石は、群がる奴らを迷惑そうにしている。すまん。


「ねえねえ一ノ瀬君!ランク4ポーションがドロップして使ったって本当なの?」


「あ、ああ」


 身を乗り出して聞いてきたのは、紺野五十鈴こんのいすずという女の子だ。


「もったいない!高く売れたのに!」


「使っちゃったもんはしょうがないだろ」


「じゃあさ、今度ドロップしたら私に売ってよ!」


「おまえ値段知ってんのかよ?確か一千万円くらいするって聞いたぜ?」


「ふふ、バカね。それはこの学園で下取りしてもらう時の値段よ。世の中にはランクの高いポーションがのどから手が出るほど欲しいお金持ちがたくさんいるんだから」


「転売する気か?」


「人聞きが悪いわね。私の家はダンジョンの近くで探索者向けの雑貨屋をやってるのよ。買い付け、もしくは仕入れと言って」


 そういえば自己紹介の時にそう言っていた気がする。

 しかしこいつ、もしランク4が手に入ったらいくらで売るつもりでいるのか?信じられない金額で売りつけるに違いない。

 そもそも俺は必要以上のお金を稼ぎたいわけではないのだ。

 金なんて趣味と実用に使うのに困らないだけあればいい。俺の場合、迷宮装備品、趣味のゲームやDVD、そして食い物が好きなだけ食えたらそれでいい。その中でも迷宮装備品は下層へ行けば行くほど金がかかるだろうが、今はまだ第一層しか探索したことがない。だからそんなに大金は必要ないのだ。だから……


「万が一ランク4がまた手に入ったとしても、お前には売らないよ」


「なんでよ!」


「金儲けのためならなんでもいいわけじゃないんだ。それに先約がいるしね」


 そう。紺野よりも先に、A組の九条ヒカルに売ると約束したのだ。


「先約って誰よ?」


「1-Aのお嬢様だよ」


「まさか九条ヒカル?なんで?どこにあんたと彼女につながりがあったのよ?」


「つながりなんてないよ。たまたま会って言われたんだよ」


 たまたま会ったのは彼女の側近の如月メイで、お嬢様はその後すぐに医務室に俺を訪ねに来てくれたわけだが、細かい説明は面倒なので適当に伝えた。


「そうか……貴族が相手じゃ仕方ないわ……」


 九条ヒカルの名前を出すと、紺野は意外とあっさりと諦めた。


「まあ、またランク4が手に入るとは思えんけどな」


「確かにね」


 その後も他のクラスメイトたちから、怪我のことやアシッドスライムのことなど質問攻めに会った。非常に疲れる。そもそも俺はこんなに大勢の人から話しかけられるのは慣れていないのだ、勘弁してほしい。


 そんな感じで朝の時間を過ごしていたら、まだ朝礼には早い時間なのに担任の真島が慌てた様子で教室に入ってきた。


「一ノ瀬はいるか?」


「はーい、います!」


 俺が返事をすると真島は手招きをする。


「ちょっと来てくれ」


 内心めんどくさいなと思いつつも、俺は入り口にいる真島の元へ行った。


「今、職員会議をしてるんだが、悪いがお前も一緒に来てくれ」


 どういうこと?

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