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恋煩いと過去の恋と親友

 アオジョのキララ。

 それはこの最近噂されるようになった美少女の呼び名だ。

 ミルクティー色の長い髪には、ベージュ色のブレザー制服が良く似合う。


 俺は確認できなかったが、彼女の瞳は猫みたいに大きくて、猫みたいに瞳がキラキラ輝いて、猫みたいに意地悪そうに微笑むのだそうだ。


 ちくしょう、俺はどうして今まで彼女の存在を知らなかったんだ。

 俺が無理矢理吐かせた情報によると、正義感の強い彼女は弱き者が困っていると現れて、正義の鉄拳を人々に与えて去って行くのだという。


 この場合、弱き者は我がアンジュバイエル男子高等学校、通称あんばい校の生徒であり、鉄拳を与えられるのは原井川商工高校、通称ハラショーの生徒であろうというかそれしかない。

 俺は尋問を終えると取りあえず二年生三人を連行して駅まで連れていき、ハラショーの三人組とはメール友達となった。


 互いの喧騒の中でキララが現れたら、絶対に教え合うべし。


 そんな協定を結んだのだ。


 今のところ俺の前には現れないので、俺が彼女に再会するにはハラショーのあの三人が頼りとなるだろう。


「お~い。まどか!お腹が空いた!」


 俺は二階の窓を開けると、我が家の玄関前でスーパーの袋を掲げた俺の好きだった人がいた。

 俺はいつものように彼女に大声を上げた。


「またおばさんがご出奔ですか!」


「そう!ディナーショーだってさ。頼むよ!いい肉を買って来てやったぞお!すき焼き!すき焼きしようよ!」


 俺は窓の下を見下ろして、彼女への気持ちが無くなっていて良かったと、今更に溜息を吐いた。

 蛍さんは、家事全般が苦手な人なのだ。

 俺は部屋を出て玄関に降りていくと、もうすでに蛍の姿はそこにいなかった。

 俺は勝手知ったると洙田家の家に玄関を開けて入り、そのまま洙田家の台所に向かった。


 ダイニングテーブルの上には、蛍が俺に振って見せたスーパーの袋が置いてあり、袋の中には彼女が言った通りのいい肉のパックが入っていた。


「ほんっっっとに、料理の出来ない人は!肉と白菜だけですき焼きができるか!」


 洙田家の冷蔵庫を漁れば、豆腐とねぎはあるが白滝も春菊もエノキだって無い。


「で、すき焼きって無理だろ。ああ~肉すいにするか。」


 うどんスープみたいな汁を作り、そこに豆腐と一度湯がいた肉を入れて味をしみ込ませる。

 すき焼き風味の肉豆腐よりも簡単で、だし汁の旨みが強くて甘みが少なくさっぱりしているので、実は俺はこっちの方が好きである。

 本当の肉すいには白菜は入れないが、白菜のいい味も出るからと俺は白菜もそこに入れ、ねぎも軽く表面を焼いてからそこに入れた。


「おお!今日の飯は円か!お前が来てんならもっと早く帰ってくりゃ良かった。」


 俺を裏切ったかっての相棒が台所の戸口から飛び込んできて、そのまま俺の真横に立って俺が作った鍋の中を覗き込んだ。


「温泉卵乗せた白米にこれかけて食うと旨いんだよね!肉すい!にくすい!」


「お前の姉ちゃんはすき焼きをご所望だったがな。材料ねえし。」


「ひひ、奴の器だけ砂糖ぶちこみゃすき焼き味になんじゃね?」


 悪戯そうに紅月は俺を見上げた。

 男の癖に大きすぎる目や小さな鼻は、あのバジリスク蛍のかっての美貌を思い出させる配置であり、蛍よりも目が大きくて目尻が猫みたいに上がっているので、実は蛍よりも可愛らしいものでもある。

 俺は台布巾を紅月の額にべたっと押し付けた。


「うわっと。」


「食いたかったら台ぐらい拭いて手伝えよ。」


「姉ちゃんには相変わらず何もさせないのか!お前があいつを甘やかすっからさ、あいつはあんなふうな女になっちまったんじゃねえか!」


「意味わかんねえし!」


 紅月は俺の言う通りに素直に台を拭き始め、俺はそんな紅月を見つめながら、俺が会ったあの子に彼も出会った事があるのかと気が付いた。

 そうだ、紅月は恋愛をするために俺と道を別ったのだ。


 ごついの引き連れての集団登下校って、無理~って。


「おい、紅月。お前はアオジョのキララって知っているか?」


 がた。


 紅月は布巾を持つ手をぐきっと捻り、あからさまにバランスを崩した。

 なんてわかり易い馬鹿だ。

 俺は溜息を吐くとエプロンを外し、それをダイニングテーブルに掛けた。


「あ、あれ。帰るの?一緒に食べてかないの?」


「おんせん卵。お前が飯に乗せるって言ったんじゃんよ。うちにあるから取りに行くだけだよ。」


「さすが、円!高校になってからお前と遊べないから俺は本気で寂しいよ。」


「この口先男!」


 俺は言い返すと真っ直ぐに玄関に向かった。

 俺は確信して怒っていたのだ。

 紅月はキララちゃんを知っており、俺が明日から彼女を探そうと考えている通りに、彼こそ彼女を探してふらふらしていたに違いない、と。


「全く!何でも話せる親友同士だったんじゃないのかよ!」

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