EP 25
繭香はブラウスにスカート、いまだかつて見たことないくらい、めちゃくちゃオシャレにしている。メイクもいつも以上に気合いが入っているし、毎日履いてるスニーカーではなくアンクルストラップのぺたんこパンプスを履いていて。
二度見しちまったくらい、可愛かった。
そんな出来上がっている可愛い繭香と香山チーフが手を繋いで小走りで走っている。
「まじか……」
落ち込んだ。胸に暗雲がゴゴゴと渦巻いていく。俺はもう腰が抜けて、その場で座り込んでしまうくらいにショックだった。
香山チーフに対しては、繭香を取られまいという焦りから、これでもかというくらいヤキモチを妬いてきたし、自分の中でも抑えきれないほどの嫉妬心を育んではきた。
だが終わった。
あんなにオシャレな繭香、見たことない。きっとデートだ。いや間違いなくデートだ。ぜってーあれデートだろっ! デート以外のなんなんだっつーんだよっ! くそ!
引力に引っ張られるように、よろよろと二人の後をついていく。力なく泣きそうになりながら、俺は二人が入ったカフェへとついていき、自分も入った。
二人に見つからないように頭を下げながら、距離を取って座る。
きっとカフェでイチャコラするんだろう、そんな姿見たくねえのに俺なんでついてきた? などと思っていたら、よくよく見ると他にも二人、同席している男女がいる。
(ん? 様子が変だな……誰?)
もう一つ近くにある席へ、すーっと移動する。顔が見られないように、背中を向けて座った。
(やべえ俺、完全にストーカーだな……)
店員がお冷を持ってきて、ご注文は? とアゴをしゃくる。俺は声を出さないように、コーヒーを指差しで注文した。
耳を澄ますが、店内がザワザワしているのもあって、繭香や香山チーフの声は聞こえてこない。
(なに話してるんだ? あれはいったい誰なんだ?)
疑問が胸を埋め尽くす。まさかWデート?
そっと様子を窺い見る。
あれ? 香山チーフ、繭香の肩を引き寄せてないか?
まじかよ……。
向かいの二人は腕を組んで、イチャイチャしてる。Wデートで決定。
だめだ、また泣けてきた。
終わった。さっきも終わったて言ってたけども、これ完全にしゅーりょーだからね。繭香も香山チーフの頭にくっつきそうなくらい、頭を寄せているしな。
あーあ。入社式の日からずっと好きだったのに。ずっとずっと想い続けていたのに。
「こんなことになるなら、早く好きだって言えば良かった……」
自分が好きだと言われることは度々あった。
実のところ、会社の事務の女性にも告られたことも数回。もちろん、あの酒向さんからもだ。だからいつか繭香にも告られるんではないかと、受け身になっていたのがダメだったのかも知れない。
「八千穂くんみたいなイケメンの彼氏いたら、めちゃ自慢できるよねぇ」
「そうそう! それに料理作ってもらえるならさ、結婚してからも楽できるし!」
「ハイスペ最高。お金はもちろん大量に稼いできてくれるし家事までやってくれるなんて、私、八千穂くんの専業主婦になりたい〜」
「あはは。それラクしすぎ! でもそんな生活、羨まし〜よね〜。私、もう一度八千穂くんにアタックしてみようかな」
「飲みに誘ってさ。酔わせて既成事実作っちゃえ」
それいい作戦だね、ひそひそ。
繭香がお昼ランチの時間に所用があるからといって、屋上で弁当を食べなかった日があった。俺は弁当を早めに食べて、華副社長と少し話し、そしていつもより早く下へと降りてきた。
その時、給湯室から話し声が聞こえてきたのだ。俺がいないと思って、事務の四人衆が集まってやいのやいのと、そう話していた。
(うわ……最悪……俺、そんな風に思われてたんだ……女子怖え)
けれど、繭香は違う。俺が売り上げNo.1ってのも料理ができて弁当も完璧ってのも、とにかく気に入らないんだからな。嫉妬の炎をメラメラと燃やし、そして直接ぶつけてくる。表裏のない性格。その清々しさも好きだった。
ふっと失笑した。
でもさ。それってさ、嫌われてんのと一緒だろ?
そんなことをうじうじ考えていると、繭香たちの方でガタンッとイスの音がして我に返る。




