EP 24
「騙すようなことしてすみません。私レンタル彼女なんです」
「ちょ、花崎っ」
隣で慌てて香山チーフも腰を浮かせた。いつもクールで飄々としている香山チーフの焦り顔。
恋ってすごい。
どんなに冷静で賢い人でも、感情の波に翻弄されてこんな風におバカになっちゃうんだなって。
私は香山チーフに向かって、言った。
「元奥さまに嫉妬して欲しいんですね」
「ち、違」
そして前を向き、そこで居直った。
「元奥さまも自分の胸に手を当ててみて、本当の気持ちを大切になさってください。今彼さまにおきましては、ほんとすいまっせん」
では失礼します、と頭を下げて、歩いていく。
「花崎、ごめん。送るよ」
少しは冷静になっただろう香山チーフの声が背中にかかったけれど、私は「ひとりで帰れますから。あとは若い者同士で……ちゃんとお二人で目を見つめ合って、よーくよーく話し合ってください」
そして、カフェを出た。
駅へと向かって歩きながら私は思った。
(うっ、香山チーフの評価、私の中でめっちゃ下がったな……)
と。
「あー次の企画書、出しにくくなっちゃったなーまったく!」
そこで企画書つながりなのかなんなのか、唐突に八千穂の顔が浮かんできて。
そこでも腑に落ちた。落ちてしまった。
「……なるほどね、そういうことか……」
わかってしまうと途端に、嫌な気分になってしまい。どーんと落ち込んだ。
「……だから私と弁当毎日一緒に食べてんだ」
なるほどなるほどー。
酒向さんに嫉妬して欲しかったんだね。
で、私はそんな酒向さんに夢中な八千穂の姿を、これまた嫉妬にまみれた恋のまなこで見つめているってわけだ。
最初は八千穂の才能を妬んでいたというのに、いつからか別の嫉妬に囚われていたなんて。
薄暗くなった道を街灯が照らしている。
ぼんやりした風景を見て、さらに悲しくなった。
もう分かりすぎるほど分かってしまっている。
八千穂を好きなのだということを。
「八千穂……」
私はしゅんとなりながら、駅へ向かってとぼとぼと歩いていた。
すると、後ろからはあはあはあという荒い息遣いと、たったったと軽快な足音が近づいてきた。
もしかして?
恋愛ドラマみたいに、香山チーフが「花崎、さっきは悪かった。だが、俺にはお前だけなんだ! 戻ってきて欲しい、俺の元へー」って、追いかけてきた?
それとも元嫁の今彼が追いかけてきて「繭香さんっボク君に一目惚れしちゃったんだ。ボクと付き合って欲しいっ!」ってパターン?
と、気になって後ろを振り返ると。
「繭香っ」と八千穂が走ってくる。
八千穂かーい。
「八千穂、こんなところでどうしたの!」
「後をつけた」
え?
それストーカーのセリフでしょ。違う闇落ちドラマ来たーー。
ドン引きなんだけど!!
✳︎
ショッピングモールで繭香を発見した時に、俺は再び心臓が止まりそうな衝撃を受けた。
またもや香山チーフと一緒だったからだ。
(え、なんでなんで? まじ付き合ってんの? まじかまじか……)
スーパーマルヤスの悪夢が蘇る。




