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グリードゲーム 天才のデスロワイアル

作者: かぼちゃん

二作目です。欲望だけで書いたけど、前作の短編からは少しは成長したと思います。


「さぁ、貴女も願いを叶えるために、我々のゲームに参加しませんか?」


 大勢の人の熱狂に満ちた声が壁越しにくぐもって聞こえている。

 正直、目の前のこの不審者が何を目的としているのかはわからない。

 それでも、この魅力的な言葉を私は妄言だと否定することはできない。

「…もう少し、詳しく聞かせて」


 私の名前は如月琴(きさらぎこと)。いわゆるプロゲーマーってやつだ。

 中学生のころに引きこもって、そこで始めた格ゲーで連戦連勝。いつしか他のプレイヤーから畏怖される存在になり、オンラインの大会の優勝を総なめした。

 最終的には、東京で開催されたオフラインの公式大会で優勝のトロフィーと莫大な賞金を獲得した。

 その後は、プロチーム加入のアプローチを片っ端から蹴りつつ、他の格ゲーやレースゲーム、ソロFPS、ターン制ゲーム、とにかく様々なものに手を出しては、国内大会で賞金を獲得できるくらいまでの実績をたたき出した。

 そのうち、私のユーザーネームである「ジャック」という名前自体が、オンラインゲーム界隈においての神の存在として崇められるまでになった。

 そして、とうとう海外の格ゲー大会の運営から招待という形で、日本を飛んでアメリカに参上。心配だった旅費もあっちが持ってくれるということで解決した。


「Winner! Koto Kisaragi!」

 司会がそう言った瞬間、ヘッドホン越しに観客の歓声が入り込んでくる。

 過集中していた頭が、少しずつ元の現実を理解していく。息の上がった体に水分を押し込む。

 決勝のアメリカのプロプレイヤーは、このゲームでもトップクラスのプレイヤーだったが、特に窮地に落ちることもなく勝利した。張り合いはあるが、楽しんで夢中でゲームしていたら相手が既にやられてしまっているのは、ここでもいつも通りだった。


 表彰式を終えて控室に戻った私は、限界状態でテーブルに突っ伏していた。

 これは最初からずっとそうだが、表彰式の時が一番つらい。ゲームをしているときは気にもならない、何万人の観客の目線のすべてがこっちを向いている感覚がこの時は本当に吐きそうになるし、優勝者の一言なんてもってのほかだ。本当に勘弁してほしいのだが、残念なことに世間はそれを許しちゃくれない。

 おかげさまで、私は気力をすべて使い果たしていた。

「あー、早くホテルに戻りたい」

 思考する気も起きずに愚痴をこぼす。幸いにも、この個人の控室で私の言葉を聞いている人はだれ一人としていない。

 その時、部屋の扉がノックされた。

 おそらく運営の人だろう。とっとと帰らせてもらおう。

 そう思った私は、気の抜けた声にならないように意識しながら、「どうぞー」と言った。


 だが入ってきたのは、黒いスーツの不審者だった。顔や手のスーツから露出している部分も、銀色の装甲みたいな肌で怪しさに拍車がかかっている。こんなにも全身で不審を表現している、わかりやすくやばいやつは初めて見たかもしれない。

 不審者は入ってくるなり、いきなり話し始めた。

「お疲れのところ、申し訳ありません。私、『インバイダー』と申します。」

 いや、名前のところもう少し何とかならなかったのかお前。

 ただでさえ疲れているのに、茶番なんぞに付き合うつもりはない。お引き取り願おう。

「…えっと、ちょっと係員呼ぶね?」

「ああ!お待ちください!まず私の話を聞いてください」

 おかまいなしにスマホを開いて運営の人に電話しようとする。だが、私のスマホが繋がることはなく、圏外と表示されていた。

「…ね、まずは私の話を聞いてください、と言ったでしょう。何かするつもりはございませんので」

 …これ、かなりまずい状況?

