028 11月
「彩愛様、大変ですわ!」
「まあ乃衣様、どうなさいましたの?まずはお座りになって」
『王花の間』に入って来て早々に、顔をしかめて彩愛の傍に来た乃衣様に彩愛は首をかしげつつも飲み物を進める。
「今高等部のお姉様から連絡が来ましたの」
「まあ、美衣お姉様から」
「今度の『王花新嘗祭』に佐藤妃花様を参加させようと生徒会が動いているそうですの」
「あら、まあ…」
前回の反省を生かして、今回は事前に準備をしようとしているらしい。
「だが参加は無理だろう」
「高等部生徒会が申請しても他の方がお許しになりませんわ。もちろん私も」
「ええ、私もそう思っておりますわ。でも飯田様と野宮様が吉賀様派から佐藤様派になったと」
「まあ!」
「高等部風紀委員会は磯部様が委員長を務めておりますが、立場が悪くなっていると…」
「佐藤妃花様が、生徒会と風紀委員会を実質押さえたというわけだ」
「なんてこと…。たかが庶民に我が学園の高等部の二大勢力が掌握されるだなんて」
「なるほど。そこまでいくと確かに史お兄様でも抑え込むのは難しいかもしれませんわね」
「磯部様と吉賀様の仲もここのところ良好とはいいがたく、その隙を佐藤妃花様がつけこんでいるという話しもあるそうですわ」
「高等部のお姉様方には頭の痛い話ですわね」
「吉賀様の機嫌が悪く、ほかの『王花』の方々との衝突もあるとか」
そのせいで高等部全体の雰囲気も悪くなっているという。
生徒会を掌握してからというもの、佐藤妃花が我が物顔で行動していることも原因の一つらしい。
10月に一時期大人しくなっていたが、今月に入って再び尊大な態度をとっているらしい。
「そのような状態で『王花新嘗祭』をするなんて…」
「神がお許しになりませんわ」
「彩愛様どういたしましょう」
3人の視線を受けて彩愛は手に持っていた扇子を手にポンポンと当てて考える。
おそらく高等部の生徒会と風紀委員会は佐藤妃花の『王花新嘗祭』への参加を止めないだろう。
先月神の神罰が下ったことは、神事を欠席したからだと思っている。
実際そうなのだが、その原因となった佐藤妃花や生徒会メンバーを豊穣の神がそのまま参加させると考えている。
「高等部のことについて私が何かを言うことは出来かねます」
彩愛が采配を振るうことが出来るのは初等部の校舎やそれに付随する専門の施設のみだ。
共有の施設にも高位の家格の息女ということで、それなりに意思を反映させることはできるが絶対ではない。
「水上様やユングリング様に進言なさるのはいかがでしょう?」
「もう動いていらっしゃるんじゃないか?」
「『王花』のメンバーの総数から言えば、佐藤妃花様の参加を拒否することは可能でしょうが…」
「彩愛様、私はいやですわ。あのような不心得者が参加するなんて」
「豊穣の神の機嫌をまた悪くさせてしまうかもしれません」
「お姉様も動いてますが、水上様のご意思が確認できず困っているようですわ」
「私から史お兄様に今回の件をどうするか意思を確認いたしますわ」
溜息を吐きながら彩愛は扇子を動かしていた手を止めた。
彩愛から明確に史に希望を伝えれば、おそらくそのように動いてくれるのはわかりきっている。
だがそれをすることを彩愛は良しとしていない。
意思を明確に示せば史お兄様達が動く前に神が動く。
佐藤妃花の参加は、彩愛自身もよいこととは思っていない。
それにしても、と彩愛は思う。
佐藤妃花の人心掌握はすさまじいものがある。半年ほどで高位の家格の子息の大半を篭絡している。
まるでその人物が好む行動を知っているようだ。
『気になるか?』
「……」
『あれはお前にとってみれば些末なものだ』
「些末にしては、起こすことが大きくなりすぎですわね」
「彩愛様?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
「神が何かおっしゃっているのですか?」
「いえ、皆様のお気になさることではございませんわ」
「ならいいのですが…」
『すまぬな。おぬしが随分気に病んでいるようでの』
神の言葉に彩愛は今度こそ大きくため息を吐いた。




