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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第147話 紫村キョウヤ9 不退転の決意

 これは実質、第二剣術部の進退を賭けた戦いだ。

 僕が負けたら第二剣術部は校庭で練習ができなくなる。それは道場を持たない第二剣術部は、今後十分な練習ができなくなるということだ。

 一ノ瀬君が気軽に言った条件だが、だからと言って僕にそれを撤回する気持ちは無かった。

 自分の力で証明したい。僕たちの努力は無駄ではないということを。

 部長の高山さんも止めることなく僕を見守ってくれている。

 僕は絶対に負けられない。この仲間たちのためにも。

 だけど僕にはまだ不安が残っている。

 昨日一ノ瀬君から実戦での使い方のアドバイスをもらった僕の雷魔法スキルも迷宮の外では使えない。あれが使えたら間違いなく勝てる自信があるのに。

 そして僕はまだレベル1。対する沼部君はレベル2、さらには剛力というスキルを持っているらしい。圧倒的に不利だ。

 でもここだけは引いてはいけない場面だ。絶対に勝たなくてはいけないんだ。

 僕は決意を胸に気合を入れ直した。

 対戦相手は、先ほどまで大声でまくし立てていた毒島君ではなく、沼部君の方が出てくるらしい。

 実際、沼部君の方が体も大きく、見た目にも強そうだ。

 身長はゆうに180センチ以上はあるし、全身に筋肉が付いていて首が見えないくらい肩も盛り上がっている。話し方は気の抜けているところがあるが、その肉体には迫力があり、はっきり言って強そうだ。

 だが怯えてなどいられない。僕は淡々と試合用の防具を付けていく。

 僕が準備をしていると、マモルが一ノ瀬君に話しかけている声が耳に入る。


「一ノ瀬、本当に大丈夫なのか?キョウヤはまだレベルが上がっていないんだぞ?せめて今日の放課後にレベルを上げて、試合を明日にしたら……」


「大丈夫だって、紫村を信じろよ。それに紫村だってやる気だぜ?ムカつく貴族に分からせてやりたいってな」


 その通りだ。僕は証明したい。貴族だけが選ばれた存在ではないということを。

 僕は気合を入れると、透明な強化プラスチックでできた面をかぶった。

 僕は僕の戦いを見守る仲間たちの元へと歩み寄る。

 一ノ瀬君と目が合った。

 僕は彼に感謝している。レベルアップの道筋を示してくれたことを。ハズレスキルだと思っていた雷魔法の可能性を教えてくれたことを。そしてこの汚名挽回の場面を用意してくれたことを。

 僕は改めて一ノ瀬君に宣言をした。


「一ノ瀬君。夢や目標というものは口に出すべきだと聞いたことがある。だから僕は何度でも言う。僕は将来世界一の迷宮探索者になって有名になって政治家になる。そして日本の貴族制度を廃止させる。そのためには、僕はこんなところでくじけるわけにはいかない。毒島君みたいな横暴な貴族に屈するわけにはいかないんだ」


 一ノ瀬君は僕の言葉を聞くと、ニヤリと笑って僕の肩を叩く。


「おう!期待してるぜ」


 沼部君も準備が終わったみたいで、木刀を持ってこちらへと近づいてきた。

 防具を装着した沼部君の横で毒島君が不敵に笑う。


「痛い目に会わないと分からないようだな。今さら止めるとは言わせないぞ。言っておくがな、沼部は普段からデッドリフトで楽々と100kg上げることができる。そしてスキル『剛力』を使った時には150kgまで上げることができるんだ。パワー差を思い知れ!」


 その説明を聞いて僕は驚いた。

 デッドリフトというと、要するに重量挙げだ。おそらく100kgというだけでも同年代とは思えないレベルだろう。それを150kgというと、すごすぎてどれくらいすごいのかもよく分からないくらいだ。

 するとデッドリフトという言葉を知らない一ノ瀬君が、八戸先輩に尋ねていた。

 八戸先輩は身振り手振りでデッドリフトについてを一ノ瀬君に説明していた。


「普通の人なら自分の体重を上げるくらいだというのに、150kgというと恐らく沼部の体重の二倍。一般人には絶対に無理な重さだぞ」


 やはり同じ15~16歳とは思えないパワーだ。

 僕はそれを聞いて背筋が震えるのを感じた。

 だが、一ノ瀬君がポツリとつぶやく。


「デッドリフトって……、剣術と全然関係ねえじゃん」


 それを聞いて僕は思わず笑ってしまった。

 フフ……、確かにその通りだ。いくら重いダンベルを持ち上げることができたとしても、剣を振る時とは使う筋肉が違う。

 そう考えると、僕の中に芽生えた恐怖心は、どこかへと霧散していった。

 だが毒島君と沼部君の自信は揺らぐことがなかった。


「首席殿の無様なやられっぷりを見せてもらおうか!ワーハハハ!」


「ブフフフ……」


 高らかに笑う二人。

 そして僕は、木刀を正眼に構えた。

 僕と沼部君は、お互いの木刀が届かない位置に立つ。

 審判は一ノ瀬君がやってくれるようだ。

 僕たちの横に立った一ノ瀬君が、試合開始の合図をした。


「始めっ!」


 合図とともに僕たちは一歩前へと踏み出した。


「せいっ!」


 大きな掛け声とともに沼部君の上段振り下ろしが僕に襲いかかる。

 慌てて僕は木刀を横向きに構え直し、防御姿勢を取る。

 ゴン!

