第18話 ランク4ポーションの効果
職員会議が長引いていると職員室から医務室に電話がかかってきて、俺たちは真島が戻ってくる前に帰宅してよいということになった。
だが俺は帰宅する前にどうしても一つ確認したいことがあり、再びダンジョンの入口へと来ていた。
ランク4ポーションの力はすごい。怪我を一瞬で治してしまうだけでなく、記憶喪失になっていた俺の記憶も取り戻してしまった。専門的な事は分からないが、脳内のシナプスを修復するのだろうか?ともかく想像を越える凄さだ。
そして、思うに自分が思い出したいと強く念じている事柄ほど、鮮明に記憶が蘇るのだと思う。
記憶を失う直前の事を思い出したかったので、入学式くらいからダンジョンの中で崖から落ちて記憶を失うまでをはっきりと思い出すことができたのだと思う。
そしてもう一つ、俺がダンジョンに入る前に強く思い出したいと思っていたことがあった。
それは俺が5歳の時に父と行ったアリゾナダンジョンの事だ。
俺はスキルオーブを手に入れたのか勘違いだったのか、それがすごく気になっていた。
だからランク4ポーションの力で思い出したのだ。10年前に迷宮であった出来事を。
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父と現地ガイドの会話は理解できなかった。
今なら多少は英語は理解できるのだが、当時の自分が理解できていなかったので思い出せないのだろう。
父と現地ガイドが話に夢中になっている時、俺はだんだん退屈に感じてきていた。
最初はダンジョンを冒険すると聞いて、すごくワクワクしていたのだが、スライムが出ても危ないからと俺には戦わせてもらえず、父がガイドの指示の元に鉄パイプのようなもので叩いて倒していくのをただ眺めていた。これじゃあ父が遊びに行くのについてきただけの付き添いだ。
退屈した俺は、何か面白いものはないかあたりをきょろきょろと見まわしていた。そして岩と岩がもたれかかったような隙間、子供1人が四つん這いで倒れそうな横穴を見つけたんだ。
蘇った記憶の中の景色は、まるで昨日のことのように鮮明だった。
横穴を抜けた先にあった空洞の真ん中に鎮座していたスキルオーブ。そう、初めて見たが俺はそれがスキルオーブだと確信した。5歳の俺は父親に見せたら褒めてもらえると思い、掴もうと両手を伸ばす。
今なら分かっている事だが、スキルオーブは人間の体に触れるとその人間に吸収される。持ち運ぶには無機物で触らなければならないのだ。
だからそれを掴もうとした俺の両手の中でスキルオーブは消滅した。正確には俺の体の中へと取り込まれたのだが、その時は理解できなかった。
父に報告しようと発見した宝物を無くしてしまった、父に怒られてしまうとなぜか勘違いした5歳の時の俺は困惑した。次の瞬間、さらに困惑する出来事が発生したのである。
一ノ瀬シロウ LV1
スキル:スキル偽装▶
パーティー:なし
スキルボードがないのにも関わらず、俺の目の前の空中に俺のステータスが表示されていた。
そして驚くことに、そこには俺が新しく手に入れたスキルが表示されていた。スキル偽装。この時は漢字が読めなかったが、今なら読める。偽装、ある事実を隠すために他の物事・状況を装うこと、カモフラージュ。
俺はスキルを隠すスキルを手に入れていたのだ。そしておそらくそのスキルの能力で、スキルボードがないのにも関わらず、目の前に俺のステータスが表示されたのだ。
今ならその状況を理解できるが、5歳の俺はどうしたらいいか分からずにただ困惑した。すると俺が見当たらないことに気づいた父の俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
俺は慌てて目の前に浮かぶこのステータス表示を消さないと、怒られてしまうと思った。
どう消そうかと手を伸ばす。なぜか感覚的に、タブレットを操作するようにこの表示も操作出来そうだと考えてしまう。
俺は人差し指でスキル偽装の文字に触れる。
するとステータス表示は変化した
スキル偽装◀
・スキル偽装・・・表示
よくわからず、この時俺は表示というところを触った。
スキル偽装◀
・スキル偽装・・・非表示
すると、「表示」という文字が「非表示」へと変わり、スキル偽装という文字の色が黒からグレーに変わった。
この時俺は、この意味が分からず、とにかくこの表示を消したいんだよと強く念じた。
次の瞬間、目の前に浮かんでいた表示は消えた。
俺はほっとして、俺の名を呼ぶ父に返事をし、父のところへと戻って行った。
それが俺が思い出した10年前の記憶だ。
俺はやはり10年前にスキルを手に入れていたのだ。
そのスキルの名は「スキル偽装」
そしておそらく俺はこの時入手したスキル、スキル偽装を使って、スキル偽装を非表示にしていた。
だからこのダンジョン学園に入学してスキルボードに触れた時には、なんのスキルも表示されなかったのだ。
これは不幸中の幸いかもしれない。
スキル偽装だなんていうスキルは、今まで聞いたことがない。間違いなくユニークスキルだ。公になったらなんかマズい気がする。ヤベースキルな予感…いや確信がある。
どれだけヤバいスキルなのか……それを確認するために俺はダンジョンの入り口へとやってきた。