第11話 初めてのスキル実践
まずは千堂の気配察知からだ。他の生徒は担任と千堂のやりとりを見守っていた。
千堂は目をつぶりスキルに集中する。時々手のひらを前方に掲げたりして気配を察知しようと試みる。
「どうだ千堂?」
「はい。なんとなくですが前に人がいる場合にその気配がわかる気がします」
「前だけか?横とか後ろはどうだ?」
「周囲も確認しようとしたんですが、前方向と比べるとよくわからないです」
「そうか。千堂のスキルは前方感知が得意なタイプなのかもしれないな。今日はそのへんにしておこう。コツコツスキルの練習をして感知の精度を上げるよう努力してみてくれ。そしてくれぐれもスキルだけに頼らないように、中には隠密などの気配隠蔽スキルもあるらしいしな」
「はい」
元気よく返事をする千堂に、紫村が声をかける。
「やはりすごいよお前は」
「何を言ってるんだキョウヤ、パーティを組んだら僕のこのスキルも君のために生かして使うんだ」
「ああ、ありがとう」
またこいつら友情コント始めやがる。全然面白くないからな。でもクラスの一部の女子からは評判が良い。
「じゃあ次は早坂、治癒魔法に挑戦してみてくれ」
「はい!」
担任に呼ばれ早坂が前に出る。
「と言っても、どうやったらいいんでしょう?」
「そうだな、誰か今怪我をしてる者はいないか?小さな擦り傷とかでもいい」
「あ、俺指のささくれが痛いです!」
クラスメイトの笑い声に包まれて一人の男子生徒が早坂の前に出る。
「じゃあ早坂、彼の手にヒールをかけてくれ。治癒魔法や攻撃魔法は連続して使うと体内の魔力が減少して体調不良になることもある。魔法に慣れてどれくらい連続して使えるか分かるようになるまで連続して使わないように気を付けてくれ」
「はい!」
教師の説明が終わると、男子生徒がささくれのある手を差し出し、その手の上に早坂が手をかざす。
そして意識を集中させ、魔法を唱える。
「ヒール!」
すると早坂の手のひらからキラキラとした何かが、男子生徒の手の上に降り注いだ。
「おー!」
それを見ていたクラスメイトの歓声が響く。
「すぐにできるなんてすばらしいな。スキルを持っている者は、何となくすぐにスキルを使うイメージがわくらしいが、それでも一回でできる者は珍しいぞ。その調子でどんどん治癒魔法を使っていってくれ」
「はい!」
早坂は元気よく答えた。
「それじゃ次は鮫島の番だ」
「はい……」
早坂があまりにさくっとできたため、鮫島シヅカは不安そうな顔で前に出た。
「鮫島さんもがんばってね!」
入れ替わり際に早坂が応援をするが、鮫島は恨めしそうに早坂をにらみ返した。
「それじゃ他に最近怪我したやつはいないか?スキルレベル1じゃ古傷は治らないからな」
だが怪我をしている者は一人もおらず、誰も名乗りを上げない。
すると先ほどささくれを治したばかりの男子がもう一度手を上げる。
「あ、俺左手にもささくれがあります」
そこでまたクラスメイトに笑い声があふれる。
「じゃあ白石、もう一度出てきてもらえるか」
確か名前は白石祐介だったか。まだ名前を覚えていないクラスメイトも多い。
個性がないとなかなか名前覚えられないんだよな。
白石は面白いやつだと覚えておこう。
「鮫島さんよろしくね」
「え、ええ……」
白石が左手を差し出すと、鮫島は早坂がそうしたように白石の手の上に自分の手をかざす。
「ひ、ヒール!」
だが早坂の時のように鮫島の手から光はあふれない。
「焦らなくていいぞ鮫島。コツがわかるまではなかなかできないものだからな」
「はい」
その後何回かやりなおした後、ついに鮫島の手のひらからも光の粒子が舞い降りた。
「できた!」
達成感から喜びの表情を浮かべる鮫島。
