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神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
19/109

018

「フヒト、わかってるの?」

「わかってますよ御婆様」


 始業式の日、学園から戻ってすぐに御婆様と母に捕まってしまい、談話室に連行されてしまう。

 内容はいつものように俺の婚約者についてだ。

 彩愛が婚約破棄をしてフリーになった日から、彩愛を婚約者にしてはどうかと何度も言われている。


「モアだってユングリングの一族の中でアヤメの婚約者になれそうな子を選定中だというじゃない」

「そうなのか?」


 横で優雅に紅茶を飲んでいるミカルに声をかければ、品よく音を立てずにカップを置いて頷く。

 留学中で見慣れたが、幼いころから見れば見るほど女子の好きそうな容姿だ。


「あいにく本家には近い年齢の男子がいないのでね、選定は難航しているらしいよ」

「一定の年齢になれば婚約者がすでにいるだろうしな」

「そうだね」


 ユングリングの一族は女系ではないが、女子の出産率が高い。

 男子が生まれないわけではないので跡取りに困ったことはないらしいが、彩愛に似合う年齢の男子がいないのだろう。


「アヤメが一度婚約してしまったことで一度諦めたのも選定が進まない理由だね」


 腹立たしいが彩愛が一度婚約していたという事実は消せない。

 色々事情があっての婚約だったらしいが、その婚約のせいでユングリング側の候補者が幼馴染の女の子と婚約を結んだらしい。

 まあ実際のところ、候補者といわれて引き合わされても彩愛は頷かなかっただろう。

 元候補者は今の婚約者と昔から相思相愛だ。

 彩愛もそのことを知っているし、相手の女の子とも仲良くしている。


「フヒトは婚約者がいないしチャンスなのよ」

「私もお母様に賛成です。彩愛をぜひ我が家にお迎えしたいわ」


 御婆様も母も彩愛を溺愛しているので、自分の義娘・孫嫁にしたいのだろうが、ひい御婆様の溺愛具合も相当だ。

 これには彩愛がユングリングの家で生まれたことに関係しているのだろう。

 仕事で身重ながら北欧に滞在していた彩愛の母親が急に体が不調になり、御婆様と母の紹介でユングリングの館で静養し、そのまま彩愛を出産したのだ。

 彩愛が生まれた瞬間、ユングリングの屋敷のある森全体が歓喜に満ち溢れたというのはひい御爺様の証言だ。

 産後の肥立ちが悪く、動けなかった母親と共に彩愛は2歳までユングリングの屋敷で過ごした。

 その後、体調の回復した母親と共に日本に帰国する際、ひい御婆様は本気で泣いて引き留めたという。


「聞いてますかフヒト」

「聞いてます。何度も言ってますけど俺はまだ誰とも婚約する気はないんです」

「俺?」

「っと、僕は」


 留学中に日本語を忘れないように読んでいた本や映画の影響で、自分のことを俺と呼称するのを母はよく思ってはいない。


「僕はフヒトはアヤメのために婚約者を作っていないのだと思っていたよ」

「まさか。お…僕はロリコンじゃないよ。彩愛のことはかわいいと思っているけどね」

「はん。たかが8歳差でロリコンとはね」


 御婆様が鼻で笑う。

 8歳差という数字だけ見れば確かになくはないが、15歳と7歳だと考えれば十分ロリコンだ。


「情けない。貴女は紫の上を知らないのですか」

「僕に光源氏のような女たらしになれというのですか?」

「誰がそのようなこと言っているのですか。好ましい女児を自分好みに育てることを言っているのです」

「彩愛は神の寵児ですよ?そんなことできるわけないじゃないですか」

「出来る出来ないではありません。するのです」

「サラ様は相変わらず押しが強いですね」

「私の娘だもの」


 母は双子の実兄にこの水上家の跡取りを押し付けられたにもかかわらず、事業を拡大させて今日の繁栄を維持している女傑だ。

 風の神の加護を持っている人物でもある。


「彩愛がもっと成長して大人の女性になったならともかく、僕は子供と婚約する気はありません」


 きっぱりというと御婆様と母が黙る。やっと理解してくれたのだろうか。


「あーあ」


 ミカルがそう言って呆れたような視線を向けて来るのは気になったが、これでしばらくは大人しくなってくれるだろう。

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