第143話 雷光を纏う
マイカが大きな水球を浮かべる。
その水球は青白く光り、まるで小さな月のように美しい。
「百田さん、その水球は何をするんだい?」
紫村が不思議そうに尋ねる。
そしてマイカはその水球を誰もいない場所へと撒いた。
ばっしゃーんと水が飛び散る。
無意味な行動に紫村と千堂は口を開けて言葉を失っていた。
そんな二人を見て俺はニヤリと笑う。
「これで少し待つんだ。ところで紫村、お前の雷魔法について聞きたいんだが」
「雷魔法?」
紫村がきょとんとした顔をする。
「ああ。最近雷魔法の調子はどうだ?」
俺の質問に、紫村はブスッとして不満そうな表情を浮かべた。
「……調子も何も、何も役に立たないハズレスキルだと説明したよね?」
「ってことは何も使ってないのか?もったいない」
「もったいないって……、そんなこと言ったって触らなければ電気を流せないし、電気を流しても殺傷力がほとんどないんだよ?どうやって使えばいいんだ!」
紫村が少し苛立ちながらに言う。
その説明は以前聞いていたが、俺には一つの仮説が思い浮かんでいたのだ。
俺が治癒魔法のスキルレベルを上げるためにスライムに治癒魔法をかけた時、俺も射程距離が極端に短かったため木刀を伝ってスライムに治癒魔法をかけた。
同じように触らないと伝えられない紫村の雷魔法も、木刀を伝えればいいのでは?と。
「触らなければ電気を流せないなら、木刀で触ったらどうだ?」
「え?」
「木刀を通じて電気を流すんだ。木刀でスライムを斬った瞬間に、雷魔法を流し込む。もし木刀じゃ流れなかったら俺の鉄剣を貸してやる。とにかく魔法はイメージが大切だと思うんだ」
「木刀を通じて……?」
俺の説明を聞いた紫村は、その手に持った木刀を見つめる。
おそらくこれまでそんな発想は無かったのだろう。
「でも、木刀に電気が流れるものなのかい?」
「分からない。だけど、試してみる価値はあるだろう?」
俺の言葉に、紫村は少し考え込むような表情を浮かべた。
そして——
「……やってみる」
紫村は木刀を構えた。
目を閉じ、集中する。
その横で千堂とマイカが固唾を呑んで見守っている。
俺も紫村の木刀に視線を注ぐ。
数秒の沈黙。
そして——
バチッ、バチッ!
構えた木刀の刃先から、微小な電流がほとばしった。
青白い光が木刀を伝い、刃先で小さく弾ける。
「出来た!」
「おおー!」
俺たちの口から感嘆の声が漏れたが、そんな俺たちよりも、紫村自身が一番驚いていた。
目を見開き、自分の木刀を信じられないように見つめている。
「キョウヤ!すごいぞ!」
千堂が興奮気味に叫ぶ。
「紫村君、すごーい!」
マイカも嬉しそうに拍手している。
「まさかこんな方法があるなんて、思いつきもしなかったよ!」
紫村の声には驚きと喜びが混じっていた。
木刀を何度か振ってみる。その度に、刃先から青白い電撃が走る。
バチバチと音を立てる木刀。
まるで生きているかのように、電気が踊っている。
「良かったな」
俺は素直にそう言った。
まあ俺が治癒魔法でできたんだから、俺より魔法適性の高い紫村ならできて当たり前だろうとは思っていたけどな。
「これなら……これなら木刀でスライムを倒す時、ついでに電撃を浴びせられる!」
紫村が興奮気味に言う。
「ああ、その通りだ。そしてそれで倒したなら、スキルを使って倒したことになるから、スキル経験値も上がるだろう」
「イメージか。確かに授業でそう習ったけど、僕はもっとこう、掌から雷撃が飛んでゆくイメージしか持ってなかったんだ」
「スキルレベルが上がればそれも出来るようになるだろ。かっこいいじゃないか雷撃魔法!」
俺の言葉に、紫村が力強く頷く。
「うん!頑張るよ!」
その目には、希望の光が灯っていた。
もう昨日までの諦めた顔はしていない。
そして——
「あっ、来た来た!」
マイカが嬉しそうに声を上げた。
見ると、迷宮の通路の奥から、スライムがぞろぞろと這い出してくる。
一匹、二匹、三匹……。
いや、そんなものじゃない。十匹、二十匹……まだ増える。
「な、何だこれは!?」
紫村が驚愕の声を上げる。
千堂も目を丸くしている。
「どうしてこんなにたくさんのスライムが……!」
スライムはマイカが撒いた水に引き寄せられるように、次々と集まってくる。
その数、ざっと見ても五十匹は超えているだろう。
「これが百田さんの水魔法の力……!」
紫村が感嘆の声を漏らす。
「そういうことだ。スライムには水に集まる習性があるらしい。マイカの水魔法でスライムを集めて、お前が倒す。これなら効率よくレベルアップできるだろう?」
俺の説明に、紫村は呆然としていたが、やがてその顔に笑みが浮かぶ。
「一ノ瀬君、百田さん、ありがとう!これなら2~3日でレベルアップできそうだよ」
紫村が嬉しそうに言う。
いや、2~3日と言わず、なんなら今日1日でレベルアップしちゃってくれ。
そして、紫村は木刀を構え直した。
「さあ、試してみろ!お前の新しい力を!」
俺の言葉に、紫村が力強く頷く。
「うん!」
紫村は駆け出した。
その手には、青白い電撃を纏った木刀。
最初のスライムに木刀を振り下ろす。
バチィッ!
木刀がスライムを捉えた瞬間、電撃が走った。
スライムが痙攣し、そのまま崩れ落ちる。
「やった!効いてる!」
紫村が歓声を上げる。
「キョウヤ!すごいぞ!」
千堂も興奮している。
紫村は次々とスライムを倒していく。
電撃を纏った木刀が振るわれる度に、バチバチと音が響く。
その姿は、もう昨日までの紫村ではなかった。
希望を取り戻した、戦士の顔だ。
俺はその様子を見守りながら、少し安心する。
よし、これなら大丈夫だ。
マイカも嬉しそうに紫村を見ている。
千堂は拳を握り締めて、親友の活躍を見守っている。
そしてその直後——
俺は突然背筋に悪寒のようなものを感じた。
慌てて振り返る。
俺の視線の先には誰もいない。物音ひとつない。
だが、突き刺さるような見えない気配のようなものを感じるのだ。
この気配……。
やつだ。間違いない。最近見てないから忘れていた。
「須佐タツノリ……」
俺のつぶやきに千堂とマイカが慌てて振り返る。
「え?どこに?」
視線の先に誰もいないため、千堂が不思議そうに尋ねる。
見えないがいるんだ。
「解析」スキルを使うがステータスは見えない。おそらく解析が届かないくらいのかなり離れた場所にいるのだ。だけどあいつは俺たちのことを監視している。
俺たちが黙ってそちらを見ていると、だんだん足音が聞こえてきた。
向こうからこちらへ近づいてきているのだ。
そしてついにその姿が見えた。
「なぜ分かった?」
須佐タツノリは第一声、そう呟いた。




