恋バナどころか文鳥並みの威嚇行為をする状況
俺は自分の人の好さに呆れかえりながらも、死んでいないが存在を無視したいウザイ祖父の、ありがたいお言葉を思い出していた。
「情けは人の為ならずだ!」
「いや、結局は自分に帰って来るっていうけどさ、俺に帰ってくるわけなくねえ?だって、俺こそみなさまに頼られているだけじゃんか!」
駅に連れて行った同級生達は、俺がもう一度学校回りに行かねばならないと聞いたところで、誰も手伝うなども言わなかった。
全員が全員、また明日学校でね、とにこやかに去って行っただけである。
俺は学校への道を駆け戻りながら、いつも自分の隣を走っていた存在が無い事を寂しく感じていた。
体の大きな俺は直ぐに用心棒として頼られたが、小柄な紅月の方は誰にも凶暴性を知られていないからか完全に存在をスルーされていた。
それをいいことに、あいつは自分の道を行きたいと言い出して、用心棒となった俺と道を違えたのだ。
単に帰り道のルートを変えたというだけだが、一人だけ楽をしやがってと、俺の中では紅月への鬱憤が溜まっている。
「そうだよ!俺は喧嘩などしたくはなかった!中坊時代の喧嘩は、ぜんぶあのくそなめ茸野郎のせいじゃないか!そんでこんな状況なんだから、あいつこそ手助けしろよ!」
俺は叫んでいた。
そこでハッとして気が付いた。
「あ、あいつはそのあだ名が嫌だったか!」
中坊時代の俺達は黒茸なめ茸と呼ばれていた。
俺は苗字そのままでしかないが、洙田と言う苗字の彼がなめ茸と呼ばれるのはかなり憤懣やるかたない事だったのでは無いだろうか。
「そうだよなあ。なめ茸は無いよな。なめ茸だぜ。ははは。俺が黒茸のままで、あいつがなめ茸なのは、相手もわかっていたんだなあ。喧嘩を売るのはいつも糞なめ茸野郎の方だってなあ。」
最後の一言だけ強めに言って、俺は裏路地に一歩踏み入れた。
黒い学ラン姿の青年が三人、俺が探していた三人の先輩方を地面に座りこませている現場だった。
丁度、我らが学校、私立アンジュバイエル男子高等学校の紋章が刺繍されている通学鞄を逆さにしたばかりの真ん中の男が俺に振り向き、俺の制服を見て自分の脅している生徒と同じ学校の人間だと知りニヤリと笑った。
「失せな。見物料を払ってからな!」
「失せんのはてめえだよ。俺を呼んだ出演料を払ってからだがなあ!」
俺は中坊時代の脅しの声をだしながら一歩前に出た。
すると、真っ赤な髪を顎ぐらいの長さに伸ばしてるそいつは、三人組のリーダーなのか俺へと一歩踏み出して俺に凄んで見せた。
「ああ?」
「ああ?」
俺も同じようにして返したが、いつも自分はこの動作をしながら思う。
祖父が飼っている文鳥が互いを威嚇し合う時の動きと同じだなと。
小鳥さん並みかよと、実に俺の内面にダメージを与える動作でもある。
「邪魔すんなよ?デカブツが!」
「そっちもこっちの登下校を邪魔しないでくれっかな。で、いくらもぎったんよ?それらは全部返して貰いましょうか?ああ?」
「てめえ、ふざけやがって。」
俺を威嚇している男は腕を俺に振り上げたが、俺はその腕を自分の腕を盾にして簡単に防いでみせた。
鈍い音がして、相手の方が自分の腕の痛みに腕を簡単に引いた。
赤髪の仲間の二人が、自分の仲間が腕を抱えたところを目にして、一斉に俺に脅えた視線を向けた。