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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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053

「そうですか…ええ、続けて追跡をしてください」


 通話を終えてスマートフォンをポケットにしまう。

 聞いていて気分のいいものではない報告に、誰にも見られていないことを確認して額に手を当てる。

 佐藤妃花、婚姻して飯近妃花となった彼女は本当に厄介事しか起こさない。

 このまま大人しく飯近京一郎様に軟禁されればいいのに、どういうわけか学園に通い続けている。

 自分たちのような上流階級と言われるものたちならいざ知らず、今や庶民となった飯近京一郎様の妻で身重なのに、何を考えて学園に通っているのか。


(ほんとうに、子供の父親が飯近京一郎様であればいいけれど)


 皆森様達には伝えていないが、彼女が体の関係を持っていたのは一人ではない。

 磯部様や水上様、ユングリング様はその毒牙から逃れているようだけれども、彼女の取り巻きは等しく体の関係を持っている。

 格上の家の子息から隠れての情事はさぞかし盛り上がったのだろう。

 隠れた恋人ごっこは彼女の怪我を機に崩壊した。

 佐藤妃花は知らなかったのだろう、篠上京一郎の執着を。

 今まで愛を知らなかった男が初めて愛を知ったのだ。吉賀麗奈様という犠牲を払ってまで手に入れたいと、そう思った愛だ。

 彼は愚かだが馬鹿ではない。自分がどれほど愚かなことをしているかわかっている。

 わかってわざと佐藤妃花の周囲の環境を悪くさせている。

 最後に残るのが自分だけになるように、他の誰も彼女に手を差し伸べないように、愚かな行いを続ける。

 彼は、婚約者だけじゃなく両親と友人、そして自身の未来を捨てた。

 そうしてまで手に入れたいと思った彼から、佐藤妃花が逃れられるわけがない。

 彼女の両親にすら手をまわして彼女に援助が出来ないようにした。

 骨折は偶然だっただろうが、彼にとってはいい機会だったのだろう。

 二人だけでいいのだ。彼の世界には妃花という女性がいればいいのだろう。

 子供のことがどうなるかはわからない。


(気持ち悪い)


 あの男はきっと子供のことなどどうでもいい。

 最悪殺してしまうかもしれない。

 もしかしたら幸せな家庭を築くことになるかもしれない。


 こんな話は皆森様には伝えるわけにはいかない。

 まだ子供なのだから、まだ知らなくていいことなのだから。


 学園に通う飯近妃花の妊娠は、高等部の多くの人が知っている。

 なのに彼女のシンパはまだ彼女の傍に侍っている。

 それが飯近京一郎を刺激しているとも知らずに。

 彼女は毒花だ。あまったるい香りで獲物をひきつけ、取り込み溶かしてぐずぐずにしてしまう。

 取り巻きになった中では、風紀委員の方々はまだましなほうだろう。

 家の事業を餌にされたのだから、篠上家を引き合いに出せない今、彼らは少しずつ距離を置いている。

 そもそも皆森様を、その背後にいらっしゃる神々を煩わせているのだ、常識があれば彼女から距離を取って当然だ。

 それなのに、現生徒会の方々は抜け出せない泥沼にいるように、そしてそれに気が付いていないようで抜け出す気配すらない。


 見せなかった封筒の中の写真。そこには佐藤妃花と生徒会の方々との情事の姿が映し出されている。

 せめて飯近京一郎様のように室内でことに及べばいいのに、なぜわざわざ外でことに及ぶのか。

 スリルというものなのだろうか?私にはわからない感覚だ。

 皆森様の笑顔が曇るだけで、私は内心びくびくしてしまう。

 幼稚部は他から隔離されているといっていい。それは初等部からは別の学校に通うなどと、残る者が少ないからだ。

 それでも、皆森様は別格だった。『王花』のメンバーとなった挨拶に初等部を訪れたとき、あまりの神々しさに体が震えた。

 彼女のために用意され選ばれた学友も、皆森様ほどではないが恐ろしい潜在能力を秘めているとすぐに分かった。

 皆森様の学年にはもっと『王花』のメンバーがいたはずだった。

 だって各地の名家の子女が皆森様のために集められていたのだから。

 その中で選ばれたのがあの3人。そのほかの子は初等部に上がる際に転校していった。

 彼らの守りは固い。

 それでも、皆森様と同じまだ初等部の2年になったばかりの子供。

 汚いものはまだ見なくていい。まだ守られていればいい。


「園子様」


 長く席を外しているので友人が心配をして見に来てくれてらしい。


「大丈夫ですの?」

「ええ、問題ありませんわ」


 にっこりと笑みを浮かべる。何か思うところはあるようだが、それならよかったと彼女も笑みを浮かべてくれた。

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