第102話 飽きてきた第一階層探索
東京ダンジョン学園、チュートリアルダンジョン第一階層。
ゴールデンウィーク明けの初めての探索授業だ。授業での迷宮探索が始まって数週間。俺にとって、もはや第一階層の探索は退屈なものになっていた。
何百匹のスライムを倒してきただろうか?レベル5になった今、第一階層の敵は経験値にもならない。そして同級生に見られている今、スライムがポーションを落としてもランクアップさせることもできない。経験値貯めやアイテム集めのための作業なら苦にならないのだが、何のプラスにもならない探索は退屈極まりない。
「それでさ、GW何してた?」
パーティメンバーの水野が、もう一人のメンバー白石に話しかけている。
「俺は東京ドームにグラディエーター見に行ったよ」
「マジで?いいなあ!」
グラディエーター。それは迷宮探索者同士が一対一で戦うイベントだ。スポーツ興行として人気があり、チケットは高額で取引される。
「レベル30超えの探索者同士の戦いだったんだけど、マジで迫力あったわ」
「俺も見たかったなあ」
シロウは二人の会話を聞きながら、木刀を腰に差したまま歩いていた。
その時、通路の向こうから別のパーティが近づいてきた。
紫村キョウヤを中心とした三人組。千堂と赤石テツヤを伴っている。
「君たち」
紫村がシロウたちの前で足を止めた。
「迷宮で無駄話してちゃダメだよ。ここは危険な場所なんだから。周囲を警戒しないと」
「あっ、そうだな。ごめん、気をつけるよ」
俺は素直に謝罪した。
確かに紫村の言う通りだ。油断は禁物である。
だが水野は違った。
「でも僕たちもうレベル2になっちゃったから第一階層は退屈なんだよね。ちなみに紫村君はもうレベル2になったの?」
紫村の表情が固まった。
「……いや、僕たちはまだレベル1だ」
千堂と赤石も気まずそうに視線を逸らす。
「そっか。じゃあ頑張ってね」
水野の軽い調子の言葉に、紫村たちは何も言わずその場を離れていった。
シロウは水野の肩を軽く叩いた。
「水野、あんな言い方ないんじゃないか?」
「そうかな?別に悪気はないんだけど」
あれじゃ紫村をバカにしてるようなものだ。正しいのは紫村の方なのに。
だが水野はあっけらかんとしている。
「ところで、もしかして僕たちが一番早くレベル2になっちゃったかな?」
「いや、ユノたちのパーティは全員レベル3だぞ」
「「えー?!」」
水野と白石が同時に驚きの声を上げた。
「すごいな……って、早坂さんってそんなに強かったっけ?」
白石が首を傾げる。
「そういえば瀧川さんってすごく強いって聞いたことある。第一剣術部で男子に勝ったって」
「それ僕も聞いた」
水野が頷く。
「じゃあ瀧川さんが戦って他の二人のレベルを上げたんだね」
増長する水野を諌めるように俺が口を挟んだ。
「まあ、そうとも言えるけどな。最近じゃヒュージスライムとか瞬殺するし」
「えっ?第一階層主だよね?そんな簡単に倒せるものなの?」
白石が目を丸くした。
「いや、イオリが特殊なんだ。普通はかなり苦戦すると思うぞ」
そこへ、ちょうどユノたちのパーティが通りかかった。
ユノ、イオリ、マイカの三人だ。
「おーい、早坂さーん!」
水野が大きく手を振る。
呼ばれた三人は、俺たちの方へ歩いてきた。
「どうしたの水野君?」
「早坂さんたちってもうレベル3って本当?」
「そうだよー」
ユノが明るく答える。
「いいなあ。強い仲間がいて。瀧川さんとパーティを組んでたら何もしなくてもどんどんレベル上がってくんでしょ?」
「そ、そうだね……」
ユノの表情が一瞬曇った。
「お前たちだって俺がほとんどレベリングをしてやったようなもんじゃねえか」
「確かに」
白石が素直に認める。
「じゃあ僕らもレベル3に上げてよ!」
水野が食いついた。
「いいけど週末新宿ダンジョンまで行って三階層へ潜ることになるぞ」
「えっ?いきなり三階層?無理だよ!僕はほどほどでいいよ」
「まあ貴族じゃない限り、無理してレベル上げる必要もないよね」
白石が肩をすくめた。
二人は積極的にレベル上げをしたいわけではないようだ。
その時、ふと俺は奥多摩ダンジョンで水魔法ウォータージェットカッターを編み出したことを思い出した。そもそも水魔法スキルはマイカからもらったものだ。魔法が苦手な俺ができたのだから、マイカにもできるはずだと思った。
「そう言えばマイカ、水魔法のパワーアップ方法考えたんだけど興味あるか?」
「えっ?知りたい。教えて」
マイカの目が輝いた。
「水をホースから出す時に口元を絞ると勢いを増すだろ?それをイメージしたら水魔法の威力が増すと思うんだ」
「なるほど!早速やってみるね」
そう言ってマイカは手のひらの上に水球を浮かべた。俺の伝えたかったウォータージェットカッターとは違う形だ。
「そうじゃなくてホースから……」
「うーん……」
マイカは目を閉じて集中している。
水球がみるみる小さくなってゆく。圧縮されているのだ。
そしてマイカはそれを前方に放った。
バン!
激しい音と共に壁に当たると、当たった場所の岩壁がバラバラと崩れた。
「すごい……」
それを見ていた全員が言葉を失った。
「やった!できたよシロウ君!これなら私でもイオリちゃんの役に立てそう!」
イオリが満足げに頷く。
「さすがだなマイカ!」
俺が伝えたかったのとは違う魔法の使い方だったが、マイカはさすが本職の魔法使いだけあって、すぐにパワーアップしてしまった。
俺はそんなすごすぎる魔法を見て言葉を失っていた。
その横で、ユノは複雑な表情で拳を握りしめていた。
その時俺は、ユノの心の中には小さな影が落ち始めていたことに気付いていなかった。




