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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
36/109

035

「私の都合で遅くなってしまいましたし、夕食をお召し上がりになっていってくださいませ」

「ああ、それはありがたい」


 彩愛の提案に史はすぐに頷いて家に連絡を入れる。

 すると帰ってきていたらしい母に、明日が休日になるのでそのままお泊りするように言いつけられてしまう。


「流石にそれは彩愛も迷惑でしょう」

『大丈夫ですわよ。彩愛を毎日一人寝させるのはかわいそうでしてよ』


 その言葉に、改めてこの広い家に使用人はいるとはいえ彩愛一人で寝起きしているのだと思い知らされる。


『なんだったら私から彩愛にいいますわ』

「あ、いえ…少々お待ちを。…彩愛、母が今日はこちらで休むようにと言っているんだがいいだろうか?」

「もちろん大丈夫ですわ」


 史の言葉に彩愛は年相応の笑顔を浮かべ、使用人に客室の準備を申し付ける。


「彩愛もいいといってくれたので、今晩はこちらに泊まります」

『そうなさい。彩愛によろしくいってくださいね。あと明日の朝そちらに私も参りますので、くれぐれもよろしく伝えてくださいね』

「は?え?」


 向こう側から通話が切られ、音のしなくなったスマートフォンを史は凝視してしまう。


「史お兄様どうかなさいまして?」

「明日の朝、母がこちらに来ると」

「まあ!では沙良お母様の部屋も整えておきませんと」


 その言葉に、母専用の客室があることを初めて知る。

 よく遊びに来ているとは聞いているが、専用の客室まであるとは流石に思ってはいなかった。


「お嬢様、明日のご予定はいかがいたしましょう」

「沙良お母様がいらっしゃるのなら夕方までキャンセルしておいてくださいませ」

「かしこまりました。本日のレッスンも休止と連絡しておりますので、今夜はゆっくりとお休みください」

「ありがとう」

「ああ、歌唱のレッスンだったか?」

「ええそうですけれども、史お兄様がいらしてるんですもの、いいのですわ」


 彩愛はそう言ってにこにこと笑みを浮かべ、史の横に座り続けている。

 その様子に、いつもの彩愛が戻ったとほっとしてすっかり冷めてしまったが、カップに残っていた紅茶を飲み干した。


「あら、冷めていましたでしょう?私ったら気が利かなくて申し訳ありません」

「いや、冷めてもここの紅茶は美味しいから大丈夫だ」

「そうですの」


 そう言って彩愛はいつものようにホットミルクを飲む。

 彩愛は好んでホットミルクを飲む。その原因を知っている史は、毎回なんだか複雑な心境になってしまう。

 彩愛がホットミルクを愛飲する理由。それは高尚な理由や、夕霧勇人が思っているような神気に関係しているわけでもない。


「あー、あのな彩愛」

「はい」

「牛乳を飲んでも胸は簡単に大きくならないぞ」

「なっちがっ…そ、そんな理由で飲んでるわけでは。た、ただ栄養価が高いからっ」


 彩愛は慌ててそういうが、耳が真っ赤になっている。


「胸を大きくするなら男に揉んでもら…あー、いやなんでもない。えっと、豆乳とかがいいらしいぞ」

「豆乳…」


 史の言葉に彩愛は真剣な眼差しを向けてくる。


「あーっと、ホットミルクも栄養価が高いから飲み続けるのはいいことだと思うぞ」


 彩愛はコクコクと頷いて傍に立つ使用人に視線を向ける。

 使用人はなぜかものすごくいい笑顔で史と彩愛を見てから頷いたのだった。

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