第15話 取り戻した記憶
初めてのダンジョン探索の授業中に、天井から落下してきたスライムに混乱した紫村をかばった俺は、崖の下へ滑落した。
落下の衝撃で足を骨折し、全身も打ったのだろう。とにかく身体中痛かった。そして同時に一時的に記憶を失った。
その時、なぜだか知らないが、おそらく前世と思われる記憶がよみがえった。
まるで前世の続きが今この瞬間のような時間的錯覚。だがすべてが一致しない。
そんな状況で頭の中が混乱したままの俺は、黄色いスライムに襲われ交戦し、ランク4ポーションを手に入れる。
その間におそらく紫村たちが担任に助けを求めに行って、そして担任の真島が救助に来てくれた。
普通崖から落ちた俺が怪我をしてると想像できるはずだが、残念ながら真島はポーションの一つも持って来なかった。
バカなのか?それとも無能なのか?
だが俺がたまたま手に入れたばかりのランク4ポーションがあったため、それを使う事で俺の怪我は即座に完治し、そして同時に記憶が全て蘇ったのだ。
俺は全てを思い出した。
俺の名は一ノ瀬シロウ、15歳。東京地下迷宮探索者専門学校一年生だ。
ここはそのダンジョン学園にある、深さ10層の低層ダンジョンの第1階層。
今日は4月4日木曜日。
前世の記憶もあるが俺がこの世界で生きてきた記憶もある。
俺が死んで別世界の俺の魂が入ったというわけではなさそうだ。
それにしてもこの世界は何だ?
ダンジョンとは何だ?
前世の俺の知る常識とかけ離れている。
場所は同じ東京、時も同じく令和5年。
だが今いるこの世界は前世の東京と歴史が途中で違っている。
この世界ではおよそ80年前に同時多発的に世界中に地下迷宮が現れた。
前世では地下迷宮など発生しないまま令和5年を迎えている。
ここは似て非なる世界だということだ。
「すごい治癒力だな……さすがはランク4ポーション」
よみがえった記憶を頭の中で整理していると、ポーションを使った俺の回復を目の当たりにした真島が驚いて呟いた。
確かにすごい治癒力だ。それは使った本人が一番びっくりしている。だがよく考えたらそんなことに驚いている暇はない。
「すいません、ご迷惑をおかけしました。戻りましょう」
「あ、ああ。大丈夫か?」
「はい。怪我だけでなく、記憶障害も治ったみたいです。全部思い出しました)
「記憶も戻ったのか?いやランク4だ、それも考えられるな……」
ぶつぶつ独り言を言いながら納得する真島。
そして俺と真島が縄梯子を上って崖の上に戻ると、そこには紫村たちが待っていた。
俺の姿を見た紫村は安堵の表情を浮かべ、俺に声をかけてきた。
「一ノ瀬君!大丈夫か?」
「担任を呼びに行ってくれたのは紫村か?ありがとう。助かったよ」
ボロボロの服を着た俺の姿に驚いている紫村に、俺は大丈夫だと伝える。
だがやはり紫村たちは俺のことを心配そうにしていた。
「でも……」
「ああ、この服か。下でアシッドスライムに襲われてボロボロになっちゃったんだけど、倒して出たポーションを使ったから怪我の方はもう大丈夫だ。ポーションで服もついでに直ればいいのにな」
「ポーションを?……そうか、なら良かった」
ポーションで怪我は完治したが、穴の開いた服は直らなかった。怪我は治るが、装備品の破損には注意が必要だ。
「だいぶ時間が経ったよな?もう授業は終わってる時間じゃないか?みんなを待たせていたら悪いから、早く戻ろう」
「そ、そうだな」
そうして俺たちは元来た道を戻って行った。
道中には、別のクラスが探索をしていた。
アシッドスライムに溶かされたボロボロの服を着た俺を見て、悲鳴を上げる女子もいた。
露出狂じゃねえから!
大事なところは穴空いてねえから!
授業が終わったはずの別のクラスの俺たちがいて、さらには俺の服がボロボロであることで、俺たちは注目の的になっていた。
視線が痛い……。




