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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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『彩愛、こちらのほうが良い』


 彩愛が今日の衣装を選んでいると、背後から白い手が伸びてワンピースを掴む。


「お久しぶりでございます、美の神」

『うむ。久しいの』


 そのままアクセサリーまでフルコーディネートを選ぶと、満足したのか美の神は彩愛を連れてソファに座る。

 膝の上に座らされ、頬を撫でられる。


「美の神?いかがなさいました?」

『いやなに。8歳の誕生日の祝いをせねばと思うてな』

「まあ…お気持ちだけでもうれしいですわ」

『うむ、どうしたものかの。………ふふ、そうじゃのう』


 美の神はそう言って彩愛の頬から指を這わせ唇に触れる。


『口吸いというものを教えてやろうか?』

「口吸い…」


 くふふ、と笑う美の神からわずかに身を引く彩愛に、美の神は冗談だと笑う。


『おぬしに勝手に手を出しては、他の神に何をされるかわからぬからの』


 そう言って唇から手を離すと、手を翻し、その手のひらには白金でできた円形の小ぶりのコンパクトがあった。

 美の神はその蓋を開く。中には桃色の紅が入っている。


『花蜜を固めた紅よ、今のおぬしにはこの色が似合いだろう。使用しても中身は減らぬよう呪い(まじない)をかけておいた故、遠慮なく使うとよい』


 指で紅を救い、彩愛の唇にのせて馴染ませる。


『うむ、良いの』


 紅のついた指を舐めて紅を落とし、ふたを閉めたコンパクトを彩愛の手の中に落とす。


「美の神、ありがとうございます」

『好い好い』


 お礼を言って、彩愛は手のひらにある紅を見る。


『ふふふ、まだほころび始めた蕾も美しいものよ。年を重ねればもっと色づくだろう』


 そう言って再び彩愛の頬を撫でる。

 この世の美を集めたといっていいような中世的な美貌の美の神は、彩愛の前では今のように男性体でいることが多い。


『我は美しいものが好きだ』

「存じておりますわ」

『お前は美しい。自信を持ちなさい』


 美の神の言葉に彩愛は頷き、美の神にもたれかかる。


「でも、子供ですわ」

『言っただろう。ほころび始めた蕾の美しさもまた良いものだ』


 だが、と美の神は彩愛の首筋から胸をたどって腹の上に手を置く。


『急いで開けば歪な美となる。急ぐことはない』


 そう言って美の神が彩愛の顔にその美貌を近づけると、急に美の神の顔が離れる。


『だからお主を彩愛に近づけとうないのだ』

『無粋だの、水の神』

「まあ水の神、ご機嫌よう」


 美の神の肩を掴んだ水の神に彩愛が声をかけると水の神は手を離し、彩愛を美の神の腕の中から持ち上げ自分の腕で抱える。


『なにもされておらぬな』

「8歳の祝いの品をいただきましたわ」

『ふむ』


 彩愛の手の中にあるコンパクトに目を落とし、次に美の神を見る。


『何もしておらぬだろうな』

『花の神監修のもと作ったから何もできないな』

『ならよい』


 二柱の会話に彩愛は首を傾げるが、その意味を教えてはくれなかった。

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