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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第17話 医務室

 迷宮から出た俺は、念のため医務室へと連れてこられた。

 Tシャツを脱ぎ椅子に座った俺は医務室の城之内先生に怪我を診てもらっている。

 俺の怪我はポーションで完治しているので城之内先生も一応確認しているだけという感じだ。


 医務室の城之内ミドリ先生は若い女性の先生だった。美人だ。きれいな女性に体をじろじろと見られるのは非常に照れる。おそらく20代だろうが、分からない。もしかしたらもう少し上なのかもしれない。女性に年齢を聞いてはいけないのだ。

 担任の真島は城之内先生に事情を説明した後、俺のことを学園に報告しに行った。千堂と榎島はあまり大人数で医務室に行くのも邪魔になると先に教室へと戻っていたが、付き添いで紫村が付いてきてくれていた。


「大丈夫よ。足の骨折もきれいに治っているし火傷なんて跡形もないわ。さすがわランク4ポーションね」


 そう言われて俺はTシャツを着る。

 その間も後ろでは紫村が黙って立っていた。


「それにしても災難だったわね。初日から骨折するほどの大怪我したなんて学園創立以来初めてじゃないかしら?」


「そ、それは不名誉な新記録を作っちゃいましたね……」


 俺は恐縮する。

 すると突然後ろに立っていた紫村が声をかけてきた。


「許してくれ一ノ瀬君」


「おっ?」


 突然の謝罪にうろたえる俺。


「僕が取り乱して君を突き飛ばしてしまったせいで大けがをさせてしまった。悪気はなかったんだ。本当にすまない!」


 そう言って頭を下げる紫村。

 俺は何と答えていいか少し考えてしまった。


「ま、まあ気にすんなよ」


 考えて出てきたのはそんな軽い言葉だった。

 そういえば俺が崖の下へと落ちて怪我をしたのは、こいつが天井から落ちてきたスライムにパニクって俺を突き飛ばしたせいだった。

 確かによく考えればバカヤロウと怒鳴ってやりたいが、前世の記憶やらアシッドスライムやらポーションやらいろいろとあったせいで、もう落ちた原因なんてどうでも良くなっていた。

 それに今更紫村を責めてもどうにもならないだろう。


「許してくれるのか…?」


 紫村は絞り出したような声でそう問いかけてきた。


「許すも何も、お前は真島先生に助けを呼びに行ってくれたんだろ?お前たちに見捨てられてたら俺も今頃どうなってたか分かんないからな。逆に助かったよ、ありがとう」


「み、見捨てるわけがないだろう!それよりも君が崖の下でどうなっているかも考えず全員で真島先生に助けを求めに行ってしまった。二人に救援に行かせて、僕だけでもがけ下へと助けに行くべきだった……」


「まあ、その反省は今後に生かせばいいじゃん」


 どうやら紫村の中では俺を落とした罪悪感でいっぱいだったようだ。俺は正直もうどうでもいい。

 へらへらと笑う俺に、紫村も困惑しているようだ。

 そんな紫村に城之内先生が声をかける。


「許してくれたならよかったじゃない。人によっては根に持って仕返ししたり、悪口を言いふらしたりするからね。パーティーを組む相手も選ばないといけないわ。良い友達を持ったわね」


「はっ?友達じゃない……」


 城之内先生の言葉を全力で否定する俺。


「違うの?」


「違います。パーティー組む人がいなかったんで、今日はたまたま入れてもらっただけです」


「なんでそんなに強く否定するの?」


 はっきり言って俺はこの紫村とはあまり関わり合いになりたくはないと思っている。

 だってこいつは貴族に対して強い反感を持っていて、入学式で学園中の貴族に喧嘩を売ってしまうほどだ。

 俺は貴族なんてどうでもいい、迷宮探索を楽しみたいだけなんだ。

 紫村と仲良くしすぎたら敵が増えすぎてしまう。


「そうだな。友達ならば必ず助けに来てくれると僕を信じてもらえたはずだが、僕が友達じゃなかったせいで君には不安な思いをさせたんだな。すまない……」


 なんじゃそりゃ?根暗か?

 とにかくこいつ面倒くさいな。絶対に仲良くなりたくない。

 城之内先生も、紫村は何を言っているんだ?という不思議な顔をしていた。

 その時、医務室のドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します」


 そう言って女生徒が二人入ってきた。

 俺たちの視線がそちらへと移る。


「どうしたの?怪我でもした?」


「いえ、こちらに今日迷宮で怪我をしたDクラスの生徒が来ていると聞いたのですが……あなたがそうかしら?」


 そう言ったのは、入学式前に広場で見たあの女生徒。

 Aクラスの九条ヒカルだった。


「俺だけど……何か?」


 何をしに俺を訪ねてきたのか?心当たりは全くない。なんなら話しかけないでほしい。この女は紫村に続いて仲良くなりたくない人間ナンバー2だ。


「あなたが?初めまして、私はAクラスの九条ヒカルよ」


「あ、ああ知ってる。入学式の前にこいつと揉めてるとこ見てたから」


 そう言って俺は紫村を指さす。

 紫村はすごい複雑な顔をしながら九条ヒカルを見ていた。


「あなたは……紫村さんね?あの時は失礼したわ。そういえばあなたもいたわね……それで名前は?」


「あ、ああ。Dクラスの一ノ瀬シロウだ」


「一ノ瀬さんね。あなた今日怪我をしてランク4ポーションを使ったというのは本当かしら?」


「もう知れ渡ってんの?」


「メイに聞いたのよ。それで……、もしまたランク4ポーションを手に入れた時には売ってくださるというのは本当かしら?」


「メイ?」


 見ると九条ヒカルの後ろに立っているショートカットの女子に見覚えがあった。


「……。ああ!あの時の子か!思い出した。名前すら名乗んなかったからさ」


「すいません。ランク4と聞いて驚いていたので。如月メイです」


 そう言ってメイという子は頭を下げた。


「彼女は私の付き人で一番の友人よ」


「そっか。確かに言った。だけどたぶんもう無理だと思うぞ。あんなん出るのは一生に一度じゃないか?」


「もしもでもいいのよ」


「ああ、それでいいなら。でもなんでそんなに欲しがるんだ?学園のダンジョンなんてめったに大怪我をしないんじゃないか?ランク1か2で充分じゃないの?」


「そうね。でも貴族にとってはランクの高いポーションを持っていることがステータスなのよ」


「なるほど。でもそれなら普通に買えばいいんじゃないの?」


「ランク4なんて、めったに出回らわないわ。運よく我が家の手に入っても、まずは私の兄に渡されるでしょうね」


「そうか。それで少しでも入手できそうな伝手があったら押さえておきたいってことね、なるほど分かったよ。それじゃもし手に入ったらお嬢様に売るよ」


「本当?ありがとう!もし本当に売ってもらえるなら、その時は市場価格の倍出すわ」


「おお!太っ腹!それならやっぱりポーション使わずに帰ってくればよかったな、ハハハ。ところで、市場価格っていくらくらいなんだ?」


 俺のその言葉に、医務室にいる一同が沈黙する。

 最初に口を開いたのは、城之内先生だった。


「あなた、ランク4の価格も知らずに使ったの?」


「え?もしかしてすごく高いんですか?」


 俺はおそるおそる聞いてみる。


「すごいなんてもんじゃないわよ。学園での買取価格は1000万円よ」


「え?!俺はあの一瞬で1000万円使ってしまったの?!」


 驚く俺を、みんなは冷たい目で見ていた。

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