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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
40/109

039 1月

『やめておけ』


 彩愛は靴を脱ごうとしていた手を止め、泉を見る。


『まあ、どうしてもというのなら止めぬがの』


 冬休み、彩愛は書類手続きや事務処理があるためユングリングの屋敷に来ている。

 水上家の用事があるため、史お兄様は今回の渡欧に同行せず、ミカルお兄様とノーマンディー様と一緒にパーティーの翌日にやってきた。

 パーティーではあの後、佐藤妃花が彩愛に足をかけられてその拍子に持っていたグラスの中身がドレスにかかってしまったと、篠上様達や史お兄様に泣きついたらしい。

 もっとも、彩愛のドレスの悲惨さを多くの生徒が見ているので、佐藤妃花にはあまり同情は集まらなかった。

 それでも、佐藤妃花が倒れたところを見たものが運悪くおらず、彩愛も早々に帰宅してしまったため、事実確認が出来ない状態だった。

 史は後日監視カメラを確認すると言ったらしいのだが、佐藤妃花がそこまでしなくてもいいと優しく言ったらしい。

 史からすぐに状況確認と心配する電話がかかってきたが、彩愛は自分の不注意だったとだけいって電話を切ってしまった。


『泉に入るのであれば火の神を呼ぼうか』

「……いえ、大丈夫ですわ、入りませんわ」


 彩愛は靴から手を放して、雪が積もる地面に座る。

 水の神は泉からいつの間にか彩愛の横に移動し、彩愛の頭を撫でる。


『私の愛しい子はなにか思い悩んでいるようじゃの』

「思い悩む…、そう、なのでしょうか?」

『我らがそなたの煩わしいものを廃してしまおうか』

「おやめくださいませ」


 彩愛はあきれたように水の神を見る。

 水の神は三つ編みに結われた彩愛の髪をほどいて、もう一度結いなおす。

 髪の間に氷の糸のようなものが編み込まれる。

 今日の彩愛の服装は黒い厚手のワンピースに薄桃色のコート、色を合わせた薄桃色のラビットファーがふんだんに使われたケープを着ており、フードの部分にはなぜかウサギの耳がつけられている。

 腰まである彩愛の髪7を結い終わったことで満足したのか、水の神は彩愛の髪から手を放す。


『心煩わせるものにまで慈悲をかける必要はないのではないか?』


 水の神の言葉に彩愛は無言を貫く。


『思い悩むことでそなたは一層美しくなるが、煩わしいものにまで思いを馳せるのは気に入らぬの』

「手を出してはだめですよ」

『あの時のように泣きじゃくられて拒否されてはたまらぬからの』

「あの時は、まだ赤子も同然でしたので」

『よいよい』

『ふん。水の神は彩愛に嫌われまいと必死なのじゃ』


 その声と同時に彩愛は真っ白なドレスとマントを羽織った美女の膝の上に抱き上げられる。


『氷の神、おぬしから預かった髪飾りはそのとおり彩愛にちゃんと渡しておるぞ』

「まあ、これは氷の神からでしたのね。ありがとうございます」

『うむ好い。のう彩愛、水の神はのおぬしを自分のものにしたいのじゃ』


 囲って甘やかして、依存させて溺愛して、水の神なしではいられないようにしたいのだと氷の神は笑う。


『じゃがおぬしは多くの神の愛し子。独占はできぬ。ゆえに水の神はおぬしを現世に留めておるのじゃよ』


 その言葉に彩愛は首をかしげる。


『自分のものに出来ぬのなら、いっそのこと誰のモノにもなれぬようにとしておるのじゃ』


 馬鹿じゃのうと笑う氷の神の言葉に、彩愛は水の神のほうを見る。

 だがそこにはすでに誰もおらず、彩愛は再び氷の神を見る。


『ふん。分が悪くなったので逃げたようじゃの、ハハハ』


 見た目は儚げな美人なのに豪快に笑う氷の神に、彩愛は困ったように笑みを浮かべる。


『なに、おぬしはやっと七つになったのじゃ。我らから見れば一瞬でも、人の目から見れば先は長い。もっと思い悩み美しさに磨きをかけてから我らのものになればよいのじゃ』


 だからくれぐれも、死ぬことはないとわかっているが冬の氷の張った泉に入ってくれるなと、氷の神は彩愛の頭を撫でた。

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