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三秒の魔術師と破創の神さま  作者: 空超未来一
第1部 - 第1章 動き出した時間
4/33

時を止める者の非日常(3)

「頼むからさ、一時間だけ待ってくれないか?」

「…………」

 現在オレは、家のリビングで謎の少女と向き合っている。

 お互いの自己紹介すらなされていない状況だが、それよりも先にやらなければいけないことがあった。

 オレは必死になって銀髪の少女を説得しているのだが、彼女はただひたすらオレの手元を見つめるだけで、うんともすんとも言ってくれない。

 どうしていいかわらず、ずっとこの状況が続いているわけだ。

「おい、人間」

「……さっきから気になってたんだけどさ、その呼び方は何なの?」

「どうもこうも、私は当たり前の行動をとっているだけだが?」

「真冬に薄いワンピースだけの女の子が、いきなり男子高校生に向かって、おい人間なんて言います……?」

「あぁ、そうか。貴様はまだ、私の存在について何も知らないんだったな」

「そ、そうだよ。君はいったい何者なんだ?」

「ふむ……仕方あるまい。名乗ってやるとするか……」

 銀髪の少女はやれやれと肩をすくめ、凛として立ち上がった。

「教えてやろう。私の名はアトロポス。破壊者と崇められる神だ!」

「う、嘘だろ……? ――ビックリしすぎてトイレ行きたくなったから、行ってくるわ!」

「ちょっと待て! どうしてソレを持っていくんだっ!?」

 さりげなくトイレに逃げ込もうとするが、アトロポスと名乗る少女はオレが持つソレをつかんで離さない。

「ちょっ、ダメだって! オレは今すぐコイツとトイレに行かねえと爆発しそうなんだよ!」

「爆発ってなんだ!?」

 ボシューっと真っ赤になるロリっ娘神さまに、オレの衝動がさらに高ぶる。

「やべぇ! これ以上限界を超えると、まずいことに!」

「おい人間! まずいことってなんだ!? いや待て、やっぱり言わなくていい!」

「OTINTINがビッグバンするってことだよ!」

「言わなくていいって言ったろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」

 もうリンゴみたいに顔が赤くなるアトロポス。

 オレは限界を感じて力ずくで思いっきり引っ張った。

「きゃっ」

 ドスンッ。

「わ、悪い! 大丈夫か……?」

「いたたた……」

 勢いよく放した反動で、アトロポスは尻もちをついてしまった……のだが。

「……どうした、人間?」

 ワンピースのスカートの中身がちらりと見えてしまい……可愛らしいゾウさんのプリントアウトされたパンツがこんばんはした。

 オレのゾウさんも、こんばんはした。

「失礼しまする……ッ!」

「あっ、おい!」

 アトロポスの呼びかけに応えず、オレはトイレにこもって、ひたすら格闘したのだった。


 *


「た、ただいま戻りました……」

「おう、待ちくたびれたぞ」

 賢者のような顔立ちでリビングへと戻ってきたオレが目にした光景は、信じられないものだった。

 ワンピースの少女が横になってバリボリとせんべいを食い、録画したアニメを見ているのだ。

 なんという堕落的な姿。

 仮にも神さまとか名乗るくらいなら、もうちょっと威厳を持てよ。威厳を。

「……っていうかさ、君は本当に神さまなの?」

「アトロポスだ」

 彼女はテレビから視線を外し、こちらに顔を向ける。

「ふう……ようやっと落ち着いて話ができるな」

「話って……そもそも、アトロポスは何なの?」

「何なのとは、また投げやりな質問だな」

 オレの態度に、アトロポスがハアっとため息をつく。

 それから、ふむっと考える素振りを見せたあと、話に入っていった。

「改めて自己紹介しよう。私の名前はアトロポス。『破壊』を司る神だ」

「か、神とか言われても、いまいち理解できないんすけど……」

「確かにそうかもしれないな……では、私が神である根拠の一つを示そう」

「それは?」

「貴様が『時止め』の人間であると知っていることだ」

「……そういえば」

 さっき言ってたな……。

 オレの能力を知ってる人間なんて、誰一人としているはずがないのに。

「でもそれだけじゃ、神さまだっていう証明にはならない」

「なるほど、そうきたか……」

「ああ。もしもアンタが神さまっぽいことをしてくれたなら、認めようじゃないか」

「……面白い。貴様はあくまでも神に挑戦するというのだな?」

「アトロポスが神さまなら、だけどね」

「言うじゃないか……っ!」

 ピキピキッとこめかみに青筋を浮かべるアトロポス。

 はんっ! オレは『時止め』みたいな非現実的な力を使う張本人だけど、神さまは信じないんだよ!

