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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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085

 彩愛はその日、高等部の『王花の間』に来ている。

 史お兄様に呼び出されたり、学園の用事があるわけではない。


「賀口様、およびだてして申し訳ございません」

「構いませんよ。それで、何か用ですか?」


 賀口様と彩愛の間には乃衣様と美衣お姉様がが立っており、彩愛の横には美琴様と勇人様が彩愛を挟むように座っている。

 テーブルを挟んで彩愛は賀口様の目を見る。


「……なんだか怖いですね」

「ひとつ、お尋ねしたいことがございますの」

「なんでしょう?」

「飯近妃花様は、爪紅を使用していらっしゃいますか?」

「ああ、悪阻が始まってからは気持ちが悪くなるのでつけれないと言っていましたが、以前は爪紅をベースにして随分とネイルにこだわっていましたね」

「昨今、爪紅は珍しいものですがどなたから頂いたのでしょうか?」

「さあ?どうしてそんなことを?」


 賀口様が目を細めて彩愛を見る。

 彩愛もそんな賀口様の目をまっすぐに見続ける。


「美の神が300年ほど前に作製した爪紅を花街のかむろに下げ渡したことがあるそうです」

「それは随分昔のことですね。今ももし残っているのであれば相当の、いえ神がお作りになったものでしたら奪い合いの戦いがはじまるでしょうね」

「ええ…ですからもし残っているのなら、回収したいと思いますの」

「つまり?」

「飯近妃花様よりその爪紅、お借りすることは出来まして?」

「もし本物であったら?」

「似たものを作らせ入れ替えてお返しいたしますわ」

「それをして俺にメリットを感じませんが?」

「……その爪紅には魅惑の効果、異性を虜にする香り、使用したものを美しく見せる効果があるそうですの」

「なるほど……。妃花のハーレムはその爪紅が原因だったかもしれないと。確かに使用しなくなってからかは偶然かもしれませんが、その時期に離れるものが多くいましたね」


 けれど、と賀口様は言葉を続ける。


「だからなんです?」

「もし惑わされているのであれば、その爪紅をどうにかすれば飯近様も賀口様も目を覚まされるかもしれませんわ」

「無理ですね」

「え?」

「俺は惑わされてなんかいませんし、京一郎も惑わされてなんかいません」

「……随分自信がありますのね」

「ええもちろん。まあいいでしょう、妃花は今俺無しでは何もできませんから、出産ももう直ですし入院用荷物の手配とでも言って入手しておきます」


 話しは終わったでしょう、と賀口様はソファから立ち上がり飯近様の奥方を迎えに医務室へ行くと全員に告げる。


「賀口様」

「なんでしょう?」


 彩愛の声に賀口様はドアの手前で足を止めるが顔を向けることなく返事を返す。


「惑わされていないというのは、真実ですのね?」

「ええ、ずっと恋い焦がれていましたからね。それこそ歪み狂ってしまうぐらいには」

「……賀口様は、真実に飯近妃花様本人を愛していらっしゃるのですか?」

「もちろん。おかしなことをおっしゃいますね」

「……………そうですの、ならいいのですわ。お時間をいただきありがとうございましたわ」


 賀口様が出て行ったのを見て、彩愛は目を伏せる。

 そんな彩愛を友人たちと高等部の『王花』メンバーが心配そうに見つめる。


「私、勘違いをしておりましたわ」

「彩愛様、それはいったい」

「飯近様と賀口様の想いは真実なのでしょう。どのような形であれ」


 彩愛はそう言って息を吐くと。立ち上がり、高等部の『王花』のメンバーに頭を下げる。


「本日は私のわがままを聞いてくださりありがとうございますわ。また、史お兄様とミカルお兄様には内密というわがままも聞いてくださり本当にありがたく思いますわ」

「いいのですわ彩愛様。何かお考えがあってのことなのでしょう?史様がここにいればきっと横から口出しをなさるでしょうし」


 美衣お姉様が苦笑する。

 それに彩愛は一度頭を上げて笑みを返すと、再び頭を下げた後友人たちを連れて初等部に戻るため部屋を出る。

 その時扉が開き史お兄様が入ってくる。


「彩愛?どうしてここに?」

「まあ史お兄様ごきげんよう。美衣お姉様から今日は生徒会の御用事があると聞いていたのですが?」

「ああ。ちょっと手が回らないから美衣様を呼びに来たんだが、彩愛はどうしてここに?」

「私も美衣様にお会いしに来たのですわ」

「いったいどんな?」

「乙女の秘密ですの」


 ふふ、と彩愛は笑みを浮かべて史お兄様にお仕事頑張ってくださいませと言って部屋を出た。

 しばらく歩き、中央校舎に入ったところで乃衣様が口を開く。


「本当に美の神の爪紅がまだ残っているものなのでしょうか?」

「わかりかねますわね。でも、美の神が自分の力の気配がしたような気がするとおっしゃった以上、現物を確認しないわけには参りませんわ」

「神の加護ではなく、神の造った物によるあの状態であれば、使用しなくなり徐々に効果が切れたというのも納得できるのですが、300年間神の創造物がまだ残っているというのが信じられないな」

「その間誰も使用しなかったのでしょうか」

「もしかしたら、私が頂いた紅のように使用してもなくならない呪い(まじない)もかけられていれば、ありえない話ではありませんわね」


 彩愛達はふと賀口様に付き添われ、随分とお腹の大きくなった飯近様の奥方が遠くに見え、思わず深い溜息を吐いた。

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