 その一瞬の衝撃に危機感を覚え、僕は慌てて後ろへと飛びのく。

 僕の木刀は沼部君の一撃を受け止めることができずはじかれた。

 木刀を持つ掌が痺れる。

 あのままいったら防御できずに脳天に一撃を喰らっていたところだった。


「わーははは!驚いたか首席!これが俺たちの力だ!レベル2の力なんだよ!」


 沼部君の後ろから毒島君のヤジが飛んでくる。

 確かに驚いた。この攻撃をかいくぐっていかないといけない。

 と、その時、僕の後ろから一ノ瀬君の声が聞こえた。


「紫村ー、固いぞー!練習を思い出せー」


 固い。その言葉はたびたび瀧川さんから言われた言葉だった。

 緊張して肩に力が入っているのだ。

 僕は沼部君の次の一撃を警戒しながら、一度深呼吸をする。

 肩の力みを抜き、瀧川さんから言われた基本姿勢を思い出す。

 すると僕を休ませまいと、沼部君が次の一撃を食らわせようと襲い掛かってきた。

 力を抜いた瞬間を狙われたため、後ろに回避するのに間に合わない。

 思わずもう一度木刀で防御しようと打ち合う。

 カンッ!

 沼部君の木刀と僕の木刀がぶつかり合う音が響く。

 僕はへその下に力を入れ踏ん張る。

 沼部君は唸り声をあげながら両腕の力を振り絞った。


「沼部、見せてやれ!スキル『剛力』の力を!」


「ふんぬ!」


 毒島君の掛け声とともに、沼部君の力が増す。

 僕の体は無意識に瀧川さんに習っていたように力を入れた。

 上から押し付けてくる沼部君の力を、足の裏で地面に伝えながら僕は耐える。

 ……耐えることができる!

 レベル2でありスキル『剛力』の力を、僕はこれまで毎日積み重ねてきた基礎練習の力で受け止めているのだ!


「沼部!本気を出せ!」


「ムギギギギ!」


 毒島君の声に、沼部君は額に血管を浮かべながらさらに力を籠める。だがそんな力を、僕はしっかりと受け止めることができていた。

 そして気づく。沼部君の重心が高い位置にあることを。対して僕の重心はへその下、低い位置にあるのを感じている。

 今なら押し返せるのでは?

 僕は耐えることから、押し返そうとする。

 ぐっと押すと沼部君の体がぐらついた。


「うっ?」


 えいっ!と僕は心の中で念じながら押し返すと、沼部君は上体をのけぞりながら後ろへと姿勢を崩した。


「何やってんだ沼部!」


 毒島君の罵声が飛ぶ。

 その瞬間、僕は一歩踏み込み攻撃に移る。


「うわっ!」


 沼部君は木刀で防御しようとする。

 今ならその防御ごと倒せる気がする。だがそれでは生ぬるい。

 僕は沼部君の木刀を避け、隙間から沼部君の面を思い切り振りぬいた。

 バンッ!

 沼部君の面に僕の一撃がさく裂した。

 衝撃で転倒する沼部君。


「一本っ!それまでっ!」


 一ノ瀬君の声が響く。

 どさぁと地面へと倒れこむ沼部君。


「やったぞキョウヤ!」


 マモルの歓声が上がった。

 次いで部員たちの拍手と喝采。


「紫村、やったな!」


「さすがだ!」


 そんなみんなの声を聞いて、僕は勝ったのだと実感する。

 レベル1の僕が、レベル2でスキル『剛力』を持つ沼部君に勝ったのだ。

 僕は面を外し、仲間たちの方を振り返る。

 みんなが笑顔で僕を見ていた。

 反対に毒島君は大きな口を開けたまま固まっていた。

 沼部君は地面に座り込んだまま、呆然としている。


「そ、そんな……レベル2の『剛力』持ちの沼部が……」


 毒島君が信じられないように呟く。

 僕は毒島君の方を向いた。


「毒島君。分かったかい?レベルやスキルだけが全てじゃない。日々の努力、正しい姿勢、仲間との絆。それらが僕たちの強さなんだ」


 僕の言葉に、毒島君は何も言い返せなかった。


 僕は勝ったのだ。

 僕はこれまで毎日毎日木刀を振り続けた。瀧川さんからまずは基礎だと言われて磨き続けてきた技術。それがレベル差を超えたのだ。

 僕の努力は無駄ではなかったのだ。

 その事実が何よりも嬉しかった。

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