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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第142話 協力要請

 朝一、紫村が俺の席にやってきた。

 その表情は先日までと打って変わって、とても良い顔をしていた。迷いを振り切ったような、どこか吹っ切れたような顔だ。

 昨日までめっちゃ落ち込んでいたあの紫村が、どうした?

 すると突然、紫村は俺の目の前で頭を下げた。


「一ノ瀬君、僕のレベルアップを手伝ってほしい!」


 そんな異常事態に、クラスのみんなの視線が集まる。


「待て!みんなが見てる!大きな声を出して頭を下げるな!俺がおまえに何かしたみたいじゃないか!」


「ご、ごめん!」


 紫村が慌てて顔を上げる。

 しかし、あんなに他人の協力を拒絶していたのに、突然紫村の気が変わったのは何でだ?お見舞いに行った時なんかは、こいつ自殺するんじゃないか?ってくらい暗かったというのに。


「君は誰よりも早くレベルアップをしてるんだよね。もちろん君が他の人より努力してるのは分かるんだけど、僕にも早くレベルアップするためのアドバイスをお願いしたいんだ」


 本当、びっくりするほど素直だ。ちょっと怖い。

 でも、その目は真剣だった。諦めていない。まだ戦おうとしている。

 そんな紫村の目を見て、俺は少し安心する。


「もちろん俺もやぶさかではない。だけどあれだ。みんなが見てるから、詳しい話は放課後な」


「手伝ってくれるのかい?」


「ああ、もちろんだ」


「ありがとう!」


 満面の笑みを浮かべ、再び大きな声を上げて頭を下げる紫村。


「だからでかい声だすなっつーの!」


「ご……ごめん!」


 まったく、こいつは本当に極端だな。落ち込む時は底まで落ち込むくせに、立ち直ったら今度は全力で前を向く。

 でも、そういうところは嫌いじゃない。

 それと——


「マイカ!今日放課後空いてるか?」


 俺は少し離れたところにいたマイカを見つけて声を掛けた。

 俺に呼ばれたマイカは、すぐに俺たちの元へと駆け寄ってくる。


「うん。空いてるよ。もしかして紫村君とダンジョンに行くの?」


「そうだ。力を貸してくれ」


「うん!」


 マイカの水魔法でスライムを呼び寄せて紫村のレベルアップをさせるのだ。

 普通にやってたらスライムを探しているだけで時間がかかってしまう。だが水魔法を使えば、集まってくるスライムを倒すだけでいい。いくら紫村のレベルアップが遅くてもさすがにレベルアップするだろう。

