第150話 紫村のスター性
「いや僕は……」
探索者服の店でいきなり店員から雑誌掲載用の服の着用モデルになってくれと頼まれた紫村は、戸惑いを隠せずにいた。
「そこをなんとかお願いできないかしら?どうしても今日中にデータを送らないといけないのよ。あなたみたいに若くて見た目の良い人なら申し分ないのよ。人助けだと思ってお願い」
店員は紫村の意に反して猛烈にアピールする。
仕方ない、助け舟を出してやるか。
「じゃあ俺が代わりに……」
「あっ、君はいいや」
「……」
赤石が俺の肩をポンと叩き、首を左右に振った。
そんな顔で俺を見るな。分かってる。顔面偏差値が足りてないということだろう?……分かっている。……分かっているさ。
すると千堂が紫村に声を掛けた。
「キョウヤ、良いじゃないか!ぜひ撮ってもらうといい」
「マモル?」
「雑誌に載せてもらえば世間への認知度が増えるだろう。将来世界一の探索者になって有名になるというおまえの目標の役に立つはずだ」
そう言えばそう言っていたな。
紫村の夢は世界一の探索者になって、その知名度で政治家になるんだと。
確かに探索者兼モデルとして知名度を上げるのも紫村の夢に一歩近づくチャンスだ。
「そうか、それもそうだね。店員さん。モデルの話、ぜひお願いします!」
「やった!そうこなくっちゃ!あなた、世界一の探索者を目指しているの?」
「ええ。そうなんですよ」
「それじゃあなたが活躍すればするほど、今から撮影する写真も有名になって、このお店も人気が出ちゃうわね!」
「ハハ。そうなるといいですね!」
店員はたぶん紫村のノリに合わせて言っているだけで信じていないだろうけど、紫村は本気だ。
そして先日の雷魔法の使い方や、沼部との試合を見る限り、紫村はたぶん化ける。おそらく日本でも有数の探索者になるポテンシャルを持っている。
もし将来、本当に紫村が探索者として有名になった時、この店員はどんなリアクションをするだろうか?
俺はそんなことを考えていたら、店員に案内されて紫村が新製品を着させられていた。
この店には俺の服を探しに来ていたはずだが……。
まあいい。一人で探そう。
俺は別の店員に声を掛けて、商品について質問していった。
そして、街で悪目立ちしない黒い防刃パンツと、動きやすくて丈夫で軽い防刃ジャケットを買うことにした。
値札を見て若干ビビる。パンツが5万円、ジャケットが10万円だ。いや、俺はポーションを売って稼いだお金があるからこれくらい余裕だ。預金残高は8ケタあるのだ。余裕なんだが、まだ庶民の金銭感覚が抜けていなくて支払う手が震えてしまう。
それはさておき、紫村はどうしているか探してみると、店外にでて通りで写真撮影をしていた。
なんかかっこつけて遠くを見ている姿を撮られている。
ノリノリじゃねえか。最初遠慮してた紫村はどこにいったのやら?いや、いいんだけどね。
まだしばらくかかりそうだと思い、俺は再び店内の商品を見て回る。
すると一つの商品が目に入った。
足元に置いてあったレースアップブーツだ。
本体は黒いレザーだが、つま先の部分だけシルバーの金属パーツが付いているのだ。
「安全靴?」
そう俺が漏らすと、店員が否定した。
「違いますよ。安全靴ならつま先を守る形で金属が入っているんですが、これは指先だけ厚さ20mmの鋼鉄が付いているんですよ」
「え?なんでですか?かっこいいから?」
「違いますよ。これはつま先蹴りで攻撃するための靴、つまり武器の一種なんです。でも全然売れてなくって」
「武器ですか!売れてないんですか?」
「ええ。実はちょっと重くて。ダンジョンをずっと歩くには疲れてしまうって不評なんです」
確かに疲れにくい靴が良いに決まっている。決まってはいるが、ちょっと俺はこのブーツに惹かれていた。
「これ試着してみてもいいですか?」
「ええ、もちろん!」
結果的に俺はそのブーツも購入した。
なんとこれも10万円。
だけど俺は時々蹴りも使っていたので、蹴りの威力が増すなら戦闘の役に立つはずだ。
買い物を終えた俺たちは、再び新宿ダンジョンの方へと向かった。
「結局紫村もジャケット買ったんだ?」
ショッパーバッグを持った紫村に俺は声を掛けた。
「うん。撮影用に着た新製品らしいんだけど、デザインとかも気に入ったんだ」
「新製品っていうと高かったんだろ?」
「それが、モデルをやったお礼に三割引きしてくれたんだよ」
「えっ?」
一緒に同行した俺には一切値引きしてくれなかったのに。しかも俺の方がたくさん買ってるのに……。
いや、金ならあるんだけど、でも抜けない俺の貧乏性。
俺が紫村の発言に小さなショックを受けていると、千堂が次の目的地について聞いてきた。
「次は僕の槍と、赤石君が何か新しい武器を探してるんで、武器屋に行きたいんだけど、やっぱり新宿ダンジョンビル内で買うのがいいかな?」
「いや、あそこは学園で売ってる武器と品ぞろえがあんまり変わらないんだ。それよりも探索者市で中古品を探した方が、珍しい武器やお買い得な武器が見つかるかもしれないから、そっちに行ってみようぜ」




