【1話】初めてのダンジョン探窟とギルド
この世界の人々は皆、1つずつのスキルを持っている。
俺はランニングをしながら自分のスキルの活用方法を考えていた。
「スキルが『瞬歩』なら陸上選手になったのになぁ」
20才になって、スキル『歩行術』を使えるようになった俺は急いでコンビニのバイトを辞めて、自分のスキルについて調べた。
『歩行術』の技能者はトビ職人や登山家など、持ち前の足腰を活かせる仕事に就くことが多く、ダンジョン内への物資を運ぶ時にも重宝されるようで、無職になったが次の仕事への不安はなくむしろ広がった選択肢に頭を悩ませる。
「トビは高収入だし、登山家は面白そうだけど......」
トビの仕事に楽しそうというイメージは無く、登山家になっても生活できるだけの収入が得られる気もしない。
「レベル1でも、いつまでも走り続けられるの凄いな」
既に3時間ほど走っているが今だに身体に疲れを感じない。
マラソンランナーも、ありかもしれない。
しかしーー
俺はレベル1でこの効果なら、と自分のスキルに期待をした。
『歩行術』で確認されてる最高レベルは3だ。
スキルのレベルは、使うかモンスターと戦うかで上昇するが、戦闘をした場合と比べるとスキルを使用することで得られる熟練度は少ないとされている。
「レベルを上げるなら、ダンジョンだよなぁ」
ダンジョンは、一年ほど前に発見された次元の切れ目でそこを通るとモンスターが居る空間へと移動できる。
その空間の多くは洞窟だが、各地によって繋がる洞窟と生息するモンスターに違いがあり、俺の住んでる家から一番近いダンジョンは虫のモンスターが大量に出る為行きたくない。
行きたくないが、他のダンジョンは近かったとしても強いモンスターが出ると評判なので死にに行くような物だし、そもそも許可が降りずに入り口で追い返されるだろう。
2時間ほど電車に乗ればレベル1でも入れるダンジョンが幾つかあるが、今は深夜でスグに活動したくなった俺は家に帰って柄が1メートルほどのハンマーを持ってダンジョンへ向うと、建物の入り口に居る警備員に声をかけた。
「こんばんはー、少しダンジョンに入りたいんですけど、いいですか?」
「こんばんは、レベルはおいくつですか?」
「スキルが出て初めての探窟でして、まだ1です」
「大丈夫ですよー、武器は......そのハンマーですね、ここの虫には刃物が通りにくいので良い選択ですよ。この扉の先に次元の切れ目があるので、必ず頭から入って周囲の状態を確認してから進んでください。出た瞬間横にモンスターが居て食われる探窟者は少なくないです。それと、入り口付近の空間から離れるごとに強いモンスターが出るので慣れないうちは入り口から離れないでください。怪我しても死んでも自己責任です。お気をつけて。」
さらさらっと警備員は注意を終えると扉を開けてくれた。
「ありがとうございます。行ってきます」
扉を潜ると、青白く発光する切れ目があってその左右に1人ずつ警備員が立っていた。
「こんばんはー、お邪魔します」
なんて声をかけるのが正解かわかってない俺はお宅に失礼しますみたいなノリで挨拶をしてしまうが警備員達は
「いってらっしゃーい、1人出口に居るけど一応頭から周囲を確認して入ってねー」
と手を振ってくれた。
次元の切れ目に頭を突っ込み、周囲を見回してモンスターが居ないことを確認してから前へ進む。
「こんばんはー」
「こんばんはー、いってらっしゃいー」
ダンジョン側の警備員は眠そうにしていて、周辺にはモンスターが居なかった。
入り口が見える範囲で活動するつもりだったが、居なければしょうがない。
切れ目が見える範囲で活動するつもりだったが、洞窟を歩いてモンスターを探していると、入り口が見えなくなったあたりで鼠ほどの大きさをしたハエの大群がやってきて襲われた。
「うわぁ!きもい!」
ハンマーを振り回して潰していくが、視覚的にも感触的にも気持ちが悪い。
『歩行術』のおかげだろう、飛びかかってくる複数のハエに当たらないように小刻みに足を動かして身体をずらすことで、俺はハエに触ることなく全てを潰し終えた。
そこら辺に転がるハエの残骸が時間差で光って消えていく。
ステータスパネルを見ると、討伐とドロップの項目が増えていてそこには『ヘビーフライズ×7』と『大ハエの液状肉×7』とある。
あまり気分が良くなく、呼吸音で自分が興奮していると知った俺は、ダンジョンから出て大きく深呼吸をした。
「お疲れ様。次からココのダンジョンなら入り口の警備員にコレ見せたら確認無しで入れるから無くさないように保管してねー」
と金属で出来たカードをくれたので「ありがとうございました、また来ます」と言い、前もって調べておいた自宅付近の探窟ギルドに向かう。
現在は深夜の4時、24時間営業の冒険者ギルドと言えども店内に人気は少なく、受付カウンターに一人だけ座っている女の子が居る。
「こんばんはー、買い取りお願いします」
「こんばんは!初めましてであってますか?まずは探窟者登録をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
渡された紙に、名前と年齢、スキルとレベル、住所と、幾つかの制約に署名を書き込んで渡すね。
「ありがとうございます!それでは買取希望の素材を、お伺いします。」
「大ハエの液状肉ってやつなんですけど、買い取ってもらえますか?」
俺なら金を貰っても受け取りたくないし、自分のドロップボックスに入れてる位なら無料でも引き取ってもらいたい。
「それ、良い肥料の素になるんですよ!1つ3000円で買い取りますー」
「7つお願いします」
ダンジョンに入って10分で21000円の収入を得てしまった。
「虫のモンスターを倒してくれる探窟者の方が少なくて、需要に供給が追いついてないので、また持ってきてくれると嬉しいですー」
「分かりました、また来ます」
探窟ギルドを後にして自宅へ帰った俺は、いつもより長く風呂に入って、長く寝た。
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