ドキドキ☆の共同生活♡(1)
「はーい、じゃあ授業始めますよー」
黒板の前に立ち、褐色肌の鳳センセーが授業を始めようとした……のだが。
センセーは何故かオレを見つめていて、授業が進まない。
「あの、天野く――じゃなくて、おい下僕よ」
「はっ、はい」
「どうして眼帯をしてるんだ?」
「えっ、えっと……ちょっとした事情があって……」
「そうか……それではみんな、授業を始めるねー」
「……ふう」
今のはちょっぴり危なかった。
クラスメイトは変な妄想をしたのか、オレが眼帯をしていることについて何も言及しなかった。
まぁ、されたところで大きな問題にはならないと思うけど。
はぁっとため息をつくと、心の中から彼女が話しかけてきた。
「(よかったな、時光。余計な中二病扱いをされなくて済みそうだぞ)」
「(アトロ、お前なぁ……)」
お察しの通り、オレは今、アトロと一体化している。
なんでも、学校に『永遠の命』を持つ者がいないか調査したいんだとさ。
そんなやつ、この学校にはいないってのに。
「(それにしてもアイツはなんだ? 子供なのに授業しているぞ)」
「(アイツとはなんだ。あのお方は鳳時音センセーといって、我が主だぞ)」
「(そういえば……お前は下僕呼ばわりされていたな)」
頭に手をあてて、呆れるアトロ。
別にいいじゃないか、主従関係があったって。
……いや、それはどうだろうか。
今さらになって、ちょっとおかしいかもなんて思い始めたわ。
授業も終わり、昼休みがやってきた。
オレはいつものように、頼道と昼ごはんを食べて談笑している。
「なあ、時光」
「なに?」
「お前のその眼帯、なんなの?」
ほらきたこの質問。
頼道なら絶対すると思ったよ。
オレはあらかじめ用意していた解答を返してやった。
「実はさ、昨日ガラスの破片が顔にふってきて怪我しちゃったんだよ」
「おい、それやばいじゃんか!」
「やっ、失明とかそういうのじゃないから大丈夫。ただ、眼帯はちゃんとしろってお医者さんがさ」
「マジかよ……」
話を聞いた頼道はもちろん、こっそり聞き耳をたてていたクラスメイトたちもショックを受ける。
なんだかんだで、オレはこのクラスの人たちから心配されているらしい。
なんともありがたいことだ。
と、感動していたら、バッと頼道の腕が伸びてきてオレの眼帯を奪った。
「なっ!? おい、なにすんだよ!」
「いやあよ、目に傷なんてどんなふうになってんのかなと思ってさ! 漫画やらアニメじゃめちゃくちゃカッコいいじゃん! だから見せてくれよ!」
「バッ! ダメだって!」
「いいじゃねえか天野!」
「オレたちにも見せろよ!」
「お、お前らまで……ッ!」
クラスの男子どもまでオレを羽交い絞めにして、眼帯の下がどうなっているのか確認しにきやがった!
前言撤回! こいつらはただ自分たちの欲求に素直なクズたちだ!
「ほらっ、見せろって!」
「く、っそ!」
複数の力にねじふせられ、目を隠していた手が外れてしまう。
「と、時光。お前……」
「え……」
「なんだよ、これ……」
クラスメイトたちが息を呑んだのは、オレの異質な目の色。
眼帯をしていないほうは普通の黒目だけど、もう一方はサファイアのような青い眼。いわゆるオッドアイってやつだ。
……はぁ、めんどうなことに……。
少しすると、黙りこんでいた頼道たちの口が、ちらほらと開き始める。
「まさか、時光……」
「天野……」
「「お前、覚醒したのか? 古の王の力が……ッ!」」
……やっぱりこうきた。
「(ど、どういうことだ、時光。なぜこいつらはこんな反応をする?)」
「(それはさ…………バカだからだよッ!)」
オレは楽しくなってきて、唇をにやっとつりあげた。
「ふはははっ! そうよ! この瞳は覚醒の証! オレは完璧な状態の、そう、古の王としてついに目覚めたのだ!」
「さすが、相棒! カラコンまで仕込んでくるなんてな!」
「天野は真のエンターテイナーだ!」
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 盛り上がってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クラスの野郎どもが雄叫びをあげる。
「(すまないな)」
「(別に、いいさ)」
アトロが申し訳なさそうにしながらも、どこか微笑ましそうに謝ってきた。
オレの片目が青い理由。
それはシンプルに、アトロと一体化していると、彼女の瞳の色が現れてしまうからだ。
だから最初は、一体化して学校には行きたくないと嫌がっていたのだが、アトロの目的を邪魔したくなかったし、それに、こうなることはわかっていたから、渋々承諾したのだった。
まあ、予想通りの結果になってくれてよかった。
信頼の勝利ってやつだな。
そう思うと、オレは無性に嬉しくなってきて、テンションがあがってきた。
「ふはははっ! ついに、ついに発動できるぞ! この世界を一瞬で滅ぼすほどの魔力を秘めた超必殺! 真・滅――キーンコーン」