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「あら、どうして貴女がこちらにいらしたのかしら」
「美衣様、この方までご招待なさったの?」
「いいえ、まさか」
「でしたらもしかしてですが、道に迷われたのではなくて?」
「そうですわね。今年から入学なさったからまだ慣れていらっしゃらないのかもしれませんわ」
中央校舎の中庭にある生け垣迷路の奥、『王花の間』に立ち入ることが出来る生徒が使うことを許されている東屋から聞こえてくる声に彩愛と琴美と乃衣は顔を見合わせる。
今日は彩愛の快気祝いにと、高等部にいる乃衣様のお姉様が東屋でのお茶会に誘ってくれたのだ。
3人は顔を見合わせて頷き合うと、生け垣迷路を進み、生け垣の木の間から東屋を覗き見る。
「あら、どうして黙ってらっしゃるの?何かおっしゃったら?」
「だって…」
「なにかしら?」
「今日はここで私のために…」
「あらいやだわ。数日前から今日のこの時間は私たちが使用すると申請しておりましてよ」
「勘違いじゃありませんこと?」
「勘違いなんかじゃっ。京一郎君達がっ」
「篠上様達ですの?今頃生徒会室にいらっしゃるのではなくて?」
「ええ確かそうですわ。だってご病気・・・の間にお休みになってたお仕事をなさってるはずですもの」
「ああ、佐藤様もご病気・・・が快癒されたそうですわね。よろしかったですわね」
高等部のお姉様方は誰も立ち上がることなく、それでいて佐藤妃花を見下している。
梨花お姉様がいない生徒会に、高等部のお姉様方が協力するはずもなく、病気・・の治療をしている間に溜まった仕事を片付けてくれる人は誰もいなかった。
10日間とはいえ、高等部の予算や施設の運営を担っている生徒会の仕事は多く、お姉様方の言う通り今頃仕事に追われているのだろう。
佐藤妃花の表情は見えないが、お姉様方の言葉に口を挟むことが出来ずに右手で拳を握っている。
「随分とお痩せになって」
「無理なダイエットは体に悪いですわよ」
ふふふ、とお姉様方の品のいい笑い声が聞こえてくる。
「違う…」
「あら、なんですの?」
「こんなの違う!」
佐藤妃花が突然叫びだす。
「今日は私の誕生日なのよ!皆がここで私の誕生日パーティーをしてくれるのよ!」
こんなのおかしいと叫んで髪をかきむしり始める姿に、お姉様方は驚いた表情を見せるが、目が笑っている。
「なんなのよ。今まで出てきもしなかったモブどもが偉そうにしてんじゃないわよ!」
「何をおっしゃってますの?」
「うるさいうるさいうるさい!」
もはや半狂乱に近い佐藤妃花にお姉様方悲しそうな、残念そうな表情を作る。
「……まだご病気のようですわ。お家に帰ってお休みになるといいですわ」
「そうですわね」
パンパンと、手が叩かれるとこの場で気配を殺していた給仕の人が佐藤妃花の前に立ち無言でその腕を掴む。
「なによっ!離しなさいよ!私を誰だと思ってるの!」
叫んで暴れる佐藤妃花をそのまま生け垣迷路の中に引っ張ってくる。
次第に近づいてくる声に乃衣と琴美が彩愛の前に出る。
給仕に引っ張られた佐藤妃花が彩愛達の前を通り過ぎる。
「あんたっ!」
佐藤妃花が彩愛に手を伸ばそうとするが、給仕の人に阻まれる。
「全部あんたのせいよ!あんたが悪いのよ!悪魔っバケモノ!」
叫び続ける佐藤妃花を彩愛達は呆然と見つめるしかできなかった。