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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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「つまり、俺たちが思ってた三角関係は間違ってたってわけか」

「ええ、私もつい最近までそう思ってましたけれど」

「いつわかったんだ?」

「柄田様に爪紅を持ってくるよう頼んだ時ですわ」

「ああ、それ。なんで言わなかった?」


 皆森家の彩愛の部屋のベッドの上で史お兄様が拗ねたように言って、着替え終わった彩愛の手を引いてベッドに押し倒す。


「もし何かあったらどうするつもりだった?」

「そのために高等部の『王花の間』で他の方々に同席していただいたんですわ」

「なぜ俺を呼ばない」

「だってお止になるでしょう?」

「当たり前だ」

「それに今回のことも事前に言われてたのに言わないとは、いい加減拗ねるぞ」

「もう拗ねているではありませんか」


 史お兄様の顔を見上げながら彩愛は苦笑する。

 そんな彩愛の両脇に肘を付け、距離を縮めるとじっと見つめてくる。


「名前、人生、命をかけた願いというのはどんなものだったんだ?」

「おそらくですが、飯近様は奥方を、柄田様は飯近様を自分だけのものにしたかったんだと思いますわ」

「どうして?あんな女にそんなものをかけるなんて俺は信じられない」

「運命だと、そういっていましたわ」


 彩愛はそう言って目を閉じる。


「柄田様は私にすべてを話してはくれませんでした、けれども決して嘘もおっしゃりませんでしたわ」

「そうか?」

「あえて誤解されるような言葉運びはしていたようですけれど、嘘は私にはおっしゃらなかったんですの」


 惑わされていないと言っていた。

 ずっと『妃花』様に恋い焦がれ、歪み狂ってしまった飯近様。

 真実に飯近妃花様を愛しているかとの質問に、もちろんと答えたけれど、きっとそれに続く言葉は『愛していない』だったのだろう。

 夏休み前に会った時も、嘘は言っていなかった。真実を言っていなかっただけで。

 共有してもいいと思った対象は『京一郎』様のこと。

 けれども飯近様はその気がなく奥方との二人だけの空間を求めたのだろう。

 『京一郎』様にとっての運命の女は『妃花』様であり、柄田様の運命の人が『京一郎』様だった。


「あんなにも強い想いであっても、通じ合わなければ悲しい結末が産まれてしまいますのね」

「そうだな。恋愛がからむと人間というものは、時には神ですら狂うこともある」

「飯近様の幼少の時からの願いだったと、そうおっしゃってましたわ」

「そうだな」

「どこで、奥方にお会いしたのでしょうね」

「わからないな。それこそ、本人にしかわからないさ」


 史お兄様はそう言って彩愛の首筋に顔を埋める。


「俺も彩愛を失えば狂う自信がある」

「史お兄様?」

「ミカルが言っていた話は本当か?彩愛はユングリングへ養女にいくのか?」

「そういう話があるというだけですわ。まだ決まっておりませんわ」

「でも、ひい御爺様やひい御婆様の個人資産を譲渡されてるんだろう?」

「ええ、折につけプレゼントという名目でいただいておりますわ」


 くすぐったさに身をよじり顔を動かせば、肘をついた手で押さえられてしまう。


「お母様がいまのままではどこにも行けませんわ」

「愛実様か…。先ほどあった時はお元気そうだったけど、やはりまだ治ってはいないのか」

「ええ。体は順調に回復しておりますわ。けれど心はまだ…。だから私はどこにもいきませんの」

「そうか」


 首筋から顔を上げた史お兄様は泣きそうな顔をしている。


「どうなさいましたの?」

「俺は彩愛を愛してる」

「はい」

「今すぐに手に入れたいと思うほどに愛してる」

「はい」

「………でも、まだ待つよ」

「そうなんですの?」

「ああ、だって彩愛はまだ子供だから」

「それですと、いつになるかわかりませんわよ?私は成長が遅いようですもの」

「知ってるよ。体も、心も彩愛はまだ子供だ。こんなにも大人びているのにな」


 苦しそうな、悲しそうな顔に思わず手を伸ばし頬に触れれば、史お兄様の顔が下りてきて彩愛の唇をふさいだ。

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