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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第138話 手加減は侮辱

「一ノ瀬君、僕と試合をしてくれないか?」


「は?」


 突然の紫村の申し出に、俺は戸惑った。


「僕がどれだけ強くなったか見てほしい」


「なんで俺に?いや、でもほらレベル差があるし、そういうのだったら同じレベル帯の人間じゃないと……」


 いきなりそんなこと言われても、困る。俺はクラスメイトよりもレベルが突出してる自覚があるため、対等な試合はできない。

 だけど紫村の表情は真剣だった。

 俺は紫村に尋ねてみる。


「なんで急に……?」


「さっきも言ったが、僕がこの一か月間でどれだけ強くなっているのか確認したいんだ。一ノ瀬君、君は今D組で一番レベルが高いんだろう?」


「そ、それは分かるけど、何で俺なんだ?レベル差がありすぎるというか……、そういうのならレベル2の人とやった方が……」


 紫村はまだレベル1らしい。対する俺のレベルは6。さすがにレベル差がありすぎる。

 イオリはレベル1の時に、レベル4の八戸に勝ったが、あれはイオリが特別なだけだと思う。

 それに俺と紫村のレベル差はそれ以上だ。


「お願いだ。僕は本当に自分が級長をやっていてもいいのか自信を無くしているんだ。自分の力を試させてほしい」


「自信を?なんでだ?」


 すると、事情を知るすぐそばにいた千堂が、説明してくれた。


「キョウヤは、B組の奴らの嫌がらせを受けて参っているんだ」


「え?何?どういうこと?」


 俺は紫村と千堂の顔を交互に見る。

 紫村は悔しそうに俯いて、ぎゅっとそのこぶしを握った。


「キョウヤ、あんな奴らの言う事に耳を貸す必要はない。このままお前のペースで頑張ればいいじゃないか」


「千堂、説明してくれよ」


 俺は千堂に説明を求めた。


「B組の毒島と沼部とかいうやつらだ。最近あいつらがチクチクキョウヤに嫌がらせをしてくるんだ。そしてキョウヤがまだレベル1の落ちこぼれだとうわさを流してるみたいだ」


 俺は先日部活動中に訪れたあの二人組の顔を思い出す。


「あいつらか。変な奴らに目を付けられたな……」


 俺が憐みの目で紫村を見ると、紫村は切羽詰まった顔で俺に本音を告げてきた。


「僕には学年主席の資格はないと、彼らから言われたんだ」


「資格もクソもねえだろ。お前が学年主席だっていうのは事実じゃねえか?」


「そういう意味じゃないんだ。僕は中学の時の成績が一番だったというだけだ。この学園に入って、探索者としての実力ではみんなに及ばない落ちこぼれなんじゃないかって……自分でも自信がなくなってきたんだ」


「そんなもの、俺らは入学して1か月ちょっとしか経ってねえんだから、まだ分かんねえだろ?」


 俺の励まし……いや俺が紫村を励ますわけがない。ただの事実だ。俺が事実を告げると、紫村は己の不安を吐露してくる。


「僕が弱くないってことを、レベルはまだ上がっていないけれど、剣術部で修行していることは無駄じゃないっていうのを、君と戦うことで確認したいんだ」


「あー……なんで俺なんだ?俺じゃなきゃダメなのか?」


「さっきも言ったけど、君がD組で一番レベルが高いんだろう?部活に出てこない君と、部活に毎日欠かさず出ている僕の実力がどんなものなのか確認させてくれ!」


「一ノ瀬、頼む。キョウヤと手合わせしてくれないか」


 千堂まで俺に紫村と戦えと言ってきやがった。

 どうやって断れば納得してくれるのだ?


