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「水上様どうか私の参加を認めてください」
「水上様!このような女の言うことなど聞く必要はありませんわ!」
「ひどい!吉賀さんはどうしていつもそんなことを言うんですか!水上様聞きました?吉賀さんはいっつもこうして私をいじめるんです!」
『王花新嘗祭』当日、待機室の前から言い合いの声が聞こえて待機室にいる全員が顔をしかめる。
「高等部の方々、まだ揉めていらっしゃるのね」
「嫌だわ。ここまで声が聞こえて来ますわ」
「水上様にご迷惑をかけるだなんて…」
中等部の方々と初等部の高学年の方々が、控えめな声で外の騒ぎを非難する。
「僕たちからも言ってこようか」
「美衣から話は聞いているからね」
「流石に先輩にまで強く出れないだろう」
「そうね、麗奈は私のことを慕ってくれてましたもの」
大学部の方々が席を立ち、待機室の扉に手をかける。
『王花神嘗祭』のような事態にさせたくないと誰もが思っている。
彩愛はただ静かに目を閉じて、外の声に耳を傾ける。
大学部の方々が加勢したことで、吉賀様が安心したのか声の大きさが変わる。
「ひどい!みんなで私を悪者にしてっ」
「水上様!妃花を参加させればきっと豊穣の神も喜びます」
「何を根拠に仰っていますの」
「わ、私は皆のために!」
「皆?その皆様が貴女の参加を認めてませんのよ」
「み、皆は認めてくれてるでしょう!」
「はんっ貴女の取り巻きになった人だけじゃありませんか」
「私の友達になんてことを言うんですか!和臣君も何か言って!」
「和臣?まさか貴方まで篭絡されたんじゃないわよね!」
「俺は……佐藤の参加を認めない」
「和臣君?!どうして?昨日は参加してもいいって…」
「昨日?昨日ですって!?」
「麗奈、落ち着きなさい」
「いいえお姉様!和臣は昨日私との約束を用事があるといって破ったんですの」
「それは本当に用事が…」
「え、吉賀さんとの用事があったの?それなのに、ごめんなさい」
「妃花」
「和臣!貴方…」
「麗奈、違うんだ」
「何が違うのよ!こんな女に、こんな……こんな女に」
「水上様、このままでは埒が明かない」
「俺は何度も言っているように佐藤妃花の『王花新嘗祭』への参加に賛成しない」
「水上様、どうしてそんなこと言うんですか!」
「何度言っても聞かないのはあなた方だわ!」
待機の間に残されたのは子供だけ。クスクスと外の声を肴に笑いながら会話をする。
「嫌だな、痴話喧嘩になってるじゃないか」
「磯部様も遂に陥落したのか?」
「いったいどんな手段で殿方を篭絡しているのかしら」
「あの男の方がお好きそうなお体かしら」
「嫌だ、はしたのうございましてよ」
「あらいやだ、私ってば」
「ふふふ」
彩愛は手にしている扇子で自分を扇ぐ。
高等部の多数決で勝ってるとしても、『王花新嘗祭』の進行役を務める史お兄様が許可しない限り佐藤妃花の参加は認めらない。
それでもなお、諦めずにこうして当日まで参加を認めてもらおうと騒ぎ立てている。
話しによると、篠上様からこの日のためにと佐藤妃花に着物がプレゼントされたらしい。
帯には篠上家の家紋も入っているという話だ。
『彩愛、そろそろ豊穣の神が気を損ねてしまうぞ』
「限界ですのね」
彩愛はそう言って席を立つ。
大学部の先輩方が出ても解決しないのであれば、彩愛が出ていく以外ない。
史お兄様とミカルお兄様がいても止まらないのであれば、彩愛が出るしかない。
「彩愛様」
彩愛に続いて友人たちも席を立つ。
お兄様お姉様方の見守る中、彩愛は待機室の扉を開けた。