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その缶コーヒーは、ぬるかった

作者: 十夢

全財産を失くした。


俺はいつもこうだ。


友人に頼まれて連帯保証人になった翌日、音信不通。

倒れているお婆さんに声をかけたら、犯人扱い。


今度は恋人の母親の治療費を貸した途端、ブロック。


でもいいんだ。


きっと友人は携帯料金が払えなくなったんだろうし、お婆さんは錯乱していたんだろう。恋人はお母さんの介護で恋愛どころじゃなくなったんじゃないかな。


「…んなわけないだろ」


いつまでも既読にならないスマホを放り投げ、俺は薄っぺらい布団の上に倒れ込んだ。


本当は分かってる、俺が馬鹿なだけなんだって。いつかの元カノに言われたっけ。


「あんた本当に騙されやすいよね」


ちなみにそいつが飼えなくなったハムスターは、フラれた後2年育てた。


でも困ってる人は見過ごせないし、頼られたら嬉しい。


例えその場かぎりの一瞬でも、ありがとうの言葉は本物だと思ってしまう。


自分に呆れながら天井をぼんやり見ていると、腹がギュウと鳴った。


起き上がって、今年はまだ着ていないジャケットのポケットに手を突っ込むと小銭が¥367残っていた。


「…コンビニ行くかあ」


そのジャケットをそのまま羽織り、日雇いの張り紙がないか電柱を見ながら歩いているとすっかり日が暮れてきた。ペラペラの生地はよく風を通すせいでとても寒い。


目当てのコンビニに着くと、店外のゴミ箱の側に少し年下くらいの女の子が手を擦りながらしゃがんでいた。


ふと彼女と目が合ったので慌てて逸らし、店内で買い物を済ませる。おにぎり2つに缶コーヒー1つ。これでいよいよ全財産使い切った。


自動ドアを出ると、彼女はまだそこにいた。誰かを待っているのか…いや、俺には関係ないか。


そのまま歩き出そうとすると、グギュルルルルル。


盛大な腹音の出し主は顔を真っ赤にして、小さい身体をますます縮めた。


俺はため息をついた。そして彼女に今買ったばかりの袋を差し出す。


「これ食っていいよ」


女の子は顔を上げた。クリッとしたビー玉みたいな目に吸い込まれるかと思った。


そこからなんとなく2人で駄弁った。


その子は起業資金を貸していた元カレに返済するからと指定された場所に来たが、5時間待ちぼうけなのだという。


「もう来ないでしょ、ソイツ」

「だよね〜」


おにぎりを平らげた彼女は立ち上がり、手を温めていた缶コーヒーを放り投げ返してきた。


「帰るわ、じゃあね」


彼女の上着も薄っぺらそうだった。

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