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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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 ほほに触れてくる手の感触に目を覚ます。どうやら眠ってしまっていたらしいと、彩愛が目を開けるとそこには心配そうな顔をした沙良お母様がいる。


「沙良お母様、どうして?」

「ちょうど愛実のお見舞いに行っていたの。倒れたと聞いて愛実が心配していましたわ。自分が迎えに行きたいといったのだけれど、ベッドから起き上がれない状態ではね…」

「そうですの。ご心配をおかけして申し訳ありませんわ」

「気にしなくていいのですよ」


 そう言って彩愛の頬を撫でていた手を上に移動させ優しく頭を撫でてくれる。

 火の神はいつの間にか姿を消していた。


「風の神より精神的なものが原因と聞きました。保険医の方にも外傷はないけれども貧血のような状態になっていると聞いています」

「もう大丈夫ですわ」

「無理をしているのではい?」

「本当に大丈夫ですわ。火の神が体を温めてくださいました」

「そうですか。よかったですわ」


 沙良お母様はそう言ってほっと息を吐くと彩愛の背中を支えて上半身を起こすのを手伝ってくれる。


「どうしますか?今日はこのまま我が家に泊まりますか?それとも皆森の家に帰りますか?」

「えっと…」


 どうしたらいいのだろうか、心配をかけているのだから顔を見せて安心させたほうがいい。

 だが、家に帰って使用人に気を使わせてしまうのは申し訳なく思ってしまう。


「私としては愛実に顔を見せた後に我が家に来ることを提案しますよ」

「では、そういたしますわ」


 彩愛が頷くと沙良お母様が笑みを浮かべて彩愛の頭を撫でてくれる。

 その時廊下をバタバタと走る音が聞こえ、部屋の自動ドアが開く。


「彩愛っ」

「史、行儀の悪いことをしないでくださいませ」

「っ……お母様、おいでだったんですね」

「ええ、彩愛の迎えに。貴方生徒会の仕事はどうしました?まだ執務の時間でしょう」

「ミカルが代わってくれました」

「まあ…」


 沙良お母様が思わずといった感じにため息を吐く。


「今夜はミカルの好きな食事にするようシェフに伝えておきます」

「お願いしますお母様。彩愛、大丈夫か?」

「はい、もう大丈夫ですわ史お兄様」


 史お兄様は沙良お母様の隣に座り、彩愛を心配そうな目で見てくる。

 いつもであれば抱きしめるなり触れるなりするのだが、沙良お母様がちょうどよく遮る位置にいるために出来ずにいる。


「そうかよかった。食堂で倒れたと聞いてすぐに駆け付けたかったんだが、授業を休んでまで傍にいては彩愛が気を使ってしまうだろうから放課後まで待ってたんだ」

「それは、ええ…そうですわね」

「彩愛、史は数日授業を休んで落ちこぼれるような教育はしていないので存分にこき使ってよいのですよ」


 実の息子に対して随分な言葉だが、史お兄様を信用しているが故の言葉なのだろう。

 史お兄様も否定する様子がない。言い方は厳しいかもしれないがこれが水上家の親子の在り方なので彩愛は何も言わないでおく。


「うん、顔色もいいしよかった。夕霧様から彩愛が真っ青になって倒れた伝言を貰った時はお…僕のほうが倒れるかと思った」

「申し訳ありませんわ」

「謝らなくていいのですよ彩愛。この子はただ彩愛が好きすぎて頭の歯車が数個狂っているだけです」

「沙良お母様言い過ぎでは…」

「大丈夫だよ彩愛、自覚はあるから」

「あるんですの…」


 そこで沙良お母様が席を立ち、史お兄様に彩愛を抱きかかえて連れてくるように言う。

 迷いなく布団をめくり、彩愛の体を慎重に横抱きにした史お兄様が先を歩く沙良お母様の後に続く。


「荷物などはすでに車に運んであります。緊急事態なので保護者代理権限でロッカーを開けさせてもらいましたわ。学友の方々にも今日は『王花の間』に行かず連れ帰ると伝えてありますわ。申し訳ないけれど来週の月曜日まで会えないでしょうからメールなどをして差し上げてくださいね」

「わかりましたわ」


 史お兄様のようにどうして美琴様達が来ないのかと思っていたが、どうやら沙良お母様に止められているらしい。

 言われた通り車の中ででもメールをしておこうと心に決める。

 沙良お母様の先導の元、校舎を出て校門近くまで行くとそこは帰るところなのか、賀口様に付き添われた飯近様の奥方がいた。

 思わず身を固くしてしまう彩愛に、史お兄様が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「どうかしたか?」

「大丈夫ですわ…」


 けれども、飯近様の奥方の姿を見ているとまた体が冷えてくる感覚がする。


「彩愛、顔色が…」

「どうしました?彩愛、大丈夫ですの?」

「はい…」

「大丈夫ではないようですわね。どうしましょう、皆森家によらずに我が家に連れ帰ったほうがやはりいいかしら」

「いえ、お母様に顔を見せて安心をさせて差し上げなければ」

「その顔色で?余計に心配になるのではなくて?」

「でも」


 彩愛がそれでも皆森家に一度帰ると言おうとしたとき、こちらに気が付いたのか飯近様の奥方が顔を輝かせ、それでいて目は彩愛を睨みつけながら声をかけてきた。

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