だがヒールを受けた白石は、不思議そうに自分の手を見つめる。
「どうした白石?」
「いえ、さっき早坂さんにヒールしてもらった右手の方は、肌もつるつるになった気がして」
それを聞いた鮫島は、自分の治癒魔法の効果が弱いと言われているからか不機嫌そうな顔をしていた。
白石の感想に、担任が説明をする。
「同じスキルでも人によって効果に違いがあるからな。一つ注意しなければいけないのは、美容整形した人間にヒールをかけてしまうと整形前に戻ってしまうことがあるらしい。これはポーションを使った時にも言えることだが、その人間の本来の形に戻ろうとする性質があるためらしいので、使う相手には注意してくれ」
これは有名な話だ。セレブと呼ばれる世界の大金持ちは、怪我をしてなくても美容のために治癒魔法を受け肌をきれいな状態にするのだという。そんなセレブの中でも顔面改造をした人が、治癒魔法の効果が強すぎて整形前の顔に戻ってしまったという話だ。
「それじゃあ次は攻撃魔法スキルの確認をしよう。三枝」
「はい」
鮫島と入れ替わり三枝ユカリが前に出る。
三枝は土魔法スキルを持っているが、なかなか魔法を使うことができず何回も失敗した後、担任に指導されながら最終的に小さな石の塊を宙に浮かべ前に飛ばすことができた。
あれなら手で石を投げた方がいいな。
「攻撃魔法は武器を持ったまま遠くの魔物を攻撃できるから使いこなせるようになると便利だ。三枝もこつこつ練習を続けてくれ」
「最後に百田だな」
「えっ、最後?紫村は?」
思わず俺は声を出してしまった。
「紫村のスキルはユニークスキルのため、入学前に教師たちと確認済みだ。なかなか使いどころが難しいスキルみたいだな。どうする紫村?今からみんなの前で使って見せてみるか?」
「いえ、結構です。俺はたぶん戦うときはスキルに頼らないと思います」
「そうか。じゃあやっぱり百田が最後だ」
「は、はい!」
今度は三枝と代わり百田マイカが前に出た。
この子はあれだ。確かダイエットするために探索者を目指してる子だ。
百田は前に出るとみんなに注目されて、恥ずかしそうにもじもじしていた。
「百田は水魔法スキルを持っているのだったな。水魔法と言ってもれっきとした攻撃魔法だからな。水の塊も速度があれば十分に殺傷力が出る。慣れるまで三枝みたいに小さな塊を出して、前方に飛ばしてみなさい」
「はい」
百田は両手を上に掲げ、魔法の発動をイメージする。
「ウォーターボール!」
百田がそう言った時、クラスメイト全員が驚きの声を上げた。
百田の頭上にはみんなが想像していた水球ではなく、風呂が一杯になるであろうほどの量の波打つ大きな水の塊が浮いていたからだ。
「えっ?」
驚いていたのはクラスメイトだけでなく百田もだった。
その瞬間百田の集中力が切れ、水が百田自身へと降ってきた。
ドシャッ!という音を立て、地面へと落ちた水が飛び散る。
キャー!と悲鳴を上げた百田は全身水浸しで、百田だけでなく前方で見ていたクラスメイト達もひどく水がかかってしまい、濡れた生徒たちの叫び声が鳴り響いていた。
「あんたふざけんじゃないわよ!」
一番怒っていたのは鮫島だった。後ろの方にいた俺には水はかかっていないが、前の方で見ていた鮫島は全身水浸しになっていた。
「ご、ごめんなさい!」
申し訳なさそうに謝罪する百田自身が一番水浸しで、髪の毛からは水滴が流れ落ちていた。
「落ち着けみんな!いったん今日の授業は終了にする。ロビー横に更衣室がある。その奥のシャワー室でシャワーでも浴びてくれ。濡れなかった生徒は濡れた生徒の分の着替えを借りに行ってくれ」
担任が指示を出す中、こんな事態を招いてしまった百田は泣いていた。すぐにそれに気づいた早坂が、彼女に声をかけて励ましていた。




