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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
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047

「彩愛様、お聞きになりました?」

「なんでしょう?」

「佐藤様が篠上様とキスをしていたんですって」

「まあ」

「それも中庭で堂々とですって」

「まあ、……情熱的ですわね」


 美衣お姉様たちが初等部の『王花の間』を使用するようになってしばらく経つ。

 高等部の噂話は以前よりも精度を増して彩愛達の耳に入るようになったが、その噂のどれもがいいものではない。


「でもそれだけではないんですの」

「まだございますの?」

「篠上様以外ともキスなさったり、抱き合ってるのを見た方がいらっしゃるんですって」

「あら、……まあ」


 この噂には流石に絶句してしまう。

 ただでさえ複数人の男子を侍らせていることでふしだらと言われているのに、複数人とさらに親しくするとなれば風紀を乱す存在として風紀委員会が制裁を加えなければいけないだろう。


「ああ、高等部の風紀委員会はだめでしたわね」


 磯部様が風紀委員長を辞任してしまったため、風紀委員会は佐藤様のための組織に変わってしまっているという。


「『王花』も生徒会も風紀委員会もだめだなんて」

「やはりここは水上様にどうにかしていただくしかないのではありませんこと?」

「でも数の暴力で今の状態になっているわけだし」

「水上様は押しが足りないのですわ」

「お姉様が直接佐藤様に忠告なさったそうですが、複数の男性と関係を持つのはふしだらだといったとたんに泣き崩れてしまわれたらしく、お姉様がいわれのないことで佐藤様を責め立てたと篠上様に泣きついたとかで」

「高等部にとっては頭の痛い問題ですわね」


 彩愛達が肩をすくめていると、高学年のお姉様方が近寄ってくる。


「皆森様、お聞きになりました?」

「なんでしょう?」

「篠上家がついに篠上京一郎様を、ほとんど繋がりのない分家に養子にする決意をなさったんですって。て。家格は庶民とほぼ同じ、所有財産もほとんどないそうですわ」

「まあ」

「流石に庶民を篠上本家に入れるわけにもいきませんものねえ」

「しかもその庶民がアレですもの。甘いと有名なご両親でも流石に家に入れることはできなかったみたいですわ。もっと家格が上の分家は受け入れを拒否なさったんですって」

「先ほど皆様がお話ししてたキスの件、篠上様が分家に養子になると知った佐藤様が離れようとしたので、引き留めるためという話がありますのよ」

「あら、それではほかの方と親密という噂は…」

「篠上様から佐藤様が離れようとした結果ではないかしら」


 それを知った篠上様が強硬手段に出たのだと高学年のお姉様方はクスクスと笑う。


「それで、ここからが本題ですが」


 永楽様が手にしていた封筒から複数枚の写真を取り出す。

 その写真には佐藤様と篠上様達が抱き合っていたり、キスしている現場がしっかりと写されている。

 篠上様と、ではない。篠上様『たち』と親密な現場が写っているのだ。


「この調査を頼んだの、どなただと思います?」

「わかりませんわ」


 正確には、思い当たるフシがありすぎてわからなずに彩愛は首をかしげる。


「篠上京一郎様ですわ」

「まあ」

「あら」

「それは、篠上様が佐藤様を本気で娶ろうとしているということですか?」

「そうだと思いますわ」

「でも、結果がこれではねえ」


 クスリと永楽様は笑って写真を封筒に戻して彩愛に渡してくる。


「皆森家にも依頼されておりますので、これは皆森様にお渡しいたしますわ」


 皆森家や水上家など一人の人物に対して、複数の家や個人から依頼が来ているらしく、永楽様は佐藤様をいい商売品だという。

 篠上様が佐藤様の身辺調査をしたのは、高位の家格ではよくある事だ。

 自分の家に入る人物に問題があっては困るからだ。

 嫁に入る女性であれば、その交友関係は特に調査される。

 もし生まれた子供が自分の血を引いていないとなっては面倒だからだ。

 男性の場合でも、他に種を蒔かれていたとしたらたまったものではないので、嫁入り前に調査する人も少なくない。

 ほかの国では違う常識もあるだろうが、彩愛の住むこの国では貞淑であることが男女ともに良いとされている。

 彩愛達の年齢ではまだ言葉しか知らないが、花街というものが各地に存在し、そこ以外での風俗営業は厳しく罰せられる。

 その花街も、独特の規律がありそれを破る者がいればひどい制裁が下されるという。

 それにしても、この調査書を見た篠上様はどうなさるんだろうと、彩愛達は話に花を咲かせた。

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