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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
57/109

056

「ジュール」


 皆森の客室を出たところで、リーリアが声をかける。

 話が終わるタイミングを見計らって待っていたのだろう。


「意地の悪い顔をして、フヒトをいじめてはアヤメに怒られてしまいますわ」

「ふん。少し灸をすえてやったのだ」

「あの子もまだ子供ですわね」

「まったくだな。自分がどれほど恵まれた環境なのか、今一度考え直せばよい」


 ジュールの言葉にリーリアは肩をすくめると、その上に自分の腕を絡めて会場へ戻る。


「年頃というものでしょう。リーシャのような情熱が受け継がれていればいいのですが」

「駆け落ちされてはかなわぬの」

「ほほほ」


 会場に戻れば、多くの人の視線が二人に集まる。

 今日の主役はアヤメだが、一番身分が高いのがジュールとリーリアだからだ。

 すぐに人が集まり、繋がりを作ろうとしてくる。

 ただ、今回集まっているのがミナモリの関係者が多いせいか、普段のパーティーよりはずっと少ない。

 ふとアヤメのほうに目を向ければ、友人だけではなくユングリングの一族の者が周囲を固めている。

 これが意味することになぜフヒトは気が付かないのか。

 フヒトに言ったことは嘘ではない。ユングリングはアヤメを手放す気はない。

 あいにくユングリング本家に血筋が近く、アヤメに釣り合う年齢の婚約者のいない男児がいないため、婚姻でユングリングに迎えることは難しい。

 だが、それならば別の方法を取ればいい。

 リーリアはその決断が早かった。

 アヤメが日本に帰るとなったとの時から、自分の個人財産をアヤメに生前贈与し始めた。

 名目は何でもよかった。誕生日祝いでも、日本のお年玉や節句の祝いとやらでも。

 少しずつ、少しずつアヤメを我が家に取り込んでいく。

 フヒトは知らないのだろうが、ユングリングの屋敷のある森の所有権は、7歳の誕生日を迎えた際に完全にアヤメに変更されている。

 屋敷も近々アヤメのものにする予定だ。

 ミナモリに後継者が生まれるのであれば遠慮することはない。


「ジュール御爺様」

「なんじゃ、アヤメ」


 涼やかな、それでいて子供特有の甘い声で呼ばれてリーリアと共にアヤメの傍に行く。


「見てくださいませ、綺麗でしょう」

「うむ、美しいの」


 プレゼントの開封をしていたアヤメは、アメジストで作られた花にサファイヤで作られた蔦を絡めて華奢な金細工の鳥籠に閉じ込めたものを持ち上げる。


「さて、誰からのプレゼントかの?」

「史お兄様ですわ」


 嬉しそうに言うアヤメにリーリアは「よかったですね」と言って頭を撫でる。

 それにしてもなんともまあ、無意識にしろ随分なことだとジュールは笑いをこらえる。

 鳥籠の中に入れられた花は確か「アヤメ」というのではなかっただろうか。

 ジュールから見ればバカらしい見栄を張って手放したのに、手放したはずの手にひもを付け、離すまいと必死な子供だ。


「一番気に入ったようだな」

「えっと、どれも素敵な贈り物ですわ」


 神の加護を持ち寵愛を受ける自覚を持っているため、自分の意思を表にほとんど出せない哀れな子。

 ぐずぐずするのであれば、本当に手遅れになるだろうに。

 ジュールはひ孫の未来がおもしろくて仕方がないと、アヤメに見えない角度で腹黒い笑みを浮かべた。

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