EP 26
見ると、繭香が立ち上がって、捨て台詞的な何かを言い放つ。
「××ほにゃらら××『嫉妬』ほにゃほにゃ××」
そして俺の横を通り、カフェを出ていった。
何て言ったのかはよく聞こえなかった。もう一度ちらと見る。香山チーフは後ろ向きなのでその表情はわからないが、全体的に気まず〜そうな雰囲気が漂っている。
(……繭香がなんかやらかしたんかな?)
にしても香山チーフが追っかけていかないところを見ると、もしかして、これはチャンスかもしれないと思った。しかも最後のチャンス。
そう思うと、カバンと伝票を引っ掴んで立ちあがり、お金を払ってカフェを出る。駅方面へと向かう繭香を追っかけていって。そして。
「八千穂、こんなところでどうしたの!」
「後をつけた」
いやいやいやそれじゃ俺ヤベーやつ!
「後はつけたけど、断じてストーカーじゃないからな!」
なんで俺、こんなんなの?
電車に乗って、座席に座った繭香の隣に、俺も大人しく座った。
自宅まではそう遠くない道のり。二駅乗るだけの距離。けれど、肩っていうか左側側面は今までになくくっついていて、繭香の体温をほわり感じている。
少し混んだ車内。
さっきまでの香山チーフとのくだりがなければ、それだけで至福のひと時だ。俺の胸はドキドキ高鳴っていった。
「なあ、晩メシどうすんの?」
勇気を振り絞って訊いた。
「んーー? どうしよっかなぁ」
心ここにあらず。香山チーフのこと考えてるんかな。そんなの嫌すぎる。
飯だ。メシで釣ろう。
「お、お、オレオレんち、くくるくる来るか? メシ作っってやるやるし」
真っ赤にもほどがある。自覚があった。身体のどこもかしこもロボットのように動かない。
もちろんこの口もだ。カミカミで誘い文句は完全な不良品だが、これでオッケーをもらえたらどんなに……。
繭香といえば、俺の方をじっと見てきている。気がする。だが、見れねー。緊張しすぎると顔筋ってピクリともしないんだな。首も錆びついたかのように動かない。
しばし沈黙。そして、繭香も顔を戻し、大きなため息を吐いた。
え? え?
「はあ〜あ。どいつもこいつも……八千穂さあ、誘う人間、間違ってるよね」
一気に肝が冷えた。
「な、なんでそんなこと、」
「八千穂もさ、嫉妬させようとしてんの? それ、やり方間違ってるから」
「え、どういう意味……」
「ってか私と一緒に弁当食べて、彼女にヤキモチ妬いてもらおうって魂胆でしょ?」
「彼女? なんのことだよ、彼女なんていないっ! いないよ!!」
電車の車内だということを忘れて、叫んでしまった。これは否定しないとまずいという気持ちが、嵐のように渦巻いてきたからだ。




