表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神へ捧げるカントゥス★  作者: 茄子
108/109

最終話

 初等部の卒業式の後、彩愛は中央校舎に飾られる絵の前に立っている。

 美琴様、乃衣様、勇人様も彩愛と共に渡欧することを随分前に決めており、一緒にあちらへ向かう。


「彩愛」


 名前を呼ばれて振り返る。グレーの仕立てのいいスーツを着た史お兄様に笑みを向ける。


「卒業おめでとう」


 ピンクの大きな薔薇の花束を持ってゆっくりと近づいてくる史お兄様を笑みを浮かべたまま待つ。


「あとがとうございますわ、史お兄様」


 受け取った薔薇の花束からはいい香りがする。

 腰に手をまわされエスコートされ中央校舎を出れば、卒業生が二列になって中央を開けて待っていてくれる。

 彩愛は本当の意味でこの学園を卒業する。

 北欧の上流階級が通う姉妹校に転校するのだ。

 これが最後と思うと涙がこぼれそうになる。長い間共に学んだ級友達。

 穏やかで、それでいて楽しい日々が多かった。


「……」


 何か言葉を話せば泣いてしまいそうで、ただただ深く頭を下げる。

 その瞬間聞こえるすすり泣きの声やおめでとうございますという声に、下を向いていたせいで涙が零れ落ち、地面に吸い込まれていく。


「皆様っ長いあい、だ。共に学べたことを、神にかんしゃっいたしま、すわ」


 もうこぼれたのだからと、震える声でそう言えばすすり泣きの声が大ききくなる。

 後ろからも聞こえるからきっと美琴様と乃衣様も、もしかしたら勇人様も泣いているのかもしれない。

 史お兄様が腰に回した手に力を籠め、歩き出すのに合わせて足を動かせば、左右からピンクの花びらが舞う。

 さようならではなく、行ってらっしゃいと言われる。

 涙を止められずに視界がぼやける。

 級友の後ろには先輩や後輩の方々の姿も見える。

 恵まれていると、神に感謝する。

 こんなにも優しい人に囲まれてこの日を迎えることが出来たことに感謝する。


 校門の前で立ち止まり、振り返ってもう一度深く、深く頭を下げる。


「皆森様!いってらっしゃいませ」

「私達こそ、貴女と過ごせた日々を神に感謝をいたします」

「いってらっしゃいませ皆森様、あちらでもどうぞお元気で」


 そんな優しい声にまた涙があふれる。


「いって、まいります」


 必死の思いで言った言葉に、全員がまた「いってらっしゃいませ」と言ってくれた。


 史お兄様にエスコートされた車の中で、涙の止まらない私に史お兄様が指で涙を救ってくれる。


「私は、幸せ者ですわ」

「うん」

「友人にも、級友にも、先輩にも後輩にも恵まれておりますわ」

「うん」

「幸せ、ですわ」


 そういって史お兄様の胸に抱き着いて涙を流す。


「向こうの生活もきっといいものになるよ」

「はい」


 史お兄様は彩愛を胸から離し、こぼれる涙を唇で吸い取る。


「ただ…」


 そこで史お兄様が真剣な声を出すので彩愛も姿勢を正して顔を見つめる。


「まだ彩愛と結婚出来ないのがつらい。早く初潮が来ればいいのに」


 その言葉に彩愛は思わず涙が止まり、まじまじと史お兄様を見て冷たい声で言う。


「なんかもう色々台無しですわ、史お兄様」










END 御子と共に紡ぐ未来。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