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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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「水上様、お話がございますの」


 そう言ってやってきた美衣様の妹の笑みに、なぜか口元が引きつりそうになる。

 これはあれだ、子供の時梨花様に誤って怪我をさせてしまった時にとてつもなく怒った美衣様と同じ笑みだ。


「まあ、突然来たかと思えば私ではなく史様にお話ですのね」


 寂しそうに、それでいて仕方がないと笑って美衣様が言うと、他の新生徒会メンバーも笑みを浮かべる。

 あ、味方がいない気がしてきた。


「ごめんなさいお姉様。私、どうしても彩愛様のことで水上様にお話がございますの」

「あらまあ。そういうことでしたら準備室をお使いなさい、新生徒会になって徹底的に掃除と模様替えをしましたのよ」

「ありがとうございますわお姉様」


 美衣様の妹、乃衣様はそう言って準備室に入っていく。


「早くお行きなさいませ」

「いや、仕事が」

「まあ私の妹を待たせる気ですの?」


 美衣様の笑みに、ああこの姉妹は本当にそっくりだとしみじみと思う。

 しぶしぶといった感じに席を立つと、ミカルがヒラヒラと手を振ってくる。

 助けろと視線で言うが、にっこりと笑みを浮かべて「早く行け」と言われてしまった。

 準備室に入ると、ソファに座らずに乃衣様が待っていた。

 まずはソファに座るように言って、向かいのソファに座る。


「彩愛のことというと?」

「率直にお聞きいたします」

「うん?」

「水上様は彩愛様をどうしたいのですか」

「はイ?」


 しまった、驚きのあまり声が裏返ってしまった。


「ここのところ水上様と距離があるようだと彩愛様が寂しがっておられます。距離を置きたいのですか?」

「彩愛の年頃なら同い年の子たちと一緒に過ごす時間が多くなるものだろう?」

「言い訳ですわね」


 バッサリと切り捨てられてしまった。


「距離を置きたいのでしたらそう彩愛様にお伝えくださいませ。誕生日にあのようなプレゼントを贈っておきながら今のありようはあんまりですわ」


 誕生日プレゼント…。彩愛が欲しそうにしていた金細工の置物を俺なりにアレンジを加えて贈ったものか。

 何か問題があったのだろうか?彩愛はとても喜んでおり、部屋に大切に飾っているというが。


「……いやですわ、無意識ですのね」

「何か問題があっただろうか?」

「大ありですわ。あのような独占欲を周囲に知らしめるようなものを贈っておいて」

「独占欲…」

「鳥籠に菖蒲の花を入れ、水上様の目の色の蔦で鳥籠を覆うなんて、独占欲そのものではありませんか」


 そんなつもりはなかったのだが、そういえばあのプレゼントにはミカルから随分ニヤニヤとされたし、注文の際に御婆様や母の機嫌がこれでもかってぐらいに良かった。


「っ!」


 自分が贈ったプレゼントが周囲にどう見られているか今更ながら気が付き、史の顔が赤くなる。


「あれ、は…彩愛が綺麗と言って、口にはしないが欲しそうに見ていたから」

「彩愛様が?」


 そんな様子を見せられたことはない。ましてや鳥籠の置物を欲しそうに見るなど…。

 乃衣様が小さな声でつぶやくと、きっと史を見る。


「それで、水上様は結局彩愛様をどうなさりたいのですか」

「それは特に、今まで通りで」

「そういう割には距離が離れているのではありません事?私が見るに留学中のほうが連絡を密にしていたように感じましてよ」

「それは、忙しくて」

「また言い訳ですのね」


 そう言うと乃衣様は立ち上がる。


「ではよくお考え下さいませ。彩愛様が離れてもいいのか、他の殿方のものになってもいいのか」

「離れていくのは寂しいが、他の男のものになど、早いだろう?」


 磯部家との婚約だって期限付きのものだったぐらいだ。


「甘いですわ。私たちはすぐに大人の体になりますのよ。子をなすことが出来るようになって殿方と褥を交わすこともございますわ」


 言いながら恥ずかしいのか頬を染める乃衣様の言葉に史は首をかしげる。


「でも、彩愛はまだ子供だろう」

「……ああ、なるほど。そういうことですのね」


 何かを納得したように乃衣様が史を見る。


「わかりましたわ。では水上様お願いがございますの」

「なにかな?」

「彩愛様に必要最低限以上近づかないでくださいませ!水上様がご自覚なさるまで!」


 そう言って乃衣様は綺麗な礼をして準備室を出ていく。

 入れ替わりに美衣様とミカルが苦笑して入ってきた。


「格好悪いですわね史様」

「子供とはいえ流石アヤメの友人、末恐ろしい」


 おそらく万が一のことを考えて扉の前で聞いていたのだろう。


「俺は、何を自覚してないんだ?」

「私から教えては乃衣に嫌われてしまいますわね」

「僕から教えたら御爺様に怒られてしまうな」


 二人の苦笑の混じった言葉に、史は首をかしげるのであった。

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