今日も受難な高校生
俺、黒茸円には、腐れ縁の幼馴染がいる。
小学四年の時に自宅の隣の空き地に家が建ち、そこに越してきたのがその腐れ縁野郎、洙田紅月だ。
名前からしてキラキラしている彼は小柄で可愛い顔をしていたが、彼を舐めた奴は確実に地面に沈められるという、物凄く凶暴な人でもあった。
平和を愛する俺は彼を宥め喧嘩を仲裁するのが日課となり、気が付けば、紅月と俺は町では知らない人がいない乱暴者となっていた。
中三のある日、紅月は俺に言った。
「俺、やり直したい。彼女とかいる平和な世界に行きたい。」
俺は紅月に言い返していた。
「俺もだよ。」
よって、俺達は俺達を知らない町に進学して平和なリア充になろうと誓いあい、喧嘩心を封印し、猛勉強をして、隣町のお坊ちゃま校に進学したのである。
その学校の隣に荒れたヤンキー校があり、お坊ちゃま校だからとカツアゲのカモにされているとは全く知らずに。
畜生、リサーチ不足だったぜ。
いや、俺達よりも四つ年上の紅月の姉、蛍に頼ったのが間違いだった。
俺の小学校時代から中二まで俺の初恋であったあの人は、黒髪に白い肌というライトノベルのヒロインみたいな楚々とした外見だったくせに、今や目があったら石化してしまうバジリスクに変化してしまったのだ。
長い黒髪はベリーショートなザンバラに切り刻まれ、それでも許せないというぐらいに真っ白に色を抜かれ、さらに青や緑に輝く偏光カラー剤で染められている。
一体彼女に何があったのか。
美術系大学は人を作り替えてしまう程に恐ろしい場所なのか?
「黒茸さん、か、帰りませんか!」
俺におどおどと敬語で喋りかけてくるのは、同級生の同年齢のはずの少年だ。
俺の円という名前を呼び捨てするのは紅月だけとなり、誰も彼も俺を黒茸さんと呼んで頼って縋って来るのはどういうことか。
俺は入学した一週間目にして、クラスメイト達の登下校の用心棒にされてしまったのである。
高校生の癖に、二十人ぐらいでぞろぞろ歩いて学校あるいは駅に向かうという、町の名物と化したらしい集団登校班が出来てしまった。
俺は物悲しくなりながらもクラスメイト達を誘導しながら歩き、保育園の保母さんのようにして長い行列となっている後ろの方へと振り向いた。
「はい。全員いるか?五十メートル先の信号は短いからな。渡り切れなかったらちゃんと待っているから無理するなよ!」
俺以外の十九人が、はーいと野太い声で幼稚園児のような返事を上げた。
大丈夫か?
俺が風邪で学校を休んだらどうなるんだ?
毎日が不安だらけである。
ところが、今日に限って問題が起きた。
駅まで誘導したそこで、俺のスマートフォンに学校から電話がかかって来たのである。
「はい。黒茸です。」
「黒茸君!今どこ!僕は二年四組の担任の下高井です!」
「え、駅ですが。え?二年の先生が、何か?」
「うわあ!良かった。僕の生徒が迷子になっちゃったらしいんだ。お願い。二年四組の武田君と前沢君と藤平君を探してくれない?原井川商工高校の近くの裏路地とかで!」
「先生が探しても見つからなければ警察の方が!」
「ぼ、僕がそ、そそそんな、えええと、た、他校の生徒達ともめるような事をしちゃったら!」
「――探されてもいないのですね。わかりました。」
俺は目がしらに手を当てた。
中学時代よりも俺の状況は悪化しているじゃないか。