 目の前のそいつはうんうんとうなずいてから、さっきと変わらないトーンで話し始めた。

「私どもの組織は、現在ある興行に着手しております。それは、各ジャンルの強者を集めてVR空間の中で戦っていただく、というものです。」

「ふーん…?」

「そして、これの最も大事なことは『参加するプレイヤーは自身の命を賭けていただく』ということです。」

 淡々と説明されたそれに、私は急に目の前のそいつが恐ろしくなった。

「デスゲーム!?私これから連れ去られるの?」

「いえ、そこはご心配なく。やりたくなければ、この話を断ってくだされば結構です。ただし…このゲームに勝てば、どんな願いでも叶えて差し上げます。」

 どんな願いでも叶える。その言葉に思わず反応する。

「どんな願いも…?」

「ええ、勿論。例えば…死人をよみがえらせたりとか、ね」

 …まさか私の過去を知ってるのか?私の頬に汗がつたっていく感触が伝わる。

 その様子を見てか否か、そいつは笑っているかのごとく両手を手を広げた。

「さぁ、貴女も願いを叶えるために、我々のゲームに参加しませんか?」


 あの後、そいつの話を聞いた私は、このゲームにのることにした。

 私の了承の返事を聞いたそいつは、不気味なくらいに浮かれた声色で「あなたなら、そうおっしゃってくれると思いましたよ」と言ってきた。

 そしてそいつが指を鳴らすと、私の視界はたちまち暗転した。


 次に目覚めるとそこは、まるで研究室のような薄暗い一室だった。

 6畳ほどの広さの空間の中央に、ポツンとカプセルだけが置いてある。

「ここは…?」

「はい、我々が誇るVRルームです」

 そいつは呆然とする私をよそに、カプセルの方に近づいて、表面のスイッチを押した。すると、カプセルが大きな音を鳴らしながら開いた。

「この中に入れば、貴女の意識はVRの世界に転移して、そのままゲームスタートになります。」

「…おっけー」

「もう一度、注意点を確認しますね。『プレイヤーには特典が1つ配られる』、『プレイヤーにはライフジュエルと呼ばれるコアが3個、体内にセットされる』、『ライフジュエルが残っている限りは、どんな致命傷でも死ぬことはない』、『体内のライフジュエルが0個になると、死亡する』そして、『生き残った一人が勝利』…これらを念頭に置いていただければ、あとは何をしていただいても大丈夫です。」

 そう言った後、そいつは私にカプセルの中へ入ることを促した。

 手は震えているが、それと同時に胸が躍る。

 ここまで来たら、今更臆せずに自分の望むままにやってやろうじゃないか。

「長くはないけど、ゲーマー人生、最大の山場だね」

 そう独り言を吐き、カプセルに寝転がると、すぐに煙を吹きながらそれの蓋が閉まった。

 やがて、意識が遠のいていく――



 再び目を覚ますと、そこは会場の控室でも無機質な部屋でもなく、どこかの建物の中だった。寝転がっているベッドはボロボロ、周りの物や、壁も長い間整備されていないようだ。

 ひびの入った鏡があったので、自分の着ている服を確認すると、入ってくる前と全く同じ緑のパーカーにショートパンツだ。黄緑のショートヘアーも、160の身長もしっかり再現されていた。

「VRゲームってこんな感じなんだ…ほんとに別世界に来たみたいだ」

 実は、私はVRゲームはプレイしたことがない。画面上の平面的な世界でなく、三次元空間でのゲームは初めての経験だ。

 ひとまず、最初にすることは特典の確認。

 両手を前に出して「はああ」と叫んでみたが、何も起きない。

 次に、周りを確認すると、さっきのベッドの上に場違いなタブレットを発見した。

 これだ。そう思って、タブレットの電源をつけてみる。画面に映ったのは、何かのカタログ表。

 調べてみるとど、どうやら「モニ」という通貨を消費することで、武器や道具、バフを獲得できるらしい。簡単なものは2桁で済めば、高いもので6桁くらいする。右上に表示されている数字は、私の今の通貨だそうだが、0と書いてあるから私は今無一文なのだろう。

