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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
22/109

021

 学園の食堂に向かうと、給仕の人にいつもの一番いい席に案内される。

 現在は史お兄様達が使用する権利のある席なのだが、史お兄様達の希望で一緒に食事をしているための待遇だ。

 席に座って配膳される様子をいつものように見ていると、高等部の生徒が食堂にやってくる。

 お互いの席は見えないが、大きな声が聞こえてきてしまうのはいつもと変わらない。

 だから、彩愛達の耳に強制転移のショックで学園を休んでいたが、本日から復帰した吉賀麗奈達の話声も聞こえてきてしまう。


「ですから水上様からもおっしゃってくださいませ」

「そうですよ。いくら神の加護を受けているからといってあんなことをするなんて、常識外れにもほどがある」

「うぬぼれているんじゃないか?水上様が戻ってくるまで女王にでもなったような振る舞いだったし」

「子供が権力を持つとろくなことがない。水上様から厳しく言われれば身の程を知るでしょう」


 聞こえてくる会話に友人たちの表情が厳しいものになっていく。


「私、本当に死んでしまうかと思いましたのよ」

「それは大変だったね」

「わかってくださいますのね。水上様はやはり良識のある方ですわ。あの庶民の女生徒の色香にも動じませんものね」

「ユングリング様も彩愛のような子供の子守り、家の都合とはいえご迷惑でしょう」

「君がアヤメを呼び捨てにする権利はないはずだが?以前は不相応にも婚約者だったようだが今は違うのだろう」

「あ、いや…。そうですね」

「和臣は短い間とはいえ皆森様の御守をしてたんですわ。優しいから今でもつい以前のように親しく接してしまうんです」


 吉賀様の言葉に紫呉様が席を立とうとしたので視線を向けて止める。

 配膳をしている方が視線でどうするか聞いてくるので、軽く首を振って特に何かをするつもりはない意志を伝える。


「彩愛は今この学園で第三位の地位にいる。君達は分をわきまえるべきだよ」

「優しいから以前のように親しく接するという意味が分からないね。もう少しわかりやすい日本語で言ってもらいたいものだ」

「ミカルそう言ってやるな。自覚がないんだ」

「おやおや。日本の子供は優れているのにティーンエイジャーはそうでもないのかい?」

「英才教育を受けているか、受けていないかの差かもしれないな」


 ははは、と笑いながら史お兄様たちがこちらにやってくる。

 彩愛が困ったような顔で3人を迎え入れると、彩愛を挟むように二人が席に着き、ノーマンディー様は友人たちの横に座る。

 史の希望で以前は4人席だったこのテーブルは、今は8人座れるテーブルに変更されている。


「今日のメニューは鴨胸肉だっけ」

「ええ、魚料理は鯛と桜エビですわ」

「デザートのコンポートは梨か。うん、いいね」


 先ほどの吉賀様達との会話などなかったように、いつも通りの史お兄様たちに友人たちが視線を向けるが、特に反応はない。

 配膳が終わり、アミューズを口にしようとした瞬間、甲高い声が聞こえて手が止まる。


「ちょっと話があるだけなんだから、通してくれてもいいじゃないですか」


 声は佐藤妃花のものだろう。

 この2階席に入りたいと給仕の者に駄々をこねているらしい。

 高等部生徒会の方々は本日も欠席しているとの情報なので、もしかしたら一人で来ているのかもしれない。


「なんですの貴女!ここは貴女のような庶民が入れる場所ではありませんのよ」


 吉賀様が声を聞きつけて対応に向かったらしい。


「また騒がしい食事になりそうですわね」

「品のないこと」


 彩愛の言葉に友人たちが頷いて、それぞれ止まっていた手を動かす。


「だから、少し話があるだけなんです。吉賀さんには関係ないじゃないですか」

「ここに貴女がいること自体が相応しくないと言っているのです。庶民は庶民らしく一階で召し上がりなさいませ」

「じゃあ他の人に連れてこられたらいいんですよね。京一郎君と一緒に前はこれたもの」

「まあ!篠上様は随分貴女に甘くていらっしゃるのね。けれど皆森様の御怒りを買って二階に出入り禁止になったのでしょう。当然ですわね」

「そんなの、水上様やユングリング様にお願いすれば済む話しじゃないですか」

「なんてこと。貴女あのお二人の手を煩わせる御つもりですの?嫌だわずうずうしい」


 出てきた二人の名前に視線を向けるが、まるで聞こえていないかのように静かに手を動かし食事を続けている。


「鴨肉は彩愛は好んでいたよね。一切れあげよう」

「……」

「俺の鱧も半分あげるよ」

「お二人とも、私そんなに大食いに見えているのでしょうか」

「いやいや。代わりにデザートを半分分けてくれればいいさ」

「前菜のオマール海老のポワレを半分分けてほしいかな」

「お行儀の悪い。お家の方に知られれば怒られてしまいますわよ」

「それは困る。あきらめようかミカル」

「そうだね。マナーレッスンをまた一から始められては大変だ」


 もともと冗談だったのだろう。すぐさまクスリと笑ってそれぞれ食事を再開する。

 佐藤様と吉賀様の言い合いはさらに大きな声になってきているが、数名の給仕の人が動き出したので最悪二人とも追い出されることになるのだろう。

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