042 2月
その日の午後、授業の終わった彩愛達何時ものように初等部の『王花の間』で寛いでいる。
今日飾られている花は梅の花で、各所の花器いに活けられている。
しかし、この日ばかりは梅の香りが用意されたお菓子の香りに負けてしまっている。
「今日はバレンタインデーですのね」
美琴様が今日のお菓子として用意された、一口大のチョコレートをつまんでクスリと笑う。
「ええ、ですから僕から皆様へ」
勇人がそう言って給仕に視線を向ければ、用意していたのであろうフラワーボックスが彩愛達に渡される。
「まあ!」
「素敵!」
ふたを開けてみれば、中央にはチョコレート色に加工された薔薇の花が置かれ、周囲を深紅の薔薇レースで飾っているものだった。
「ありがとうございます。でも先を越されてしまいましたわね」
「そうですわね」
クスクスと笑いながら、彩愛も給仕に視線を向ける。
すぐに給仕が動き、今度は勇人に綺麗にラッピングされた小ぶりな箱が渡された。
「私たちから勇人様へプレゼントですわ」
「ありがとうございます」
にこりと笑みを浮かべ、早速ラッピングを解いてふたを開ける勇人に、彩愛達はニコニコと笑顔を崩さない。
「わっ…」
「『G・A』が今年のバレンタインのためにチョコレート専門店とコラボレーションしたのですって」
「数量限定ですが、彩愛様が用意してくださいましたのよ」
「ありがとうございます」
「いいのですわ。喜んでいただけて何よりですもの」
勇人様は毎年ほかの女生徒から、数えきれないほどのチョコを贈られているので、彩愛達は相談して一緒に贈ることにしたのだ。
ほのぼのとした空気が流れる中、部屋の扉がノックされる。
すぐさま給仕が取次ぐと、ノックの主は史お兄様達のようで、彩愛はすぐに入室の許可を出す。
「ご機嫌よう史お兄様、ミカルお兄様、ノーマンディー様」
「やあ、彩愛」
「ご機嫌ようアヤメ」
「アヤメ様、お邪魔いたします」
今回も彩愛が席を立っても、史お兄様とミカルお兄様の間に手を引かれて座らされてしまう。
「それにしても日本の風習には困ったものだ」
「ふふ、追い掛け回されでもなさいまして?」
「特定の女生徒にね」
史お兄様は肩をすくめて、彩愛ように用意されたチョコレートをつまみ上げる。
「うん、うまい」
「史お兄様、はしたないですわ」
「だって注文はしたけど味の確認をしてなかったからね」
「あら…。今日のお菓子は史お兄様が?」
彩愛がそう言って給仕を見れば頷かれる。
「いつもお世話になってる皆に俺たちからの贈り物だ」
史の言葉に全員がお礼を言う。
「では私からも」
そう言って彩愛は給仕からチョコレートの入った箱を受け取り、史お兄様とミカルお兄様に渡す。
ノーマンディー様には給仕の人が渡してくれた。
「ワオ…」
「だよなあ」
ミカルお兄様と史お兄様の反応に彩愛が首をかしげる。
「アンネと同じものだ」
「あら、まあ…」
どうやらミカルお兄様の婚約者のアンネお姉様のプレゼントとかぶってしまったらしい。