「頼む」


 そう言うと紫村は頭を深く下げた。

 なぜか千堂も一緒に俺に頭を下げる。

 ……もう俺に逃げ場はないじゃないか。


「分かった。分かったよ。だけどケガしても文句言うなよ?」


「もちろんだよ。ありがとう一ノ瀬君!」


 俺が対戦を承諾すると、紫村は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 本当にこいつは苦手だ。


・・・・・・・・


 お互いに防具を付け、木刀を構えた。

 俺はいつもの鉄剣では紫村の木刀ごと破壊してしまいそうだったので、木刀に持ち替えたが、久しぶりに木刀を持つと、驚くほど軽く感じた。レベルが上がって身体能力が向上しているのだろう。

 ブンブンと振り回して感触を思い出すと、改めて紫村に向き直る。


「いつでもいいぜ紫村。かかってこい!」


「いくぞ!」


 紫村は迷いなく上段から打ち下ろしてくる。

 俺はそれを木刀で左側に打ち払いながら右に移動すると、紫村の顔と胴体ががら空きになる。

 だが、防具があってもそこに打ち込んでしまったら痛そうだと思ってしまい、打ち込みできずバックステップで距離を取る。

 俺に向き直り、姿勢を直した紫村は、上段振り下ろしからすぐに剣先を斜めに変え、袈裟斬りへとモーションを変える。俺がそれを迎え撃てるよう構え直すと、紫村はさらに構えを変え、突きを放った。

 紫村が動き始めてから反応した俺は、容易にその軌道を見切って突きを交わすと同時に紫村の懐へと踏み込む。頭でも首でもどこでも狙い放題だ。

 だが俺はまた決定打を放つことなく、紫村の迎撃に備えながら距離を取った。


「真面目にやってくれ!」


 紫村の口から怒声が飛んだ。


「いや、俺は……」


「僕が弱いからって、手を抜かないでくれ!」


 先ほど二回の接触で、俺から何度も打たれてもおかしくなかったのを察したのだろう。

 その紫村の真剣な表情に、俺は失礼なことをしたのだと理解した。


「悪かった。次は本当に打っていくぞ」


「ああ……」


 今度はその緊張感に、紫村もなかなか踏み込んでこない。

 じりじりとお互いにすり足で横移動をして距離を見ている。

 観戦している千堂たちも、誰一人声を出す者はいない。

 そんな沈黙の中、先に動いたのは俺だった。

 剣先を紫村の面のすぐ上へと向けて踏み込む。慌てて紫村は木刀を横向きにし、俺の振り下ろしをガードしようとした。

 だが俺は振り下ろすことなく剣を引いて下げ、すれ違いざま紫村の胴を思い切り振りぬいた。


 ゴスッ!


 俺の一撃が紫村の胴当てに当たり鈍い音を立てると、紫村は「うぐっ!」といううめき声をあげてその場にうずくまった。


「ううう...息が...」


 紫村は、痛みで呼吸ができないようだった。


「キョウヤ!大丈夫か?!」


 慌てて千堂が駈け寄る。

 痛みに悶絶する紫村。

 まずい、防具の上からとはいえ、思い切り打ちすぎたか?


「わ、悪い紫村!」


 俺も心配して紫村に近寄る。

 紫村は腹を押さえながら、痛みに苦しんでいた。

 俺が治癒魔法を使えることはクラスメイトには秘密だ。だから、


「医務室に連れていくぞ!」


 慌てて俺は紫村を抱き上げると、千堂と一緒に医務室へと向かった。


・・・・・・・・


「あのね、やりすぎよ一ノ瀬君!」


「すいません!」


  医務室で城之内先生から治癒魔法をかけてもらった紫村は、すぐに痛みも治まり静かになった。

 そして城之内先生に事情を話すと、俺が怒られてしまった。

 俺たち三人は、城之内先生に頭を下げる。


「紫村君はまだレベル1よ!レベル1は一般人と同じなのよ。紫村君も努力以前にまずはレベルを上げないと!」


 そして次は紫村が怒られる。

 怒られた紫村はと言うと、俺以上に凹んでいて、黙って何も言い返せずにいた。


「若くて元気があふれているのはいいけれど、お互いに実力を理解したうえで試合するのよ!その実力の一番の指針となるのがレベルなの。分かったわね」


「はい、すいませんでした……」


 紫村は力なく謝罪の言葉を述べた。

 俺も、試合を止めなかった千堂もこっぴどく怒られ、しっかり凹んでその日は帰ったのだった。


・・・・・・・・


ーー翌朝。


 教室の紫村の席には、だれも座っていなかった。

 不思議に思っていると、ホームルームの時に先生から説明があった。


「今日は紫村君は体調不良で一日休むそうです」


 え?うそ?……もしかして俺のせいでは?

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