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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第140話 紫村キョウヤ7 最後の探索

 体調不良と嘘をついて休んでしまった翌日。

 休んでいても仕方がないと気付き登校してきたものの、授業に全く身が入らなかった。教科書を開いてはいるが、文字が頭に入ってこない。まるで僕の魂が体の中から抜け出して、どこかへ行ってしまったみたいだ。

 僕のことを心配そうに見守るクラスメイトたちの視線は、僕の中でその期待に応えられない自虐の念に変わる。

 休み時間になった時、そんな居心地の悪さに耐えている僕に、親友の千堂マモルが静かに声をかけてきた。


「キョウヤ、少し話をしないか」


 僕はゆっくりと顔を上げた。


「マモル……」


 マモルに誘われ、人気のない廊下の隅へと移動した。

 窓の外には雨が降っていた。

 降り続ける雨音のノイズが、僕のぐちゃぐちゃになった心の音のように聞こえた。

 窓の外をぼんやりと見つめていると、ぽつりと本音が口から零れ落ちた。


「マモル、僕はダメかもしれない」


「キョウヤ……」


「いくら努力しても、レベルアップしない。もしかしたら、僕はレベルアップしない体質なのかもしれない」


 マモルは黙って僕の話に耳を傾けてくれていた。

 ザーザーという雨音が僕たち二人を見守るように鳴り続けていた。


「城之内先生に聞いてみたんだ。レベルアップの誤差はプラスマイナス10パーセント、つまりスコア110になれば誰でもレベルアップするらしい」


 僕は拳を握りしめた。


「でも僕は、もう120を超えている。それでもレベルが上がらない。つまり……僕は、レベルアップしない体質なのかもしれない」


「そんな……」


 黙って僕の話を聞いてくれるマモルに、遂に僕は弱音を吐いてしまった。だがこれが僕の本音なのだ。

 僕の話を聞いたマモルは言葉を失っていた。何と答えればいいのか分からないのだろう。

 僕は、静かに言葉を続けた。


「中学の時は、勉強でも運動でも、誰にも負けたことがなかった。だから僕は思っていたんだ。いつか日本一の迷宮探索者になって有名になって、そして政治家になって、日本の貴族制度をなくすことが、僕には本当にできるんだって」


 僕は学園に入ってからの事を思い返す。


「学園にも首席で合格できた。だけど学業だけなら九条さん、運動だけなら一ノ瀬君など、僕にも勝てない人がいた。でも、努力を続ければいつか追いつけると思っていたんだ。そして学園で最強の貴族である生徒会長だって、いつか超えてみせるって」


 僕は自嘲するように笑った。


「でも、そんな大それた目標を掲げるほどの人間じゃなかった。中学までの勉強や部活と、迷宮探索は全く別物なんだ。僕は、探索者としては落ちこぼれだったんだ」


「キョウヤ、そんなことは……」


「マモル」


 僕はマモルの目をまっすぐ見た。


「僕は、学園を辞めようと思う」


「何を言ってるんだ!」


 マモルは思わず声を荒げた。


「努力は裏切らない、それが君の口癖だったじゃないか!」


「……その努力に、裏切られたんだよ」


 その事実を口にすることが、とても苦しかった。

 僕の顔を見つめるマモルは、とても悲しい顔をしていた。いつも一緒にいてくれた親友にこんな表情をさせてしまった自分が許せなくて胸が痛い。

 すると、マモルの中で何かが吹っ切れたのか、表情を一変させて声を出した。


「キョウヤ、ここまで頑張ったんだから、あと少しでレベルアップするはずだ」


「マモル……」


「最後にもう一度、俺と一緒に探索してくれ。きっとそこでレベルアップするはずだ!」


 僕の心は既に折れてしまっていたが、マモルの心はまだ折れていなかった。


「な、何だよマモル……」


「いいから!今日、放課後、絶対に一緒に探索に行こう!」


 マモルの熱意に押され、僕はゆっくりと頷いた。

 最後に親友と二人で探索をするのも良いかもしれない。

 そして放課後、僕たち二人は迷宮へと向かった。


・・・・・・・・


 幸運にも今日は毒島君たちの姿はなかった。昨日僕が休んだせいで、付きまとうのにも飽きたのかもしれない。

 僕たちに最後の探索を許された放課後の二時間が始まった。

 マモルは必死でスライムを探した。「気配察知」のスキルをフル活用し、次のスライム、また次のスライムと、休むことなく探し続ける。


「マモル、そんなに急がなくても……」


「いや、今日こそお前をレベル2にするんだ!」


 そんなマモルの気迫に押され、僕も必死で戦った。

 走り、斬り、また走る。

 二人で汗だくになりながら、迷宮の中を駆け抜けた。


ーー二時間後。

 僕たちは息を切らせながら迷宮から出てきた。

 全身が汗で濡れ、息が荒い。でも、どこかやり切った達成感があった。


「はぁ……はぁ……」


「マモル、今日はすごかったな」


 心地よい疲労感に包まれていた僕は、疲れ切った顔で笑った。


「中学の時、二人で生徒会に立候補して、夜遅くまで一緒に選挙活動をした時を思い出すよ」


「ああ、あの時も大変だったな」


「マモル、いつも一緒に戦ってくれて……ありがとう」


 思わず感謝の言葉が漏れる。そんな僕の言葉に、マモルは首を横に振った。


「何を最後のような言い方をしてるんだ!今日こそレベルアップしているはずだ!」


 マモルは僕の肩を叩いて言った。


「俺たちの物語は、まだ始まったばかりなんだよ!」


 その言葉に、僕も少しだけ希望を感じた。

 もしかしたら、今度こそ。

 さすがに今日は、レベル2になっているかもしれない。

 僕たちはスキルボードの前に立った。


 僕は深く息を吸い、そして手をかざした。


 ・・・・・・・・

 紫村響哉:LV1

 スキル:雷魔法LV1

 パーティメンバー:千堂衛

 ・・・・・・・・


 そこに表示されていたのは、昨日までと全く変わらない「LV1」の文字。

 現実は残酷だ。


「やっぱり、ダメか……」


 僕は、その事実を素直に受け入れていた。もう、驚きもしない。ただ、静かに諦めの感情が心を満たしていく。

 そんな僕に対して、マモルはその数字に愕然としていた。


「そんな……信じられない。あれだけ頑張ったのに。あれだけ走り回ったのに。なぜだ。なぜキョウヤだけが……」


「マモル」


 落胆するマモルに、僕は静かに語りかける。


「今までありがとう。僕は――」


「何でだ!」


 突然のマモルの絶叫が、迷宮入口に響いた。


「何でキョウヤばっかりこんな目に遭うんだ!」


 マモルの目からは、大粒の涙が溢れ出ていた。

 止まらない。止められない。

 親友が、こんなにも苦しんでいるのに、自分には何もできない。


「マモル……」


 僕は、泣いているマモルを見て、ただただ胸が締め付けられた。


「ごめん……」


 自分の夢に付き合わせて、こんな形で別れることになる。

 親友に、こんな思いをさせてしまった。


「本当に、ごめん……」


 歯を食いしばり、震えながら涙をこぼし続ける親友に、それ以上の言葉が出てこなかった。


 僕たちがスキルボードの前で言葉を失って立ち尽くしていた、その時。

 迷宮の入口から、一人の人影が入ってきた。

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