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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第六章 森林に眠る宝 -Legacy in the Forest Cave-
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第99話 毒消し薬のできるまで

 九条公爵と生駒さんの毒消し薬工場視察に、俺たちも付いて行かせてもらうことにした。

 山下さんに案内されて、プレハブ小屋の裏に行くと、そこには木製の棚が並んでいた。


「まずはここで毒消し草を干すんです」


 山下さんが説明する。棚の上には、俺が昨日取ってきた毒消し草が広げられていた。まだ緑色をしているが、少ししおれ始めている。


「毒消し草は、ダンジョンの外に持ち出すとおよそ一週間で枯れてしまいます。しかし枯らすのではなく、適切に乾燥させることで効果を保持できるんです」


「なるほど」


 九条公爵が頷く。枯らすのではなく、乾燥させる。その違いが薬効の維持に繋がるらしい。


「乾燥した毒消し草はそのままでは噛み砕きにくいため、工場内で加工します。では、中をご覧いただきましょう」


 山下さんはプレハブ小屋の扉を開けた。

 工場内は清潔に保たれており、作業台や道具が整然と並んでいる。規模は小さいが、効率的に配置されていることが一目で分かった。


「乾燥させた毒消し草は、まずこの石臼で擦って粉状にします」


 山下さんが古い石臼を指差した。


「粉状になった毒消し草を、水で練り固めます。普通の水では固まらないのですが、迷宮内で採取した水を使うと不思議なことに固まるんです」


「迷宮内の水……それはなぜなんでしょう?」


 生駒さんがメモを取りながら質問をする。それに山下さんが答える。


「私にも理由はよく分からないんです。斎藤さんと試行錯誤していて、毒消し草を乾燥させるまでは良かったんですが、そのままでは食べにくいし、水で戻そうとしても水を吸わなかったんです。それで乾燥させるのは失敗だったかと思ったんですが、斎藤さんが迷宮内で取れたアイテムだから迷宮内の水ならどうだと言って迷宮の水を取ってきてくれたんです。そしたらなんと元通りの毒消し草になったんです。それで乾燥させた毒消し草を保存しておき、探索するときに迷宮内で水に漬けて元に戻して使えばいいという話になったのですが、迷宮内は必ず水辺があるとは限りません。そこで加工することを思いついたんです」


 みんなが山下さんの説明に耳を傾ける。

 特に九条公爵は興味深そうに頷いていた。


「なるほど。試行錯誤の末に出来上がったんですね。素晴らしい」


 九条公爵に褒められ、まんざらでもなさそうな山下さんは、照れながら説明を続けた。


「そして毒消し草の粉と迷宮の水で固めたものをまな板の上でこねていくと、だんだんと色が黄色い半透明になり、自然と一粒ずつ均等のサイズで玉状になるんです。少し置いて安定させると、ジェムと同じような状態になります」


 実物がないため、山下さんは身振り手振りで説明をする。


「今回は実際に乾燥させた毒消し草がないため、口頭での説明になってしまいますが」


「いや、十分理解できましたよ」


 九条公爵が言った。


「ところで、乾燥期間はどれくらいかかるのですか?」


「天候にもよりますが、だいたい三日から一週間ほどです」


「なるほど。それと、セキュリティが少し甘いように見受けられる。屋外で乾燥させるということは、盗難のリスクもあるだろう。その辺りは少し考えないといけないね」


「ああ、確かに……今まではそんなことを考えたこともなかったものですから」


 山下さんは困ったような顔をした。確かに、こんな山奥で盗難など考える必要もなかっただろう。


 生駒さんが口を開いた。


「しかし、工程自体は非常にシンプルです。これくらいなら、材料さえあれば大量生産も十分可能でしょう」


「そうだな」


 九条公爵は満足そうに頷いた。そして、ふと思いついたように山下さんに尋ねた。


「ところで山下さん、乾燥させるという発想はどこから来たのですか?」


「ああ、それは」


 山下さんは少し照れくさそうに答えた。


「私、シイタケを栽培しているんです。干した方が高く売れますし、おいしくなるので。その干しシイタケの発想で、毒消し草も干してみたら上手くいったんです」


「なるほど!」


 九条公爵は感心したように笑った。


「身近な経験からの応用か。素晴らしい発想だ」


 山下さんは嬉しそうに頷いた。


「それでは次は、ダンジョン内に毒消し草がどれくらいあるか確認しに行かないといけないね」


 九条公爵は俺の方を向いた。


「一ノ瀬君、君が第四階層で毒消し草を発見したというのは本当かい?」


「そうです」


「ヒカルと同じ一年生だよね?もう第四階層に行けるのかい?」


「はい」


「もうレベル4になったのかい?」


「こないだ5になりました」


 俺が答えると、九条公爵とヒカルが同時に「5?」と驚きの声を上げた。


「たった一か月で5になれるものなのか?ヒカルはようやく2になったばかりだというのに」


 九条公爵は信じられないという顔で俺を見た。


「まあ……できましたね」


 俺は曖昧に答えた。確かに早いとは思うが、どう説明すればいいか分からない。

 ヒカルも複雑な表情で俺を見ていた。


「そうか、君は優秀なんだね。それでは一ノ瀬君、今から私たちをそこまで案内してもらえるかい?」


「もちろんです!」


 俺は胸を張って答えた。

 すると思いつめた表情をしたヒカルが声を掛けてきた。


「お父様」


「ん?なんだい?」


「私も連れて行ってもらえませんか?」


 その申し出に、九条公爵は少し困った表情を浮かべた。


「ヒカル、お前はまだレベル2だ。毒消し草のあると言う第四階層はまだ少し早い。危ないから待っていてくれないか?」


 九条公爵は優しくたしなめるようにヒカルへと答えた。

 ヒカルはとても悲しそうな顔をしてうつむく。


「いいんじゃないですか?」


 俺は思わず声を掛けた。

 公爵とヒカルは同時に俺の方を見る。


「家族旅行の途中で呼び出しちゃって申し訳ないし、おじょ……ヒカルさんのレベリングの続きをやりながら一緒に行きましょうよ。危険なところは俺がサポートするんで」


「しかし……」


「お父様、お願いします」


 俺の言葉と、ヒカルの言葉を聞いた公爵は、少し考えた後に答えた。


「そこまで言うなら分かった。だがヒカル、迷宮内では勝手な行動は慎むように。私と一ノ瀬君の指示にしたがうんだぞ」


「ありがとうございます!」


 公爵からの許可をもらったヒカルは、満面の笑みを浮かべてそう言った。


 そうして俺の案内で、公爵と生駒さんとヒカルを連れて、奥多摩ダンジョンの第四階層にある毒消し草の群生地へと案内した。

 ヒカルは無事にレベル3に上がり、大量に生える毒消し草に公爵と生駒さんは驚きを隠せないでいた。

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