 そんなものクソくらえだ。

 しばし考え込むアトロポスだったが、何か思い出したようですぐに顔をあげた。

「そういえば、こっちの世界にいると力を使えないんだ」

「ううん? 中二病設定かな? あら~、やっぱり電波ちゃんだったのか」

「……貴様、私を愚弄する気か?」

「いや~、そういうわけじゃないけどさ。神さまなのに何もできないのはおかしいな~って」

「く……っ!」

「なんかすごいの見せてよ。そしたらちゃんと認めるからさ」

「……すごいことをすればいいんだな?」

「もちろん」

 そこまで言って、アトロポスはまたうつむいた。

 頬が朱に染まっているように見えるのは、気のせいだろうか?

「?」

 黙り込む彼女を不思議に思って、顔を覗こうとした。

 

 ――次の瞬間。


 アトロポスがいきなりオレの腰にしがみついてきて、勢いよく仰向けのまま倒れてしまった。押し倒してきた彼女がオレにまたがる形で、である。

「な……ッ!?」

「…………っ」

 心臓がドクンっと跳ね上がった。

お腹の上に温かい体温を感じる。

「……少し、我慢しろ」

 鼻先が触れるんじゃないかとドキドキするくらい、顔を近づけてつぶやくアトロポス。

 甘い吐息が、オレの耳元にふうっとかかる。

 ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイ!

 上手く呼吸ができない。

 顔まわりがサウナのように熱い。

 なにも考えられない。

「では、いくぞ」

「えっ!?」

 アトロポスの腕が、だんだんオレの下腹部へと伸びていく。

 シンプルにいうと、股間。

 うそだろ、おい……ッ!?

 オレの内心は、ドキドキとワクワクと一抹の不安と、そしてニヤニヤで満ちていた。

 ……あれ? これって期待してもよくね……?

 そう思ったのも束の間。

 彼女の小さく柔らかな手が制服越しにオレのゾウさんをつかみ。

 そして。

 

 ――ちぎれそうになるくらい、握りつぶした。


「いやぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァあんんんッ!!?」

 悲鳴とも、はたまた喜びともとれる絶叫が、家中に響き渡る。

 オレはすぐさま股間をおさえ、激しい動きと共に悶えた。

 床を反復ローリングしたり、伝説のアレを玉座に戻すため、ピョンピョン飛び跳ねたり。

 これ以上の生き地獄があるのかと思うくらい、苦しみの中をさまう。

 懸命な処置の成果あってか、どうにか思考できるくらいには回復できた。

「おい、アトロポスッ! お前、やっていい事と悪い事があるだろッ!!」

 股間を抑えながら、涙目で訴える。

 しかし、彼女の姿はどこにもない。

「……は?」

 頭の中が真っ白になったが、すぐに我を取り戻し、あちらこちらを探してみる。

 テーブルの下やソファの裏、もしくはトイレなど。

 家の中をくまなく調べてみたが、彼女の影は一切ない。

「……ど、どういうことだ?」

「(……ぶふっ)」

「あっ! どこかで笑ったな、アトロポス!」

「(ぶはっ! あははははっ!)」

 楽し気な少女の笑い声が、近くから聞こえる。

 間違いなく、アトロポスはそばにいる。

 ……けれど、どこを探したって見当たらない。

「い、いったいどういうことだよ……」

 ちょっとした恐れの念も混じった言の葉が、もれる。

「(おい、人間。ここだ、ここ)」

「ここってどこだよ!」

「(ここはここだよ。 ほら、お前のこころの中)」

「…………な、なに言ってんの?」

「いいから、目をつむってみろって」

「お、おう……」

 為すすべのないオレは、アトロポスに言われるがまま従い、瞳を閉じてみる。

 まぶたの裏には、真っ暗な世界が広がっていた。

 やっぱり、何もないじゃないか。

 なんて思ったのに、ふっと気を抜いた瞬間。

「よう!」

「うえぇぇぇぇぇぇ!? アトロポスがいきなり出てきたッ!」

 何もなかった世界に突如、異質な銀髪少女が現れた。

「どうだ、ビックリしただろ?」

 オレの瞳の裏で、なははっと白い歯を見せるアトロポス。

 彼女は上機嫌なまま告げる。

「これで契約は完了だ。どうだ、神さまっぽいだろ? これからはお前と共に過ごすから、よろしく頼むぞ」

 にかっと笑いかけてくる青いワンピース少女に、オレは返す言葉が見つからなかった。


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