「げっ、もっとイキナリ最強セットみたいなのだと思ったけど、そうもいかないよね」

 とにかく、強くなるために私は、まずはこの世界の通貨を稼がなければならない。それも他のプレイヤーに出くわさないように。

「いいや、慎重に行こ。まずはここに何かないか探そう」


 最初は期待していなかったこのおんぼろ廃墟だが、くまなく探してみると金庫の中に100モニを見つけた。決して多くはないが、この最序盤ではかなりありがたい。

「これで、最低限購入しよう」

 早速カタログを開き、購入ボタンを押していく。 


 刀Lv1 100モニ

 所持金 100モニ→0モニ


 これを購入すると、腰のベルトに鞘付きの刀が現れた。

 やっぱり一番得意な刀がないと始まらない。

 ただ動けるのかが心配だったので、さっき手に入れたばかりの刀を持って、よくアクションゲームでしていた動きを試してみた。

 すると、運動音痴の私の体が嘘みたいに思い通りに動いた。

「VRってすごいな…これならこの武器でも戦える!」

 自信を持った私は、さらなるモニ集めのために行動範囲を広げることにした


 廃墟を出て、森の中をまっすぐ歩くこと数分、村を見つけた。

 よくあるファンタジー物の小さな田舎の集落だ。

「さて、こういうゲームのお金稼ぎの定番と言えば村人のクエストだったりするけど…」

 それに期待をしながら街に足を踏み入れたが、すぐに異変に気付いた。

 人の声がしない。つまり、村にいるべき村人の姿がないのだ。

「…?中にいるのかな?」

 適当に近くの家の中にお邪魔してみたが、誰もいなかった。

 一応の目的はモニなので、家の金庫を漁ってみたが既に空っぽで何も入っていない。

 考えられる可能性は、極悪盗賊か、他のプレイヤー。

 前者なら大稼ぎのチャンスだが、後者ならかなりピンチだ。こっちより有利な状況のプレイヤーがこの近くにいるかもしれないのだから。

 そして、既にゲーマーで培った察知能力が、最悪の可能性を示している。

「…後ろにいるよね、出てきて?」

 冷や汗交じりの声でそう言うと、家の入り口に少女が姿を現した。黒い帽子とコートに身を包んだ同い年くらいの彼女は、明らかに慣れた手つきで銃を構えていた。

 場違いな服装は間違いなく私と同じプレイヤーだろう。

「よくわかったね、これでも気配を消すのは得意なんだけど。あなた何者?」

 名前を聞かれて一瞬悩んだが、ここはゲームの世界。十八番の名前を使わせてもらおうとしよう。

「私は『ジャック』。プロゲーマーだ。」

 プロゲーマーと付け加えたのは、相手をビビらせるため。その世界でプロを相手にするのがどれほど恐ろしいかは、子供でも理解できる。実際は、VRゲームは畑違いだが。

「…なるほど、わかった。私の名前は『リサ』。少し話そう」

 即交戦は避けられたようだ、助かった。

 彼女は銃を構えたまま、家の椅子に座るように促す。

 ひとまずは言うとおりに座ることにした。

 しかし、それでもなおマズいこの状況、一体どう切り抜けようか。落ち着いて相手の話を聞きながら考えよう。

「早速だが…私たち、手を組まないか?」

 ……は?


 私は突然の提案に拍子抜けしていた。

 だが、それは奇想天外な提案に驚いたからではない。相手から交渉を持ち掛けてきたという事実に驚いているのだ。

 実は、誰かと手を組むというのは元々こっちも考えていた。勝者は一人だが、勝者の候補に選ばれるには、序盤の最も条件がフラットな混戦を生き残らなくてはならない。

 一旦、知らないふりで相手に乗せられておこう。

「手を組むって…いったい何を言ってるの?」

「簡単なことだよ。あなたのプロゲーマーとしてのスキルを私に提供してほしいの。ゲームにおいてプロゲーマーは間違いなく優勝候補のひとつだからね」

「でも、それって私にメリットはあるの?」

「勿論、私のスキルも提供する。私は世界最大のマフィアの元参謀。謀略だけでいえばあなたよりも優れているって自負できる。」

 なんとなく堅気の人間じゃないと予想していたけど、これは想像以上。「インベーダー」とやらは、アングラの中でも特に真っ黒な世界にも顔を出しているらしい。

 だが、ここは臆せず乗っかるのが最善だ。下手に出し抜かれさえしなければ、生存率はかなり上がる。

「…いいよ、その話。」

「よかった!断られたらどうしようかと思ったよ」

 …ほんとにどうする気だったんだろう。

「じゃあ、私の特殊能力見せてあげるね。」

 リサはそう言って銃を降ろすと、ポケットからモニをいくつかとりだしてそれをテーブルに投げた。

 すると、たちまちテーブルは黒い大男に姿を変えた。

「これが、私の能力。無機物を従属的な部下の人形にできる」

「へぇ、なるほど…っ!?」

 感嘆の言葉を漏らした瞬間、別の大男がこちらを羽交い絞めにしてきた。

「よくやったわ、ご苦労様…さて、私の方が優位でありたいの」

 怪しい笑顔で近づいてきたリサは、もがく私の胸に手を突っ込んだ。

 そしてとりだしたのは一個のピンク色のハート形の石。

「それは!?」

「そ、ライフジュエル。一個貰うよ」

 彼女はにこりと笑うと、それを自分の胸の中に放り入れた。

 ああ、いってるそばからやられた!


