第130話 まだ諦めてなかったのかよ?
ユノを先に帰らせた後、俺は須佐と二人で向き合って座っていた。
テーブルを挟んで、緊張が静かに張りつめる。
「これからが本題ってことですか?」
「そうだ」
ユノの聖女疑惑はあくまでも別件だったようだが、今更驚く事でもなかった。この人は朝、寮を出るところから俺を尾行していたからだ。最初から俺に用件があるのは分かってはいた。
俺は須佐に尋ねた。
「朝から俺を尾行していましたよね。本当の目的は俺だった。何が目的なんですか?」
「単刀直入に言おう。君たちが通う東京ダンジョン学園で、高ランクポーションの取引が何件か目撃されている。そして君がそれに関わっているという情報がある」
俺だ。というか高ランクポーションの取引って、全部俺のことじゃないか?
だが俺は簡単にそれを認めずに、話をそらそうとしてみる。
「それがどうかしたんですか?何か問題でも?」
すると須佐は眉間にしわを寄せて答える。
「分からないのか?今世界中で高ランクポーションの価格高騰、品不足が続いている。中には投資目的で高ランクポーションを買い集めている資産家もいるくらいだ。ランク3以上のポーションは、世界中で喉から手が出るほど必要とされているんだ。そんなものが学生たちの間でいくつも流通しているというなら、それは異常だろう?そして私たち防衛省としても出どころを知りたいと思うのは当たり前だろう」
要するにこの人の……いや、自衛隊の真の目的は、高ランクポーションが欲しいということか。
だがそんなに簡単に話そうとは思わない。
俺が見つけた攻略法を、何もせず横からバクろうなんてずるいし、そもそも尾行なんてして探ってくるような卑怯な連中に素直に情報を与えたくはない。
「そうなんですか。でも俺から話せることは何もありません」
「それは何も知らないという事か?」
「知ってるか知らないかも話す気はありません」
「なぜだ?これは国家の利益に関わることだ。協力してもらえないだろうか?」
「須佐さん、それは法的根拠がある強制聴取ですか?」
「は……?い、いや、私は警察ではない。そのような権限はない」
「では任意聴取ですね。任意である以上、俺には答えない権利があります。自分の不利益になることを、わざわざ話す必要はありませんから」
俺ははっきりと須佐への協力を拒否した。
ここまではっきり断られると思っていなかったのか、須佐は驚きの顔で言葉を失っていた。
俺は言葉を続ける。
「答えなくてもいい場面で、自分から手の内をさらすほど馬鹿じゃありませんので」
須佐は明らかに動揺していた。
「……その、だな。一ノ瀬君」
言葉に詰まる須佐。おそらく、高校生相手にここまではっきり拒否されるとは思っていなかったのだろう。
「決してそういうつもりで言ったわけではないんだが……」
「では話はここで終わりでいいですね。それじゃあこれで失礼します」
俺はそう言って椅子から立ち上がる。
須佐はそんな俺を引き留めることもできず、ただ俺の背中を見送るだけだった。
・・・・・・・・
部屋を出ると、先に帰っていてもらっていいと伝えたはずのユノたちが、俺を心配して待っていた。
俺は心配をかけたみんなに謝罪し、何があったかを素直に話す。
櫛名田先生は申し訳なさそうな表情で、俺たちに謝罪した。
「隠していて、ごめんなさい。騙すつもりはなかったんです」
先生の言葉に嘘はないように感じた。
せっかく俺たちの副担任として来てくれた櫛名田先生は、俺が須佐の申し出を断ったことで辞めてしまうだろうか?だとしたら少し寂しいが、それでも仕方ないだろう
そうして俺たちは帰路へとついた。
・・・・・・・・
週末が明けて月曜日の朝。
俺たちがいつものように登校すると、なぜか今日も全体朝礼があるということで校庭に集合していた。
学園長の話は退屈なので面倒くさい。そんなことを考えながら俺はいつものようにクラスの列の最後尾に並んでいた。
「五月も半ばとなり、新入生の皆さんも探索が慣れてきたところだと思いますが、この慣れてきた時というのは一番危険な時となります……」
話が長いな。要点だけ話せばいいのに……。
「……というわけで先週から赴任されてきている櫛名田先生ですが……」
やはり櫛名田先生の話か。辞めちゃうのか……。
「実は臨時教師としての役割とは別に、この学園に調査のために来ているとのことです」
え?ばらしちゃうの?ってことは今後もいるのかな?
「その調査とは、最近学園内でいくつか目撃されている高ランクポーションの入手経路についてなのだそうです。皆さん、できる限り協力をお願いします」
……誰が協力するかよ!
学園長の話を聞いた生徒たちがざわつき始める。
もしかしたら俺の意思とは反し、俺がお嬢にランク3を譲るところを目撃した生徒たちが何か話してしまうかもしれないな。その時はまた何か問い詰められそうだが、まあ秘密だと言って隠し通そう。
そして学園長の話はまだ終わっていないようで、話を続ける。
「そして櫛名田先生は教員としての仕事もありますので、調査のためにもう一人防衛省から派遣されてきた人を紹介します」
「は?」
思わず声が出てしまった。周囲の何人かが俺の方を見る。
まずい、目立ってしまった...…
俺は慌てて口をふさぐ。
そして学園長に紹介されて檀上に上がった人物を見て、俺はさらに言葉を失った。
彼は自己紹介をする。
「須佐タツノリだ。みなさんの邪魔にならないよう、迷宮内を調査させてもろう。時にはみなさんに話を聞かせてもらう時があると思うが、協力をお願いしたい」
まだ諦めてなかったのかよ?
この日から、俺の自由な迷宮探索に翳りが見え始めた。
第八章 完




