第103話 早坂ユノ 1
私、早坂ユノは、最近ずっとモヤモヤしている。
私のパーティ仲間のイオリとマイカはすごい。そんな二人に対して私は、日に日に自分の力不足を痛感している。
昨日の授業では、シロウがマイカに水魔法のアドバイスをすると、マイカはあっという間に新しい技を習得してしまった。
壁に当たった水球の衝撃で岩がバラバラと崩れ落ちる様子を見て、私は言葉を失ってしまった。
そしてイオリは最初から強い。剣を振れば敵を一刀両断してしまうし、ヒュージスライムだって瞬殺してしまう。
それなのに私は――、治癒魔法は使える。怪我をした時には役に立つ。でもそれだけだ。
第二階層以降の敵は、私一人で倒すにはとても時間がかかってしまう。イオリなら一瞬だ。マイカも新しい魔法なら簡単に倒せてしまうだろう。
確実に私が二人の足を引っ張っている。
……もっと強くなりたい。
そんなことを考えながら、私は武器術の授業に向かった。
今日は木刀だけじゃなくて、新しい武器を習うらしい。
教室を出て、別の建物へと移動する。
弓術道場へと私たちは入って行った。
木の床の感触を感じながら進むと、そこは片側の壁がくりぬかれていて外が見えていた。外には矢道と呼ばれる芝生の地面の向こう側に盛り土があり、その前に白黒の丸の的が並んでいた。
弓道場に来るのは初めてだが、何か神聖な雰囲気があり気が引き締まるのを感じた。
「皆さん、こんにちは」
凛とした声が響いた。
振り向くと、そこには背の高い女性が立っていた。
「私は三年A組、弓術部部長の鷹宮レナです。本日は特別に皆さんに弓術の指導をさせてもらいます。よろしくね」
そう言って鷹宮先輩はニッコリと笑顔を見せた。
細身で背が高くて、イオリよりもさらに少し背が高い。長い黒髪を後ろで一つに束ねていて、姿勢がとても良い。
そして何より――。
「まつげ、長い……」
思わず呟いてしまった。
整った顔立ちに、長いまつげ。凛とした美しさがあって、私は見とれてしまう。
思えば貴族女性は美人が多い。ヒカルさんもそうだし、やはり血筋なのだろうか?羨ましい。
「今日はこれから弓術の基礎を学びます。今日の授業でもし弓術に興味が出たら、ぜひ弓術部へも来てください。体験入部も歓迎します」
鷹宮先輩が優しく微笑む。
ヒカルさん以外の貴族の人ってみんな横柄な印象だったけど、鷹宮先輩はとても人当たりの良さそうな人物のようだ。もっと仲良くなりたい。
それから、まずは長弓を射る練習を順番にすることになった。
鷹宮先輩が丁寧に構え方や射るタイミングを教えてくれる。弓の持ち方、矢のつがえ方、引き方、狙いの定め方。一つ一つが新鮮で、私は真剣に聞いた。
最初は男子から。
順番に的に向かって射ていく。
ほとんどの人は的に当たらず、矢が的の横を通り過ぎていく。
その中で、シロウがすぐに的に当てて見せた。
「おお!」
クラスから歓声が上がる。
さすがシロウ。何でもできるんだなあ。
続いて紫村君も的に当て、千堂君も当てた。
やはりできる人は何をやってもできるんだなあ。
男子の練習が終わり、次は女子の番になった。
私の順番が来る。
長弓を手に取ると、思ったより重い。
構えてみるけれど、弦を引くのがとても大変だ。
「力を入れすぎないで。肩の力を抜いて」
鷹宮先輩が私の横に来て、優しくアドバイスをしてくれた。
「背中の筋肉を使って引くイメージよ」
言われた通りにしてみる。
ようやく弦が引けた。
的を狙って、手を離す。
矢が飛んでいく――でも、もう少しで的に当たる寸前で外れてしまった。
「惜しいわね。でも初めてにしては良いフォームよ。もう少しだけ右に狙いを調整してみて」
鷹宮先輩がもう一度アドバイスをくれる。
次の矢をつがえて、今度は少しだけ右を狙う。
手を離す。
矢が飛んで――当たった!
中心ではないけれど、的に当たった。
「やった!」
思わず声が出た。
「上手よ」
鷹宮先輩が微笑んでくれる。
嬉しい。剣術では全然ダメだったけど、弓なら――。
その時、隣で大きな歓声が上がった。
見ると、イオリが三射連続で的の中心に当てていた。
「あなたすごいわね。経験があるの?」
鷹宮先輩が驚いた様子でイオリに近づく。
「少しだけ触ったことならあります」
「あなた弓術部に入らない?」
「すいません、私は剣術をもっと磨かなければならないので」
「そう、残念だわ」
またイオリがスカウトされてる。
第一剣術部に続いて、弓術部からも。
イオリのポテンシャルの高さには本当に尊敬する。何をやってもできちゃうんだから。
その時、誰かが言った。
「先輩のお手本を見せてください!」
「私のはあまり参考にならないと思うけど」
鷹宮先輩がそう言いながら、弓を手に取る。
そして、教室の隅に置いてあったボールを一つ持ってきて、シロウに手渡した。
「私が合図したらあの的を目掛けて投げて」
「え?普通に投げて的にぶつければいいんですか?」
シロウは少し戸惑った様子で聞き、鷹宮先輩は「そうよ」と答える。
鷹宮先輩が弓を構える。
「良いわよ」
その言葉と同時に、シロウが野球のボールを投げるように思い切りボールを投げた。
直後、レナ先輩が弦を放つ。
矢が飛んで――空中のボールに突き刺さった。
矢が突き刺さったボールが地面に落ちる。
「おお!」
クラス全体から大きな歓声が沸き起こった。
すごい。あんなに速く飛んでいるものに当てるなんて。
「迷宮内では止まっている的に矢を射るようにはいかないわ。動く魔物の急所を目掛けて矢を射らなければいけないの。これくらいできないと実戦では使えないのよ」
鷹宮先輩が淡々と説明する。
「第一弓術部では走りながら矢を射ったり、動く標的に射ったりするのよ」
「すごーい!」
生徒たちから簡単の声が漏れる。
それにしても本当にすごい。私もいつかあんな風になれるだろうか?
「次はコンパウンドボウを紹介するわ」
鷹宮先輩が別の弓を取り出した。
長弓とは違う、機械的な構造の弓だ。滑車がついていて、近未来的な見た目をしている。
順番に触らせてもらうと、長弓よりずっと引きやすかった。
「コンパウンドボウは引く力が少なくて済むから、女性にも扱いやすいわ。ただし」
レナ先輩が真剣な表情になる。
「絶対に人がいる方向へ撃ってはいけません。これは武器です。間違えて人に当たったら大怪我をします」
私たちは真剣に頷いた。
授業が終わり、弓を片付ける。
私は思った。
剣で魔物を倒すことはできない。でも、弓なら――。
弓なら、私にも向いているかもしれない。
遠くから敵を攻撃できれば、イオリやマイカの役に立てるかもしれない。
胸の中に、小さな希望の光が灯った気がした。




