EP 29
「どした?」
「ん、繭香とうちで一緒に飯食ってんの、なんか夢みたい」
八千穂が八千穂らしくない神妙な顔で言うもんだから、ぶふううぅっと白米を発射するところだった。
「なにいってんだか。いつもおくじょうでおべんとういっしょにたべてるじゃない?」
夢みた……夢みたいってあんた乙女! 今度は私の喋りが平たくなっちまったじゃないか!!
「まあそうだけど、恋人としては初めてだろ?」
焼売、ひょいぱくっとひと口でいったよ。ジャンボ焼売だけどなこれ。
「そっか。そだね」
「テレビ観る?」
「お、おう唐突だな」
「キスとかしてみる?」
ぶほっっと今度はまじで吹き出した。飲んでいたお茶の飛沫が発射されてしまった。
「ごごごめんごめん、何言うかと思っちゃったじゃない」
慌ててティッシュで拭いた。
「だって恋人同士だろ? 恋人はキスとかハグとかセッ……なんかは日常茶飯事だろ?」
はい? 今セッ……て仰った? セッ?
「そんなさっき告白して、d(^_^o) OK したばっかなのに……恋人への道程が目まぐるしいくらい早いわっ!」
「どどどどうていぃぃ?」
「はっ違っそのどうていじゃないわ!」
私は両手を上下し、ちょっと落ち着けドウドウという仕草をすると「もちょっとスローライフでいこう!」と笑った。
八千穂もつられたのか、にぱっと笑って、わかったと頷く。犬か。
食事が終わり、じゃあもうそろそろおいとまします、的な感じでそろりと腰をあげると、「送る」と。
「ありがと」
玄関へ行き靴を履こうとすると、すぐに後ろで八千穂が靴を履いてきて、狭い玄関密着となった。そしてそのままぐいっと抱き締められる。
「や、八千穂……」
私が両手をどうポジショニングすれば良いのか迷っていると、「すげえまじかよ繭香……夢みたい、好きだよ。すっげ好き、ずっと好きだった。まじで夢みたい」
「うん、ありがとう。私も八千穂のこと、好き。しかもこれ正夢だからね?」
「良かった、香山チーフに横取りされなくて」
「はは、あれはたぶんね、もう大丈夫だと思うよ。絵に描いたようなジェラシーの弊害だったから」
「ジェラシーの弊害? なんかよくわからんけど。って俺、香山チーフにいっぱいヤキモチ妬いてたから」
「それ言うなら、私もだよ」
そして、身体を離すと、顔が近づいた。玄関せまっ。
八千穂のイケメン面が少しずつ近づいてきて……やややや八千穂が見てくる見てくる! 私の唇、見てくるっっっ!
キスの流れええぇぇ。
その時、ガチャッとカギを回す音、そしてドアがバンッと開いた。
「たっだいま〜」
わあ、お母さんとうじょうっ。どしよ。
「あれ? 類っ、あんたこんなところで何やって……」
「おおおオカン、早くない? 夜勤って言ってたやん、早くない?」
「お邪魔んしてます、私、八千穂くんの同僚んの、花崎と申しんますっ」
やだっ動揺して、んを多用しちゃってるっ。
「えっえっえっ類の彼女? えっえっえっ母さん聞いてないよっ」
「さっき彼女になったばかりだって! オカン、エビチリあるよ」
「えっやったっ好物です」
「めっちゃ美味しかったですよ……あ! おおおお先にいただきましたですすすみませんっ」
それじゃお邪魔しました! と玄関から出ようとボクサーばりに右左右左したけど、八千穂のお母さんが邪魔で外に出られないっ!
お母さんはじろじろじろりんと私の顔を見て、「全然聞いてないからね、私、彼女だなんて全然聞いてないっ。どちらのお嬢さんなの? どちらに住んでみえるの?」
やばいここでも、対息子’s 彼女へ、ジェラシー発動かい!
嫉妬はもーおなかいっぱい結構です!