 そんな俺たちの思惑を知らない紫村は、なぜマイカを誘ったのか不思議そうな顔を浮かべていた。

 首を傾げる紫村に、俺はニヤリと笑ってみせる。


「後のお楽しみだ」


「え?あ、うん……?」


 完全に狐につままれたような顔をしている紫村を見て、俺は少し楽しくなってきた。

 まあ、実際に見れば分かるだろう。


・・・・・・・・


 放課後、俺と紫村、マイカ、そして千堂の四人で迷宮に来ていた。

 千堂も当然ついてきた。紫村のレベルアップのためなら、と目を輝かせている。

 本当、こいつ紫村大好き人間だな……。

 迷宮の入口で、紫村が俺たちをパーティーに誘おうとする。


「マモル、一ノ瀬君、百田さん、パーティー加入して——」


「待て!」


 俺は紫村の言葉を遮った。


「今日はパーティーは組まない」


「えっ?」


 紫村は驚いた顔をする。千堂も意外そうな表情を浮かべた。


「でもみんなでたくさん倒した方が効率がいいのでは?」


 確かにそういう考え方もある。だが今日は紫村にだけ経験値が入ればいいのだ。


「パーティーを組まない場合、経験値が分散しない代わりに、倒した人間一人に集中する。今日はその方がいいんだ」


 俺の説明に、紫村と千堂が顔を見合わせる。


「つまり……僕一人で全部倒せということ?」


「そうだ。手伝うとは言ったが、頑張るのはおまえだ!俺たちはサポートに徹する」


 俺の言葉に紫村も千堂も納得したようだ。

 紫村がグッと拳を握り締める。


「分かった。やってみるよ」


 その目に、再び闘志が灯っている。

 よし、いい顔だ。

 正直、パーティーを組んでこいつらのスキルをコピーさせてもらいたかったという下心もあるが、さすがに自重しておく。今日の主役は紫村だ。

 そんなわけで、パーティーを組まずに俺たちは第一階層へと入って行った。

 迷宮内を歩きながら、紫村が俺に話しかけてくる。


「一ノ瀬君、実は昨日、カズマさんに会ったんだ」


「ラスボス?」


 俺は思わず心の中で呼んでいるニックネームをつぶやいてしまう。


「ラスボスって?」


「いや、あの人ラスボスっぽいじゃん?ドラゴンに変身する第二形態があっても俺は驚かないぞ」


「……君って、普段からそんなこと考えてるの?」


「い、いや……そうじゃなくて、カズマさんがどうした?」


「うん。カズマさんが僕に教えてくれたんだ。僕は魔法戦士だって」


「魔法戦士?」


 聞き慣れない単語だ。

 紫村は歩きながら説明してくれた。魔法使いと戦士、両方の適性を持つ者のこと。そして、レベルアップに必要な経験値が通常の二倍——つまり200だということを。


「なるほど魔法戦士か……。上級職の経験値が多く必要なのは仕方がないよな」


 俺の反応に、紫村が驚いたように顔を上げる。


「一ノ瀬君は、カズマさんの説明が理解できるのかい?」


「当たり前だ。ゲームじゃ、最初のころは成長が早くて使い勝手がいいけど後半伸び悩む職業と、最初成長が遅くて苦戦するが後半に強くなる職業があるだろう?」


「ごめん、ゲームとかあまりやらなくて……」


「マジか……」


 俺が分かりやすく例え話をしてやっているというのに、こいつ……。

 まあいい。言い方を変えよう。


「まあゲームバランスにおいて、最終的に強くなるのは成長が遅い方だということだ。魔法戦士ってことは、魔法も剣術も両方使えるんだろう?それってめちゃくちゃ最強じゃないか」


「最終的に強くなれる……」


 俺の言葉に紫村がグッとこぶしを握り締めた。

 ああ、分かるぞ。俺たちの年頃的に、最強という単語とか好きだよな。


「カズマさんも言ってたんだ。『他人の二倍の努力をするだけでいい』って」


 紫村の声には力がこもっていた。

 ああ、だから今朝あんなに吹っ切れた顔をしていたのか。カズマさんに何か言われたんだな。


「いい言葉じゃないか。二倍頑張ればいいんだろう?なら、今日はその第一歩だ」


「うん!」


 紫村が力強く頷く。

 その横で千堂も嬉しそうに笑っていた。


「キョウヤ、良かったな」


「ああ、マモル。君にも迷惑かけたね」


「迷惑だなんてとんでもない!俺はキョウヤの親友だぞ!」


 二人のいちゃつきを見ていて、なんだか微笑ましくなる。これは女子の人気が高そうだ。

 現在一緒にいる女子のマイカを確認すると、ニコニコと嬉しそうに二人を見ていた。

 おまえもこういうの好きなんだな。


 ある程度迷宮を進み、階層主の部屋に続く道よりもかなり離れた場所、あまり他の生徒が立ち寄らないところまでやってきた。


「それじゃ、ここにするか」


 俺は立ち止まった。

 以前、紫村が探索中に毒島たちから邪魔されたと言う。今日は来てないみたいだけど、あいつらには見つかりたくない。それだけでなく他の生徒にも見られたくない。そう考えてなるべく見つかりにくい場所を選んだ。


「さて、ここらで始めるか」


 俺がそう言うと、紫村が木刀を構える。

 千堂も気合を入れ直したように姿勢を正した。


「でも一ノ瀬君、スライムが全然いないよ?」


 紫村が周囲を見回しながら言う。

 確かに、この辺りはスライムの姿が見えない。わざと人気のない場所を選んだから当然だ。


「大丈夫だ。これから呼び寄せる」


「呼び寄せる?スライムを?」


 紫村と千堂が不思議そうな顔をする。

 俺はマイカの方を向いた。


「マイカ、頼んだぞ」


「うん!」


 頼られて嬉しかったのか、マイカはこれまでよりさらに大きい水球を浮かべた。

 その水球が、青白く光り始める。


「え?百田さん、それは……」


 紫村が驚いたように目を見開く。

 千堂も呆然とマイカの水球を見つめている。

 さあ、ここからが本番だ。

 紫村、お前のレベルアップ、俺たちが全力でサポートしてやる。

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