ドキドキ☆の共同生活♡(3)
「このスパゲティうっまぁぁぁぁ!」
「はは、だろう?」
風呂場での事件があったものの、アトロの機嫌はオレの作った夕食ですっかり元通りになっていた。
食べ物に弱いやつである。
今オレたちは、リビングでアニメを見ながら、タラコスパゲティを頬張っていた。
「おかわり!」
アトロの元気の良い声が響く。
これで四杯目である。
「はいはい」
オレは内心呆れながらも、幸せな気持ちでいっぱいだった。
こんな作り甲斐のある料理は、いつぶりだろうな。
「ほらよ」
「わーい!」
大盛りのタラコスパを差し出して、自分の席に戻る。
数分もしないうちにアトロは完食した。
圧倒的食欲である。
膨れ上がったお腹を幸せそうにさする彼女の姿を見て、オレは微笑んだ。
「アトロ、お腹いっぱいになったか?」
「ああ! こんなにうまい料理が食えると思うと、明日も楽しみだ」
「そりゃどうも」
「それに、コタツとやらはおそろしいなぁ~……もう外に出たくないぃ~……」
コタツの恐ろしき魔力にやられたアトロはぐだぁっと全身の力を抜いた。
「だろぉ~? コタツを発明した人は、マジで天才だわぁ~……」
一緒になって、オレもコタツに潜りこむ。
ゆったりとした時間が流れる……。
……。
「アトロポス」
「……なんだ?」
「ようこそ、天野家へ」
「あぁ、世話になるぞ」
*
その日の、就寝前のこと。
アトロの部屋の前にて。
「……ちょっとだけいいか」
「ん? どした、アトロ?」
「……今の私の部屋は、少しばかり物足りない」
「だから明日色々と買いに行くんだろ?」
「そ、そういうことではなくてだな!」
「じゃあなに?」
「……フ、フクロウ」
「フクロウ?」
「時光の部屋にあるフクロウのぬいぐるみ……あれが欲しい」
「あっ、フクちゃんのことか……うーん」
「ダ、ダメか……?」
「……いいぜ。ちょっと待ってな」
「…………」
「ほらよっ」
「あっ……」
「大切にしてくれよな。フクちゃんはオレの大切な友達なんだ」
「わかった」
「よし。それじゃ」
「――あ、ありがとう」
「――っ……アトロにお礼なんか言われたの、初めてかもな」
「か、神は人間に感謝などせん」
「そういえば、神さまでしたね……」
「またお前は…………時光」
「今度はなに?」
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
キィ、バタンっ……。
*
次の日、オレはアトロの好きなものを買ってやり、午後を使って部屋を完成させた。
ここでもいろんなハプニングが起こったんだけど、それはまた別のお話。
時は経ち、月曜。
オレはアトロと一体化したまま、学校に着いた。
「おはようさん、頼道」
「おはー。おっ、時光。お前まだ眼帯なんてしてるのか?」
「ま、まあな。この設定気に入ったし」
「大したやつだよなぁ。眼帯なんてつけてたら、転校生から変な目で見られるぞ?」
「あっ、そういえば」
今日は転校生がやってくるんだっけ?
アトロとの日常が濃すぎて、すっかり忘れてたわ。
「……どおりで、男子どものテンションが高いわけだ」
「らしいな」
「正直オレ、ロリ以外に興味ないんですけど」
「俺も、ショタじゃなけりゃあ、ときめかねえぜ」
「「はぁ……」」
二人して重たい息がこぼれた。
相反する性癖だが、うりふたつな部分もある。
光と影みたいなもんかな。
「(おい、時光)」
「(なんだ、アトロ)」
「(……お前、ロリコンだったのか……?)」
「(し、しまった……ッ!)」
アトロがロリだから本人には隠してたけど、ついうっかりバレちゃったよ!
目をつむると、オレをゴミを見るような目で軽蔑していた。
「(薄々気づいてはいたんだ。お前がロリコンだってことは……)」
「(ア、アトロ……?)」
「(私の貞操が、危ないな……)」
「(なんもしねぇよ……っ!)」
……相当なことがない限りは……じゃなくて!
ほらもう、自分の身体を抱きしめちゃってるよアトロちゃんがぁ~!
うひぃ~、どうしたもんか~!
そんなふうに悩んでいたら、わあっと突然クラスが騒がしくなった。
なんだなんだ?
「はーい。みなさん席についてー。転校生を紹介するよー」
なるほど、転校生が来たのか。
さてさて、どんなやつかな……?
なんて、軽い気持ちで思ってたのに。
「…………は?」
オレの思考が、ぶっ飛んだ。
度肝を抜かれるとは、まさにこのことだろう。
「(ど、どうした時光?)」
オレの反応に、アトロも戸惑っている。
けれど、心の中にいるアトロの声ですら、オレには届かなかった。
やってきた転校生にくぎ付けだ。
ややあって、彼女が口を開く。
緊張でガチガチになった、懐かしい口調で、
「は、初めまして! 今日からお世話になります!」
「小牧風音さんだよー。みんな、よろしくしてあげてねー」
「「はーい! よろしくね、風音ちゃーん!」」
「「うおぉぉぉぉぉおぉぉぉお! 和風美人きたあぁぁぁあぁぁぁあ!」」
クラス中が歓声に包まれる。
「じゃあ風音ちゃんはあの眼帯をしている下僕ちゃんの隣ねー」
「え、ん……え? げ、下僕ですかっ!?」
「そこはきっちり使い分けてッ!」
予想だにしなかったボケに、ついついツッコミを入れてしまった。
転校生と、目が合う。
「…………え? みっちゃん……?」
「……久しぶりだな、風音」
魔法の言葉は発していないのに。
時が、止まった――気がした。