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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
23/109

022 10月

 彩愛達の通う学園では10月に大きな行事が行われる。

 特に学園に通う初等部から大学部まで、高位の家格の子女が集まる『王花神嘗祭』。

 全員が正装に身を包み、五穀豊穣を神に感謝するのだ。

 初等部の参加者は彩愛を含めて9人、中等部から5人、高等部から14人、大学部から3人の参加となっている。

 留学生であっても参加の義務が発生するため、ミカルお兄様も参加となる。

 警護を担当している。ノーマンディー様は残念ながら家格の問題で参加することが出来ない。


「今年度の高等部、『王花』のメンバーが多すぎではないでしょうか」

「そうですわね。まるで示し合わせたように」

「生徒会と風紀委員に分けざるえなかったとか」

「留学生もいらっしゃるとは言え、ねえ」

「でも、お家の格はそれほどでもありませんわ」

「水上様やユングリング様がいらっしゃらなかったら、ねえ」

「去年は月影様がいらっしゃったので面目も保ててましたけど、ねえ」


 待合所でクスクスと会話する中等部のお姉様方の会話に、彩愛達はクスリと笑みを浮かべる。

 梨花お姉様の次に家格が高いのは篠上様だが、水上家やユングリング家には遠く及ばず、皆森の家よりも下。

 もし史お兄様の帰国とミカルお兄様の留学がなければ、この『王花神嘗祭』の上座は彩愛が座ることになっただろう。

 高等部には乃衣の姉も在籍しているが、家格は高の下。

 今は初等部と中等部の『王花』のメンバーしかいない。高等部のメンバーは講義の都合でまだ来ていない。


「……彩愛様の御召し物、先ほども言わせていただきましたが素敵ですわね」

「臙脂の生地に流水と撫子でいらっしゃいますわね」

「ええ、今日のためにとお母様が用意してくださいましたの」

「すばらしいね。彩愛様の肌の白さと艶やかな御髪を引き立てている」

「まあ、勇人様はお口がお上手ですわね」

「ありのままを伝えただけですよ」


 ふふふ、と笑いあう初等部の低学年組を高学年組と中等部のメンバーが温かく見守る。

 幼いながらも、その凛としたた佇まいはさすがと言えるものだった。

 4月の時点では彩愛がこの『王花神嘗祭』を取り仕切るはずだったか、史お兄様の帰国によりその役を下された。

 家格でいえばユングリング家のほうが上なのだが、日本の伝統行事や祝詞をまだよくわかっていないため、史お兄様が仕切ることとなった。

 今年度が初参加の彩愛達は家の人が用意した正装に身を包んでいるが、彩愛の友人たちは共通した装飾品を身に着けている。

 それは竜胆の根付。これは初等部の『王花の間』の彩愛がいつも座っている席に置かれていたもので、給仕の人が触れることが出来ずにそのまま置いておいたものだ。

 神からの賜りものだという彩愛に、3人は顔を見合わせて恭しく受け取った。


「高等部の方々遅くありません事?」

「準備に時間がかかってるかもしれませんが、いくらなんでもねえ」


 確かに、開始まであと30分ほどとなっている。

 大学部の方々が先ほど待機室に入室してきており、静かに開始を待っている。

 高等部の授業はすでに終わっている時刻で、準備時間があるとはいえ、流石にそろそろこの待機室に顔を出しているはずの時間だ。

 そこに教師が入ってきて彩愛に近づいて耳打ちする。


「一般生徒が参加させろと言い出しまして、それを許可するという方々と反対する方々で揉めております」

「まあ…なんということ」

「現在水上様とユングリング様が対応に出ておられますが、収集が付かず最悪の場合高等部の方々はご欠席の可能性が」

「この神嘗祭を中止するわけには参りませんものね。史お兄様に伝言を」

「はい」

「あまり神をお待たせするのは不敬になってしまいます。いち早いご判断を、と」

「かしこまりました」


 扇子で口元を隠し声をおさえてはていたが、こちらに聞き耳を立てていたこの部屋の全員に今の情報が伝わってしまっただろう。

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