066
「そこまでです水上様!」
彩愛にプロポーズしたところで、こっそり見ていたのであろう彩愛の友人たちが駆け寄ってくる。
「薔薇咲き乱れる生け垣の奥の東屋でロマンチックに決めたおつもりですの?」
「そんな風に彩愛様を抱きしめて、なんだか色っぽい声でプロポーズをいきなりするなんてあんまりですわ」
「あー…とりあえず彩愛様を返してください」
褒められているのかけなされているのか、とりあえず彩愛を返すというのは却下だ。
ぎゅっと彩愛を抱きしめたところで、やっと彩愛が再起動を始めたらしくもぞもぞと動いている。
「駄目。やっと自覚したし彩愛にも構えってお願いされちゃったからな」
「嫌だわ。極端すぎる行動ではありませんこと?」
『まったくじゃのう』
乃衣様の隣にさりげなく花の神が不機嫌そうに姿を現した。
『気に入らぬ。ああ気に入らぬとも。なれど彩愛がかわいいゆえ許す』
花の神の言葉に彩愛の友人たちが困ったように顔を合わせる。
神が今の状態を許すと言ってしまったため強硬手段に出るわけにもいかない。
『構えと彩愛が望んだのじゃ。存分に構うがよい。ああ気に食わぬの』
『まあまあ、美しく輝く瞬間の一つだ。大目に見よう』
『ふんっ我はもうゆく』
『はいはい。そこの君達も彩愛と史を少し二人だけにしておこう。大丈夫、ここは花の神のテリトリーだから、彩愛に不埒なことをしようとすれば花の神が止めるよ』
突然現れた美の神がそう言って先に姿を消した花の神を追うように姿を消した。
「……神々がいうのでしたらしかたがありませんね」
「うう、こんなの予想外ですわ」
「放課後までにはお返しくださいませね!」
そう言って3人が生け垣の向こうに消えるのを確認してそっと彩愛を抱きしてる腕の力を抜く。
そこには顔を真っ赤にした彩愛がおり、かわいくて思わず頬にキスをする。
「なっなっ…なにを、いって」
「何が?」
「嫁だなんて…私が構ってなんて言ったせいですわよね」
「違う」
ここのところ彩愛とほとんど接点がなくて、なんだか心がもやもやしていた。
しかもわざとらしく夕霧様が彩愛との距離を縮め、乃衣様たちもまるで二人を応援しているかのような素振りをしていて落ち着かなかった。
今ならわかる。俺は彩愛の一番でいたいんだ。
以前のように何かあれば真っ先に報告してほしいし、誰よりも俺に笑みを向けてほしい。
ミカルとの会話が漏れ聞こえて、そしてミカルの言葉に彩愛が花街の遊女になったらと考えて血が凍るかと思った。
この肌に、俺以外が触れるなんて許せない。いや、神々は別だな。
あの方々は隙あらば彩愛を抱きしめて肌に触れて…不遜ながら考えるだけでも腹立たしい。
子供だから、年の差があるから、ロリコンじゃないからなんて全部言い訳だ。そうだとも、周りの言う通りただの言い訳に過ぎない。
だって、だめだろう?この子は神の寵児で生きられないかもしれないと言われ続けてきた。
だから、親愛以上を抱いちゃいけないんだとそう自分に思い込ませてきた。
そう自分に言い聞かせないと、神に背いてでも彩愛を手に入れて渡さないようにとしてしまう。
独占欲、ああそうだとも。贈った鳥籠のように閉じ込めて、甘やかせて依存させて俺だけを見るように、俺のためだけに歌うように、そうしたくなってしまう。
「史お兄様…どうして泣いてますの?」
「嬉しくて、かな」
嬉しくて?と首をかしげる彩愛の手のひらから手首にかけて唇でなぞる。
「彩愛が俺を望んでくれたから、俺も正直になれた」
「史お兄様」
「それで彩愛。返事は?」
「わ、私の婚約は両親に任せておりますの」
「うん。それで、彩愛の気持ちは?」
真っ赤になったまま、彩愛は何も言えず、首を振ることも頷くこともせずに、涙が再びこみあげてくる。
「俺は彩愛をお嫁さんにしたい」
手首を吸い上げキスマークを残す。白い肌に残る所有印に笑みを浮かべる。
「言って、彩愛。俺のお嫁さんになってくれる?」
「わ、私は……私、は…」
「言って」
「お兄様の、お嫁さんに………なり、ますわ」
きっと彩愛はまた俺を束縛してしまう言葉を言ったと後悔しているかもしれない。
「愛してる」
でも、そんなことはない。俺が彩愛を束縛するだろうから心配しなくていい。
もう離さない。