 その日の夜、私は村の家の一つで横になっていた。

 正直、このゲームを甘く見ていたかもしれない。リサは厄介な相手だ。

 私たちは、あの後そのまま村に泊まっていくことになった。

 そこで夜襲用にと配置された見張りの部下は、私が考えていた案の一つ、寝こみを襲うという手段を許してくれない。

 かといってここで逃げるのは最もナンセンスな手だ。

 ライフジュエルを失ってから、特殊能力が弱くなった。カタログを確認したら、買えるアイテムに制限がかかっていて、6桁のアイテムが買えなくなっていたのだ。

 おそらくその仕様にリサも気づいているだろう。

 リサ自体が捨て駒を作れる能力であるため、雑に切り捨ててくることはまずないだろうが、このままだと私は間違いなくこのゲームに負ける。

 自然と笑みがこぼれる。誰かにゲームで負けたことのない私が、このゲームで強者と戦って、それでも敗北の可能性が見えている。

 こんなにもゲームでアツくなることは今後一生ないだろう。

 当然、それはそれだ。こっちにも譲れない目的があるから、負けるわけにはいかない。

 ただ、今日はもう眠くなってきた。私は大きな欠伸をして、そのまま眠った。

 

 翌朝、リサに無理やり起こされて、やってほしいことがあると言われた。

 どうやら私が最初に目覚めた廃墟に拠点を構えることにしたらしい。リサ曰く、村は他のプレイヤーも通りがちで意図しない戦闘が起きやすいからだとか。

 一応手を組んでいるので何もしないわけにもいかず、私は必要な荷物を拠点に運ぶのを手伝った。


 VRの体でも重い力仕事は流石に堪えた。仕事を終えて疲れた体を休めていると、リサがやってきて、まじめな顔で話し始めた。

「…さて、ジャックもわかってると思うけど、まずは中盤の時点でトップに立つ下準備が必要よ」

「うん、それはそうだけど…もしかして何か考えがあるの?」

「そうね。…最初に私たちは序盤の内にライフジュエルの積極的な獲得をすべき。あなたももう気付いているはずだけど、体内のライフジュエルの数はそのまま特殊能力の強さにつながる。」

「だから、雑魚プレイヤーの数が多い最初にライフジュエルを回収するってこと?」

「流石、勘が鋭い…そうだ、一人につき3個とれるのを考えると、60個は欲しい。」

「それなら、私たちも早く動かないと。」

「ええ…でも、その前にさっきの村に行きましょう。」

 そう言ったリサは椅子から立ち上がって、あくどい笑みを浮かべた。



「ちきしょう!なんだ、てめぇら急に攻撃しやがって!雑魚は大人しくしてろっつーの!」

 さっきの村に戻ると、村人の姿をした人形に応戦している一人の男がいた。

「えっ?何これどういう状況?」

「あの廃墟に行く前に、人形を作って仕掛けておいたの。普段は家の中で眠ってるけど、私たち以外の誰かが家の扉を開けたら報告と攻撃をするようにセットしている。」

 そして、戦闘の様子を見ながら、彼女はにやりと笑った。

「ラッキーね、早速一人釣れた。彼もプレイヤーよ」

「おお、早速ゲットだね!…でも、どうやって彼を倒すの?あれだけじゃ仕留めきれなくない?」

 そう。人形は数こそ多いものの、明らかに劣勢を強いられていた。

 気になって疑問をこぼすと、リサはこっちを見て笑った。

「決まってるでしょ。出番よ、プロゲーマー『ジャック』」

 なるほど、最初からこうするつもりだったか。まぁ自分の力を試すにはうってつけの機会だと思えばいい。

 私は腰の刀を抜いて、そのまま飛び出した。

 

「!?てめぇ…プレイヤーだな?ちょうどいい!お前のライフジュエル、全部よこせ!」

 おっと、こっちに気づいた!

 敵の男は最後の人形を仕留めると、私にバットをフルスイングしようと構えた。

 そして、私目掛けて思いっきり振り落ろす!

 だが、私の反射神経ならその程度は集中する必要もない。

 大振りの攻撃をかわして、脇腹にカウンターを叩きこむ。

 だが、敵はよろける様子を見せなかった。

「…効いてない!?」

 おかしい、確かにヒットしたはずだ。

 相手の追撃を予想して、すぐに転がって相手の脇をすり抜ける。

 私がさっきまでいたところにバットが振り下ろされる。

「気をつけて!そいつの能力は自分自身の体を鉄に変える!」

 倒れている村人の人形からリサの忠告が聞こえる。

 なるほど、その能力ならこっちの攻撃が効かないのは納得だ。

 それなら、こっちも能力で対応しよう。

「リサ!あなたの持ってるモニをちょうだい!」

「…!なるほどOK!プロゲーマーの能力、見せてもらうよ」

 茂みから飛び出てきたリサは、指を鳴らした。

 すると、倒れていた人形が消え、そこからモニが飛び出してきた。

 これに驚いたのは敵の男だ。

「はぁ!?なんでプレイヤー同士が組んでやがる!」

 激昂する男の単調な攻撃をかわしながら、地面に散らばったモニを拾い集める。

「よし、これで500モニ!ここで使うのは…」


 瞬間ドーピングLv1 500モニ

 所持金500モニ→0モニ


 鋼鉄の防御を破るには、500モニ以内の恒常強化じゃおそらく勝てない。

 だから、ここは5分間の時間制限付きの強化で決めに行く。

 バットの打撃を頭を下げて躱して、刀を構えてみぞおちに一閃!

