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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第七章 天衣無縫 -individuality-
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第105話 早坂ユノ 3

 鷹宮先輩の指導を受けながら、私たち三人は基礎練習をこなしていった。

 矢をつがえる手つきも、最初よりは少しだけスムーズになった気がする。

 的に当たる回数も増えてきて、少しだけ自信がついてきた。

 そうして一通りの基礎練習を終えた時、鷹宮先輩が言った。


「だんだん慣れてきたわね。それじゃあせっかくだから、隣の建物も紹介するわ。ついてきて」


 私たちは先輩に導かれて、弓術道場の隣にある建物へと向かった。

 そこは、木造の道場とは対照的な近代的な建物だった。

 白い壁、ガラス張りの入口。まるで研究施設のような外観に、私は少し戸惑う。


「ここが第二練習場よ。貴族用のハイテク道場ね」


 大きなガラスの自動ドアが開き、建物の中に入ると、そこには見たこともないような機器がたくさん並んでいた。

 大型のモニター、天井から吊るされた機械、床に埋め込まれたセンサーのようなもの。

 まるで別世界だ。


「すごい……」


 思わず声が漏れた。

 ヒカルさんとメイさんも、目を丸くしている。


「ここでは機械的に動く的や、魔物をホログラムで表示して練習できるの。実戦に近い形でトレーニングができるわ」


 鷹宮先輩がパネルを操作すると、空中に緑色の光が現れた。

 それはみるみるうちに形を成し――スライムのホログラムになった。


「これは第一階層のスライム。次は――」


 操作を続けると、今度はゴブリンが現れた。さらにジャイアントトードまで。

 まるで本物のように動いている。


「すごいですわ……こんな設備があったなんて」


 ヒカルさんが感嘆の声を上げる。


「まずは私が見本を見せるわね」


 鷹宮先輩が弓を構えた。

 ホログラムのゴブリンが左右に動く。

 先輩が矢を放つ――的中。

 次のスライムも、ジャイアントトードも、すべて的確に射抜いていく。


「では、あなたたちもやってみて」


 私たちの番が来た。

 私が最初に挑戦する。

 動くゴブリンに狙いを定めて――外れた。

 次も外れた。

 なかなか当たらない。


「難しい……」


 ヒカルさんもメイさんも苦戦している。

 授業で静止した的に当てるのとは、まったく違う。

 動く相手を捉えるのは、こんなにも難しいのか。

 何度か挑戦した後、私は思い切って鷹宮先輩に相談してみた。


「あの……先輩。どうしたら、先輩みたいに上手く当てられるようになるんでしょうか」


 鷹宮先輩は優しく微笑んだ。


「そうね……正直に言うと、ここはすごい設備なんだけど、お金をかけただけであまり役に立たないのよ」


「えっ?」


 意外な言葉に、私は驚いた。


「もちろん、動く標的に慣れるという意味では良いわ。でもね、本当に大事なのは、隣の弓道場で集中力を磨くこと。そして実戦で鍛えていくこと。ハイテク機器に頼るより、基礎をしっかり身につける方が大切なの」


 先輩の言葉に、私は頷く。

 確かに、機械で練習するより、あの静かな道場で心を整える方が大事な気がする。

 でも、私にはまだ聞きたいことがあった。

 勇気を出して、もう一度口を開く。


「あの……実は、最近すごく悩んでることがあって……」


「何かしら?」


「私のパーティの仲間が、すごく強くて。みんなどんどん成長していくんです。でも私は……治癒魔法しか使えなくて、足を引っ張ってるんじゃないかって」


 言葉にしてしまうと、胸の奥がきゅっと締め付けられた。


「イオリは剣が強くて、マイカは魔法がどんどん上手くなって。私だけ、何もできなくて……」


 声が震える。

 ヒカルさんが、そっと私の手を握ってくれた。


「私も同じですわ。私もダンジョンでは役に立てていない気がして……」


「ヒカルさん……」


 そんな私たちをメイちゃんは複雑な表情で見守る。

 鷹宮先輩は、私たち二人をじっと見つめていた。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「二人とも、自分を責めすぎよ。誰かと自分を比べなくてもいいの。それよりも大切なのは自分の得意なこと、自分らしさを見つけることよ」


 先輩の声は優しかった。


「確かに私は弓が得意よ。でもそれは、私にスキル『鷹の目』があるからなの」


「鷹の目……」


「動体視力がアップして、予測射撃ができて、俯瞰もできる。弓術向きのスキルよ。だから私は弓が得意なの。でもそれは、私が特別努力したからじゃなくて、たまたまこのスキルを持っていたから」


 私は落ち込んだ。

 やっぱりスキルなんだ。

 私には治癒魔法しかない。

 攻撃系のスキルは何もない。

 私には……無理なんだろうか。

 そんな私の様子を見て、鷹宮先輩が続けた。


「でもね、こんな私も、あなたたちと同じように悩んでいた時期があったのよ」


「えっ?」


 意外な言葉に、私は顔を上げた。


「私と同じ三年A組には、幼馴染である生徒会長の九条カズマと副生徒会長の山縣ケンジがいるの」


「生徒会長……」


 そう言えば、ヒカルさんの従兄だって聞いたことがある。

 ヒカルさんも自分のお兄さんの話だと知り、興味深そうに耳を傾けていた。


「小さい頃から、私はその二人には敵わなかったの。違う学年に生まれていれば、私も学年主席になれたかもしれない。でも同じ学年に天才が二人もいて……正直、辛かったわ」


 鷹宮先輩が、遠くを見つめる。


「どんなに勉強しても、運動しても、どんな努力をしても勝てなかった。私の成績は、一年からずっと三席だった」


「でも……先輩はすごいじゃないですか」


「ありがとう。でもね、私が救われたのは弓術と出会ってからなの」


 先輩が微笑む。


「弓術だけは、これだけは負けたくないって思えた。そしたら不思議なことに、他の成績で負けていることが気にならなくなったの」


「気にならなく……」


「そう。自分らしさを見つけたから。私は勉強や戦闘では二人に敵わない。でも弓術なら誰にも負けない。それが私なんだって、やっと思えるようになったの」


 鷹宮先輩が、私とヒカルさんを見る。


「二人も、自分らしさを見つけることができれば、誰かよりも優れていなければならないなんて思い込みは消えるわ。大丈夫よ」


 その言葉が、胸に染み込んでくる。

 自分らしさ。

 私にとっての、自分らしさって何だろう。


「あなたたちは、まだ一年生。これから見つかるわよ。焦らないで」


 鷹宮先輩の言葉に、私は頷いた。

 でも――。

 私にとっての自分らしさって、本当に見つかるんだろうか。

 練習が終わり、着替えて帰る準備をする。

 ヒカルさんが声をかけてくれた。


「ユノさん、一緒に頑張りましょうね」


「うん……ありがとう、ヒカルさん」


 二人で笑い合う。

 でも私の心の中には、まだモヤモヤとした霧が晴れずに残っていた。

 私にとっての自分らしさとは、何だろう。

 治癒魔法――それが答えなんだろうか。

 でも、治癒魔法じゃ敵は倒せない。

 仲間の役には立てない――そう思ってしまう自分がいた。

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