EP 23
修羅場。
なんのかって?
無言地獄。
誰かなんか喋れー。
「…………」←香山チーフ
「…………」←私
「…………」←?
「…………」←さらに?
こんな感じになってます。
沈黙ではありますが、前にいる男女二人がめっっちゃ私のことをじとっと見てくる。
その熱い視線と重苦しい沈黙に耐えかねて、私がコーヒーカップを取ると、みながそれぞれのコーヒーカップを取って飲む。ごくんごくん。そしてまた沈黙。
修羅場なのよこれ。なんの情報も得られてはいないけれど、このなんとも言えない重い重い重ーい雰囲気で、それだけは察している。
そんな中、香山チーフがようやく重い口を開けた。
「元嫁」
はあああぁ?
私の斜め目の前にいる、この茶髪ロングの女性があぁ?
「初めまして。心の元嫁です。で、こちらが私の彼氏」
元嫁&元嫁の今彼。だと! 地獄絵図ではないか!
どーいうこっちゃ。
で、香山チーフがこちらをちらりと見て視線を合わせ、「俺の彼女」と、私の肩に腕を回し、抱き寄せてくる。
えっ? はっ? これって合ってます?
すると、元嫁が負けじと、「この人たーくんって言うの!」とロングな髪を揺らしながら、彼氏の腕に食らいつく。知らんがな。
2組のイチャラブカップル爆誕。
「……えっとぉ」
訳わかってない私が口を開こうとすると、香山チーフがさらに腕に力を込めて、ぐいってしてくる。
「俺の彼女、可愛いだろ? 同じ職場でさ。この子頭も良くて仕事もできるんだ」
きゃー嬉しいーーーってなるかぁ⤴︎!!
「あっそ。そんなことより私のたーくんね、美大の学生なの。まだ若いけどしっかりしてて、私にすっごく優しいんだ」
「へー」
おっと香山チーフの気のない「へー」いただきました。
「花崎もな、めっちゃ優しいよな。料理も上手でさ。よく手料理作ってくれるよな? な?」
な? の圧がすごくて、つい、うんと頷いてしまった。が。
冷や汗が出てきた。たらたらと。
そしてそのまま30分。
彼氏彼女勝手に自慢するだけ選手権大会にて攻防が続く。
そんな意味のない合戦の様子を見ていたら、すごく腑に落ちたことがある。
二人はお互い相手に『嫉妬』して欲しいようだ。
嫉妬は愛情の裏返しなんだな。
なんとも思ってない人だったなら、自分じゃない異性と一緒に居たとしても、なんの感情も湧かないはずだよね。好きだから、嫉妬してしまうんであってさ。
はっとした。気づいたのだ。この無意味な戦いに。
なんの意味も意義もなさない、愚かなる行為。
私の中に降りてきたのは、もちろん達観。
「あのう。すみません。もうそろそろお暇してもよろしいでしょうか」
私はすっと立ち上がり、カバンを肩に掛け、ジャージの入った紙袋を掴んだ。




