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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第137話 紫村キョウヤ6 スコア120

 昨日の放課後の探索は邪魔されて全然進まなかった。

 こうなったら授業での探索を頑張るしかないだろう。

 そんな思いを胸に抱えながら迷宮に向かって移動をしていると、クラスメイトの雑談が耳に入ってきた。

 それは、以前同じパーティーにいた榎島君の声だった。


「二学期の級長は誰になるんだろうな?」


 榎島君の何気ない一言に、僕の表情は凍り付く。

 榎島君に話しかけられた青島君が答える。


「級長は紫村だろう?」


「いやだって、紫村はまだレベル1だろ?一学期の成績が一番良かった生徒が二学期の級長をやるんだから、二学期は紫村じゃなくて一番早く第一階層主を倒したやつがなるのかなって思って」


「それだったら一ノ瀬たちがもう倒しただろ?でも一ノ瀬はテストの成績がイマイチらしいじゃないか」


「だとしたら……」


 そんな二人の会話が止まる。僕たちがすぐ近くにいることに気付いたからだ。

 何も言わない僕の代わりに、マモルが口を開いた。


「陰口はよくないな」


 だがそう言われた榎島君は、マモルにひるむことなく答えた。


「陰口なんかじゃないよ。紫村君がまだレベル1だっていうのは事実だろう?僕ですらもうレベル2になったんだよ」


 榎島君は悪気はなさそうだが、その無神経さが余計に僕の心を抉った。


「榎島、君は以前一緒のパーティーだったじゃないか?」


 マモルは榎島君の答えに驚きながら問いかけた。

 赤石君が入る前、榎島君は僕とマモルと一緒のパーティーだった。仲が良いと思っていたクラスメイトに裏切られた気持ちになったのだ。


「そうだけど、それがどうかした?紫村君がレベル1だっていう話だったよね?」


 榎島君は全く悪びれる様子もなく、マモルにそう告げた。


「最近B組の生徒が何かいろいろ言ってるらしいけど、あながち間違ってはいないよね」


 榎島君は、さらに毒島君たちの広めている噂話についてまで踏み込んできた。

 そのデリカシーのなさに、僕とマモルは驚く。

 そして毒島君がわざと聞こえる声で話している僕の悪口を、榎島君は真に受けているようだった。

 榎島君の言葉にマモルが黙ってしまったので、僕が言葉を発する。


「榎島君、君がそう思うなら、僕からは何も言う事は無いよ」


 そう言って僕たちは、榎島君の前から立ち去った。


「キョウヤ!」


 マモルが慌てて僕の後を追ってきた。


・・・・・・・・


 迷宮の中に入った僕は、普段以上に気合を入れて木刀を握り締めた。


「昨日の放課後の探索は毒島君たちの邪魔があって全然進まなかったから、授業での探索を頑張ろう」


 授業ならB組とは別行動のため、邪魔が入らないはずだ。

 マモルも同意見のようで、深くうなづいて同意してくれた。

 赤石君は何の話か分からず戸惑っていたが、あまり話して心配させても良くないと思い、それ以上説明をするのはやめておいた。


 先ほどの榎島君もそうだけれど、最近クラスのみんなの僕を見る目が変わってきているのを感じている。

 これは毒島君が全ての原因というわけではない。

 僕自身ふがいないせいもあるんだ。

 せめて僕もみんなと同じレベル2になれれば、みんなの僕を見る目も少しは変わるだろう。

 今の僕の周りの評価は、入学式から今日までの僕の行動の結果だ。それを取り戻すには迷宮探索を頑張るしかない。みんなからの信頼というものはコツコツ積み重ねていくしかないのだ。