「ぐぉおお!?」

 今度は鉄の装甲を打ち破り、敵は吹き飛ばされていった。

「やった…!?いや、まだだ!気をつけてジャック!」

「えっまだ倒れないの!?」

 意外とタフだなあの人。あれはクリティカルヒットだと思ったんだけど。

 砂煙の中から現れたのは、確かにさっきの敵の男だが、その姿は異常なものになっていた。

 四肢にはたくさんのタイヤが巻き付けられており、体中がメッキを塗ったみたいに変化している。

 靴には車輪が装着されていて、ローラースケートのようになっている。

 そして、そいつの目は猛獣のようにひどく血走っていた。

「俺は、ここで終わる男じゃねえ!俺は!!F-1王者だぞ!ガキどもが張り合えると思うなよ!?」

 そう言って、男は雄たけびを上げた。

「決めてあげて、ジャック」

 それを冷めた目で見つめるリサは、私に小さな袋を渡した。

 中に入っているのはたくさんのモニだ。

「これは…ありがとう、使わせてもらうね!」

 私はすぐに小袋の中身を消費する。

 

 ハイパースキルLv1 2000モニ


 それを購入すると、刀が虹色の稲妻を帯びた。

 男はこちらにお構いなしに、靴の車輪を走らせて突進してくる。

「轢き殺してやる!!!!」

 私も刀を構えて走り出し、ぶつかる直前に横にそれて回避!

 そのまま無防備な相手の腹を捉える!

「はあああ!!」

 会心の一撃は、敵の胴体を真っ二つに切り裂いた。


「てめぇ…」

 男は上と下に分かれてなおこっちを睨んでいる。

 そういえば、ライフジュエルがあれば致命傷でも死なないんだっけ。

 私がゆっくりと近づいていくと、だんだんと男の顔は真っ青になる。

「ま、まて…見逃してくれ!…俺はただ、自分の願いを…」

 命乞いする口を片手でふさぎ、私は男の胸にもう一方の手を入れる。

「ん--!?んーーー!!」

「ごめんね。私にも譲れないものがあるんだ」

 そのまま、あるだけのライフジュエルを抜き取った。

「あ、ああ、あああああ!?」

 たちまち男は絶叫して、そのまま消滅してしまった。


「…あの男…ライフジュエルを一つしか持っていなかった」

 やり取りを見ていたリサが吐いた言葉に私もうなずく。

 私が掴んで奪った彼のライフジュエルは一つ。ゲームのルール通りなら、男は二つのライフジュエルを既に何者かに奪われたことになる。

「一つ言えるのは、もう既に行動を起こしているプレイヤーがいるってことだ。」

 リサは深刻な表情でつぶやく。

「もしかしたら村に人の姿がなかったのもゲームの仕様じゃなくて、そのプレイヤーの仕業だとしたら…」

「えっ、あれってリサじゃないんだ」

 普通に外国版ヤクザの彼女ならやりそうだったから疑いもしなかった。

 それを聞いたリサは、むすっとした顔で私の足を蹴る。待ってめっちゃ痛い。

「とにかく、他のプレイヤーの情報とライフジュエルをもっと手っ取り早く見つける手段が至急必要だね。…あ、ところでそのライフジュエル…」

「あ、これはラストヒットボーナスってことで!」

 すぐに私は、手元のライフジュエルを自分の体内に入れた。下手に話し合いして丸め込まれるくらいなら、先に行動するのみ。

「あ、ちょっと!?」

 それを見たリサはポカンとした表情になったが、気を取りなおすかのように咳払いをして、「まぁ今回だけはいいでしょう」と言った。

 かなり雑なムーブになったが、ひとまず元々の分は取り返せた。

 これに安心したのか、つい腹の音が鳴ってしまった。恥ずかしさに思わず目をそらす。

「…食事にしましょう、あなたの腹ペコ虫さんもそうしてほしいみたいだしね」

「ちょっ、それは言わないで!?」



現在のライフジュエル ジャック 3個

           リサ   4個

ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。

誤字脱字や辛口評価等も大歓迎です。



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