 そう思って今日もとにかく頑張ってスライムを倒した。

 スコアももうすぐ120になる。そこまでいけばさすがに僕だってレベルアップするだろう。レベルアップの遅れを頑張って取り戻さないと。


「キョウヤ、あの岩陰に気配がする」


「分かった!」


 マモルのスキル「気配察知」によって、隠れているスライムも見つけてもらい、素早く倒していく。

 道中は速足で移動し、一匹でも多くのスライムを倒すのだ。


「そろそろ時間だな」


 マモルが腕時計を見てそう呟く。

 今日倒したスライムは9匹。3人パーティだから僕のスコアは3点増える。昨日までの僕のスコアは116.7だったから、これで119.7。後一匹で120だ。


「マモル、もう一匹。探し出してくれないか?」


「しかし遅れると次の授業に遅刻してしまう……」


「あと一匹でいいんだ!頼む」


 僕の真剣な表情を見て、マモルも承諾してくれた。


「分かった。急いで探す」


 駆け足で走り出しながらスライムの気配を探すマモルに、僕たち二人も付いて行く。そしてマモルが最後の一匹を見つけてくれた。


「あの凹んでいる辺りに気配がする!」


 そうマモルが指摘すると、地面の凹んでいるところから、ジワリとスライムが這い出してきた。

 僕は素早く走り出し、最後のスライムにとどめを刺した。


「走って戻るぞ!」


 僕が慌ててマジックジェムを拾うと、マモルの号令と共に三人で走り出す。

 僕たち三人は息を切らせながら迷宮から出てきた。


「ハァ、ハァ……」


「久しぶりに全力疾走したな……」


「俺もだ……」


 マモルと赤石君が笑顔で会話を交わす。

 昨日は毒島君に邪魔をされたけれど、今日なんとかスコアが120まで到達した僕は、達成感を持ってスキルボードへと向かった。

 これでようやく僕もみんなと同じスタートラインに立てるはずだ。

 僕は右手をスキルボードにかざした。


 ・・・・・・・・

 紫村響哉:LV1

 スキル:雷魔法LV1

 パーティメンバー:千堂衛、赤石哲弥

 ・・・・・・・・


 だが、そこに表示されたのは昨日と全く変わらぬレベル1という表記だった。

 僕は思わずスキルボードを強く叩いた。

 バン!という音が迷宮入口に響く。

 周囲の生徒たちが、驚いて僕を見た。


「何でだ?」


 スキルボードが壊れてるんじゃないか?それとも、壊れているのは僕の方なのか?


「キョウヤ!」


「紫村!」


 二人が僕を心配するように名を呼ぶ。

 だが、僕には二人の声が耳に入らない。

 何かが僕の中で決壊した。

 これまで必死に堪えてきた感情が、一気に溢れ出す。

 努力は報われるはずだった。

 頑張れば、結果が出るはずだった。

 でも、現実は違った。

 スコア120だぞ。もう個人差なんて話じゃない。なんでレベルがあがらないんだ?!もしかして僕は本当に落ちこぼれなのか?

 そんな自責の念が僕を苛む。


「キョウヤ、諦めるのはまだ早い!また明日がんばろう。努力は嘘をつかない!」


「マモル……僕は……僕は努力してもダメなのかもしれない」


 マモルは言葉に詰まった。

 彼も、僕がなぜレベルアップしないのか分からないのだろう。

 でも、それでも励まそうとしてくれる。


「キョウヤ!」


 マモルが大きな声で僕の名前を呼ぶ。


「諦めるなキョウヤ!探索が上手くいかなかったとしても、全ての努力が無駄だったわけじゃない!勉強も、部活も、毎日のいろんな努力がお前を成長させているじゃないか!」


 そうだ。僕には第二剣術部で瀧川さんから指導してもらっている剣術があるじゃないか。

 入学当初よりも上達している実感はある。

 毎日木刀を持って正しいフォームを求めて素振りをしている。

 この積み重ねは決して無駄じゃないはずだ。


 だけど、僕の心には一抹の不安が残っていた。そんな不安をかき消したいと、探索の後の武器術の授業で、僕は一ノ瀬君に声を掛けていた。


「一ノ瀬君。僕と試合をしてくれないか?」

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